贈与(読み)ぞうよ

精選版 日本国語大辞典 「贈与」の意味・読み・例文・類語

ぞう‐よ【贈与】

〘名〙
① 人に金品を贈ること。贈り与えること。また、そのもの。
東京日日新聞‐明治二六年(1893)一二月三〇日「金二百円を淳に贈与し」
大塩平八郎(1914)〈森鴎外〉附録「表紙右肩には『川辺文庫』の印がある。川辺御楯君が鈴木君に贈与したものださうである」
② 特にある者が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方がこれを受諾することによって成立する契約。〔仏和法律字彙(1886)〕 〔民法(明治二九年)(1896)〕

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デジタル大辞泉 「贈与」の意味・読み・例文・類語

ぞう‐よ【贈与】

[名](スル)
金品を人に贈ること。「現金を贈与する」
当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾することによって成立する契約。
[類語]贈る寄贈寄付贈答恵贈寄進勧進奉納奉加喜捨献金献納献本募金カンパ与えるつかわす取らせる授ける施す恵むくれる授与する賜与する付与する譲与する供与する提供する供給する給付する支給する給するあげる差し上げる供する恵与する

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改訂新版 世界大百科事典 「贈与」の意味・わかりやすい解説

贈与 (ぞうよ)

他人に無償で金銭・物品を与えることを一般に贈与というが,贈物の習慣・儀礼等は,〈贈物〉の項で詳述しているので,そちらを参照されたい。ここでは,法律関係に限定して説明する。

 当事者の一方が,ある財産を無償で相手方に与える意思を表示し,相手方がこれを受諾することにより効力を生じる契約(民法549条)を民法上,贈与という。季節の贈答,謝礼のための贈物はもとより,老後のめんどうをみてもらうための財産分けなど,なんらかの対価を期待する動機からなされたものであっても,それが単に動機にとどまって行為自体が無償であるかぎり,すべて贈与である。民法上の規定のうえでは,贈与は自己の財産を与える場合にかぎって成立するように書かれているが(549条),他人の財産を無償で与える契約であっても,贈与する者がその他人の財産をいったん自己に取得して与える債務を負担する契約として,有効に成立すると解されている。ただ,他人の財産を贈与するというのは,特別な場合であろうから,贈与者が自己の財産と誤信している場合が少なくなく,その場合には錯誤が問題となる余地がある。

贈与契約の成立によって,贈与する者(贈与者)は相手方(受贈者)に対して財産を無償で与える義務を負う。義務の履行がない場合には,受贈者は,契約の一般原則に従い履行を強制し,または損害賠償を請求できる。ただし,書面によらない贈与は,各当事者がこれを取り消すことができる(550条本文)ので,それだけ贈与契約の拘束力は弱くなっている。贈与は同情心等からなされることが多く,贈与した後になって贈与者の気持が変わることがあるので,意思の明確さを確保し,後日争いを防ぐのが,この規定の趣旨だと解されている。したがって書面による贈与とは,贈与者が財産を相手方に与える慎重な意思が,文書を通じて確実に看取できる程度の表現があれば足りる,と解される。書面によらない贈与であっても,履行が終わった部分については取り消すことができない(550条但書)。履行が終われば,贈与者の意思は明確であるから,その部分については取り消す必要がない,というのがその理由である。履行が終わるとは,動産については引渡し,不動産については登記または引渡しのいずれか一方がなされたことを意味する。

 贈与者は,贈与の目的である物または権利の瑕疵(かし)または欠缺けんけつ)につき担保責任を負わない(551条1項本文)。贈与は受贈者のみが利益を受ける無償行為であり,贈与者は,ある物や権利を与えることを約束したときには,その物に瑕疵があったり,権利がなかった場合でも,そのままの物あるいは有するだけの権利を与える意思があったと考えるのが普通だからというのが,担保責任を負わないとしている理由である。したがって,贈与者がとくに担保責任を負う旨を約束したときには,それに従うことになる。551条1項の規定により担保責任を負わない場合であっても,贈与者が瑕疵または欠缺を知っていながら受贈者に告げない場合には,贈与者は担保責任を負わなければならない(551条1項但書)。この場合の贈与者の行為は,受贈者に実際よりも過大な利益を与えたように思わせる詐欺に類したものであるから,というのが,その立法趣旨である(なお,572条参照)。

民法は,特殊の贈与について規定をおいている。

(1)負担付贈与 負担付贈与とは,老後のめんどうをみる約束の下に財産を与える場合のように,受贈者に一定の債務を負担させる(利益を受けるのは贈与者に限られず,第三者でも不特定多数の者でもよい)贈与契約をいう。負担付贈与は,受贈者が負担に任じる限度では贈与者の行為と対価的関係に立ち,有償契約に類するものとなるので,負担の限度で贈与者は担保責任を負う(551条2項)。また,対価的関係にたつので,双務契約に関する規定(同時履行の抗弁権危険負担)が準用される(553条)。

(2)定期贈与 定期贈与とは,毎月末に学資を与えるというように,一定の時期ごとになされる贈与である。この種の贈与は,贈与者または受贈者の死亡によって効力を失う(552条)。この種の贈与にあっては,当事者は死亡後も存続させるという意思をもっていないという推測に基づく規定である。

