改訂新版 世界大百科事典 「費用-便益分析」の意味・わかりやすい解説
費用-便益分析 (ひようべんえきぶんせき)
cost-benefit analysis
公共事業(あるいは一般的に公共支出)を行う場合に,その費用とそれらのもたらす社会的便益を貨幣タームであらわし,両者を対比させて,それらの事業(支出)の効率性を測定する分析手法。コスト・ベネフィット分析ともいう。推定された社会的便益が費用を上まわっていれば,その事業(支出)の実行は社会的に望ましいと判断される。いろいろな公共事業(支出)に向けられる総予算額には限度があるが,この場合,社会的便益が費用を超過する額の大きいものから順に採用していく。
一般の私企業が生産し,市場で販売する財・サービスについては,企業が適正な利潤を得て経営されていれば,それの生み出す社会的便益は費用を上まわっている。これに対して,一般道路や堤防,ダムなどの生み出すサービスの大部分は,市場では取引されない。しかしながら,それらのもたらす社会的便益や費用を評価せずに,事業を実行してしまえば,社会的に大きな浪費をすることになりかねない。このようなむだをできるだけ小さくするために,公共事業(支出)について,その社会的便益と費用を推定することが必要になるのである。費用と便益の評価方法について,ダムを例にとると,ダムの社会的便益は,洪水の防止による農地・山林・家屋の被害額の減少,灌漑(かんがい)による農産物の増収,飲料水・工業用水の増加額などが評価できる。他方それの費用は,ダムの建設費と維持管理費,水没する農地・山林・家屋の価値額などである。ダムの建設によって周囲の景観が損なわれるようなことがあれば,その評価額も費用の中に含まれる。
公共事業によっては,便益を把握することが困難なものも多い。また,便益の把握はできても,それを貨幣タームであらわすことが困難な場合もしばしばある。たとえば,防衛力の整備は外国からの攻撃を抑止することを目的としているが,その便益を貨幣タームで評価することは困難であり,しいて行うとしても恣意(しい)性はまぬかれず,その結果は信頼性をもちえない。このような貨幣タームでの便益の評価がきわめて困難な公共事業(支出)については,費用-効果分析cost-effectiveness analysisが適用される。これは,ある行政目的を達成するのに実行可能ないくつかの代替案を作成し,最も少ない費用で実行できるものを採用するというものである。
執筆者:奥野 信宏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報