貧困戦争(読み)ひんこんせんそう(英語表記)war on poverty

改訂新版 世界大百科事典 「貧困戦争」の意味・わかりやすい解説

貧困戦争 (ひんこんせんそう)
war on poverty

1960年代,世界で最も豊かな国アメリカにも貧困が多く存在し,しかもそれが地域的に集中していることがわかり(貧困の再発見),アメリカ国民に衝撃を与えた。この貧困地区を撲滅するためにケネディ大統領のもとで準備され,その暗殺の翌64年にジョンソン大統領によって宣言され実施された諸活動を〈貧困戦争〉と呼ぶ。具体的には同年の経済機会法に基づいて,地域活動Community Action Program(CAP)を打ち出し,経済機会局Office of Economic Opportunity(OEO)によってあらゆる人的・物的資源を動員し,特定コミュニティに集中した貧困を,その根源から断ち切ろうというのである。貧困がもはやその地域の問題となりえないような水準まで高める,というこの運動の焦点は,物質的欠乏と社会的堕落が無限に続くと思われるいくつかの貧困地域と黒人街をとり上げ,教育訓練に対する機会,就職の機会,品位威厳のなかで生活する機会をそのあらゆる人々に享受させることによって,そのコミュニティを転換,蘇生させよう,ということにあった。そのための方策の第1は,雇用職業訓練保健,教育などの特定問題を取り扱う諸計画(たとえば職業訓練部隊Job Corps,幼児補償教育Head Startその他)であり,第2は前述のCAPによる,コミュニティのすべての問題に対するすべての居住者最大限の政策的参加の奨励であって,ボランティア動員Volunteers in Service to America(VISTA)と相まって,そのコミュニティの運営と生活とを根本的に変革しよう,ということであった。この貧困戦争は必ずしも成功したとはいえないが,貧困者の権利意識に与えた影響は計り知れない。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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