販女(読み)ひさぎめ

改訂新版 世界大百科事典 「販女」の意味・わかりやすい解説

販女 (ひさぎめ)

女性の行商人をいう。女性と市や商業との関係は古くから密接で,〈ひさぎめ〉の名は《和名抄》にもみえる。また《今昔物語集》巻三十一には酒に酔ってへどで汚した売物の〈鮨鮎〉をそのまま売り歩く〈販婦〉の話がある。漁村では,夫が漁により得た魚介を,妻が近隣の農村や町へ売り歩くことが多かった。これらの行商婦人を,その運搬の姿から,イタダキササゲカベリショイカゴボテカツギッコオタタなどと呼ぶところが多かった。これらのなかには,地域をあげて,より広範な行商活動に従事するものもいくつかあった。たとえば,徳島県海部郡由岐町(現,美波町)では,頭上運搬をさすイタダキの名で有名であるが,ここでは,初期の近在回りから,後に紀州回りや瀬戸行き,あるいは祖谷(いや)地方にまでササゲ売りに行くようになり,さらに明治中期ころからは,単に自家の海産物だけでなく北海道や他国の昆布,イリコ,雑貨,呉服なども商品とし,関東,東北,日本海沿岸,朝鮮半島や中国大陸にまで商圏を拡大したものもあった。また愛媛県伊予郡松前町のオタタも由岐町のイタダキと同様な経過をたどり発展したし,規模はやや小さいが,石川県輪島市舳倉(へくら)島海女灘回りや,山形県の飛島の五月船なども,大きな行商圏をもつものとして有名である。また,漁村の販女ではないが,京都大原の薪や柴を売る大原女(おはらめ)なども女行商人として古くより有名である。
市女 →桂女 →行商
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の販女の言及

【市女】より

…平安末期に流行した装飾経の一つ,〈扇面法華経冊子〉の下絵に,市女笠をかぶった市女らしい女性が,京の町に並ぶ店頭に立ち寄っている姿が活写されている。古文献にみられる販女(販婦)(ひさぎめ)は,市女が公的性格を失ったのちも,営みつづけたと思われる女性行商人のことである。もっとも,販女は必ずしも市女の系統をひくとはかぎらず,海人の妻女などもいたであろう。…

【行商】より

…生産事情を異にする地域,とくに沿海漁村と農・山村間の物資の交易は,行商発生の基本的要因である。古来,行商人は婦人が多く,古典にも販女(ひさぎめ),販婦(ひさぎめ)の名で記された。徳島県海部郡阿部村(現,由岐町)の婦人行商はイタダキ(頭上運搬にもとづく呼称)の名で知られ,カネリ(山口・島根両県),ササゲ,ボテフリ,カタギ,ザルなど,運搬法が行商人の呼称となっている点が注目される。…

※「販女」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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