赤外線兵器(読み)せきがいせんへいき

改訂新版 世界大百科事典 「赤外線兵器」の意味・わかりやすい解説

赤外線兵器 (せきがいせんへいき)

赤外線を利用して目標を探知識別,追尾し,通信などを行う兵器。大別すると,人工赤外線源を用いるアクティブ方式と,目標物自身が自然に放射する赤外線を利用するパッシブ方式とがある。現在は主として後者が用いられ,大気の透過率の良い3~5μmおよび8~14μmの波長の赤外線が利用される。

 航空機のエンジンの排気孔の温度は高く,強力な赤外線源となるため,これを探知し誘導するミサイルが1950年代の中ごろに諸国で開発された。アメリカの空対空ミサイルサイドワインダー〉もその一つである。その後,赤外線検知器の改良により比較的温度の低い部分にも誘導できるようになった。ノルウェーの〈ペンギン〉は対艦用ミサイルで,目標に接近してからは赤外線誘導される。背景の繁雑な地上目標に誘導するためにはテレビカメラを搭載し,目標を識別する手段が用いられるが,夜間や視界の悪い場合には赤外線映像装置が用いられ,爆弾やミサイルを精確に命中させる。赤外線映像装置は暗視装置としても用いられ,各種火器の射撃照準装置に組み込まれている。

 航空機に搭載した赤外線カメラは,地上の温度分布から偽装した戦車陣地,航空機や車両の駐車していた跡,および掘り起こした地面などを識別できるため,偵察器材として重要である。また赤外線装置は海面の温度分布から船舶航跡を探知できるので,潜水艦捜索用にも用いられる。このほか,警戒装置として,潜水艦に搭載し電波を出さずに航空機を捜索する装置,航空機の後方警戒装置,早期警戒衛星に搭載し大陸間弾道ミサイルの発射を監視する装置など,種々の赤外線警戒装置が開発されている。

 装置としては,対空目標のように単純な背景の場合には光学系の結像面にレティクル板を置いて目標の方向を検出しており,映像を得るためには機械的走査光学系が用いられる。また,電子的に走査する二次元配列多素子赤外線検知器の開発が進められている。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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