(3)死因贈与 死因贈与とは,贈与者が死亡したら財産を無償で与えるという趣旨の贈与契約である。贈与者の生前に締結された契約である点では,単独行為である遺贈と異なるが,被相続人の財産処分という点では遺贈に近いので,民法は,贈与の規定よりも遺贈の規定に従うと定めた(554条)。したがって,遺言の効力に関する規定は,性質に反しないかぎり準用されると解されているが,遺贈が単独行為であることによる規定は準用されない。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「贈与」の意味・わかりやすい解説

贈与
ぞうよ
gift; Schenkung

一方の当事者が一定の財産を無償で相手方に与える契約 (民法 549) 。目的の財産は財産権のほか債務の免除や労務の提供などの財産的利益でもよい。民法はなんらかの方式がなくても (口約束でも) 贈与の成立を認めるが,当事者の軽率な契約を戒めるとともに,性質上生じやすい契約の存否をめぐる紛争を防止するため,書面によらない贈与 (契約) の未履行の部分については,いずれの当事者からも取消しうるものとする (550条) 。外国では書面によらない贈与の効力を認めない例が多いが,その場合でも現実に履行されたものについてはそのまま効力を認めるので,この点では日本法との差はあまりない。贈与者は目的の財産的利益を相手方に与える債務を負うが,履行前に著しい事情の変更があれば書面による贈与であっても契約解除の理由になるとされる。なお特殊な贈与として,定期贈与 (552条) ,負担付き贈与 (553,551条2項) ,死因贈与 (554条) など他の契約や制度の性質をあわせてもつものがあり,それぞれの性質に応じ一般の贈与と違った扱いを受ける。 (→遺贈 )

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百科事典マイペディア 「贈与」の意味・わかりやすい解説

贈与【ぞうよ】

当事者の一方(贈与者)がある財産を無償で相手方(受贈者)に与える意思を表示し,相手方の受諾によって成立する契約(民法549条以下)。無償・片務契約の典型。特別の方式を要しないが,書面によらない贈与は,履行するまでは,いつでも取り消すことができる。贈与者は贈与の目的物について原則として担保責任を負わない。負担付贈与,定期贈与,死因贈与等の特殊な贈与もある。
→関連項目遺留分寄付行為贈与税片務契約

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普及版 字通 「贈与」の読み・字形・画数・意味

【贈与】ぞうよ

与える。

字通「贈」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の贈与の言及

【市】より

K.ポランニーによれば,人間社会の歴史全体からみると,生産と分配の過程には,三つの類型の社会制度が存在しており,古代あるいは未開の社会から現代諸社会まで,それらが単一にあるいは複合しながら経済過程の機構をつくってきた。それらは,(1)互酬reciprocity 諸社会集団が特定のパターンに従って相互に贈与しあう,(2)再分配redistribution 族長・王など,その社会の権力の中心にものが集まり,それから再び成員にもたらされる,(3)交換exchange ものとものとの等価性が当事者間で了解されるに十分なだけの安定した価値体系が成立しているもとで,個人間・集団間に交わされる財・サービス等の往復運動,の3類型であり,それぞれの類型は社会構造と密接に連関をもって存在している。市は,この(3)の〈交換〉が成立する社会がつくり出した方式である。…

【遺留分】より

…相続人が法律上取得することを保障されている相続財産の一定額のことをいい,被相続人が行う贈与・遺贈によっても侵害されえないものである。遺留分制度は,沿革的には大陸法に由来するもので,被相続人の財産処分の自由と法定相続人の権利ないし利益との調整・妥協の産物である。…

【贈物】より

…また旅の帰りや訪問など人の移動に伴う贈物が土産(みやげ)であり,このほか祝福や感謝の印としての御祝や御礼など,日本の贈物には状況に応じて名目の区別がある。 贈物をする習慣は古今東西を問わず広く存在する行為であるが,ヨーロッパなどでは歴史的に都市の発達した中世以降,贈与慣行は貨幣経済に駆逐され衰退していったといわれている。だが日本では貨幣経済の発展とも併存し,中世には武士の間で八朔(はつさく)の進物が幕府が禁令を出すほど流行したほか,中元歳暮は逆に近世以降の都市生活の進展によってより盛んになるなど特異な展開を示してきた。…

【経済人類学】より

…もっぱらこの点で,経済人類学という分野を確定することができる。ところで,こうした経済人類学の素材となる地域は地球上全域にまたがって散在し,素材となりうる経済生活の分野も,贈与,所有関係,生産組織,分配・再分配,消費などさまざまで,これらと呪術・宗教,政治などとのかかわりも対象とされる。経済学はこれらに関して貴重な素材を人類学から受け継いでいる。…

【ポトラッチ】より

…北アメリカ北西海岸部に住むアメリカ・インディアンのトリンギット族,ハイダ族,クワキウトル族,チィムシャン族,ヌートカ族などの間で行われた競覇的な贈与交換を伴う饗宴。ポトラッチという名称は,ヌートカ語の〈物を与える〉という意味の〈パツシャトル〉という単語が,チヌーク・ジャーゴンと呼ばれる通商言語を経て,英語に入ったものである。…

【ヨーロッパ】より

…王たる者は何よりもまず戦いにおいて勝利をおさめ,多くの戦利品を持ち帰り,臣下に惜しげもなく分け与えられる者でなければならない。アルフレッド大王も〈秀でた指輪贈与者〉と呼ばれている。首長が指輪などの物を家臣に与えるとき,首長のもつある種の優れた能力(マナ)も指輪などを通じて家臣に伝えられ,両者は目に見えない絆で結ばれるのである。…

※「贈与」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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