超人(読み)ちょうじん(英語表記)Übermensch[ドイツ]

精選版 日本国語大辞典 「超人」の意味・読み・例文・類語

ちょう‐じん テウ‥【超人】

〘名〙
① ふつうの人とはかけ離れた偉大な能力をもっている人。並みはずれた能力をもつ人。スーパーマン
煤煙(1909)〈森田草平〉三三「人殺しの出来るやうな超人でもなければ〈略〉狂人でもない」
② (Übermensch の訳語) キリスト教の定めた善悪を否定し、民衆を支配する権力をふるいながら、自己の可能性を極限まで実現した理想的な人間。人間以上の完全な人間。ドイツの哲学者ニーチェが特に力説し、人類目標として、超人の育成出現とを未来に期待した。
※文明批評家としての文学者(1901)〈高山樗牛〉一「是の如き模範的人物は即ち天才也、超人(〈注〉ユーベルメンシュ)也」

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デジタル大辞泉 「超人」の意味・読み・例文・類語

ちょう‐じん〔テウ‐〕【超人】

並み外れた能力をもった人。スーパーマン。
《〈ドイツ〉Übermenschニーチェ哲学の中心概念。超克さるべき存在としての人間がその可能的極限にまで到達した存在。人間の理想的典型。キリスト教的神にかわって人類を支配するものとされる。その具体像はツァラトゥストラとされる。→君主道徳権力への意志
[類語](1スーパーマン

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改訂新版 世界大百科事典 「超人」の意味・わかりやすい解説

超人 (ちょうじん)
Übermensch[ドイツ]

ドイツの哲学者ニーチェの著作《ツァラトゥストラ》(1883-85)の中で,人間にとっての新たな指針(和辻哲郎の用語では〈方向価値〉)として情熱的に説かれた言葉。その熱っぽさが,19世紀末の微温的市民社会と精神的閉塞状況からの脱出を願う青年知識層に広く迎えられた。超人は民衆を離れ,孤高の中で人間の卑小さの絶えざる克服をめざす。超人は人間という〈暗雲〉からひらめく〈稲妻〉〈狂気〉である。〈人間は動物と超人とのあいだに張りわたされた一本の綱なのだ〉。人間の新たな可能性を求めるこの超人を導く原理は,生と芸術の根源に潜む〈力への意志〉である。既成のキリスト教道徳を否定した,新たな美的で情熱的な生への志向がここにある。後にG.B.ショーはこのテーマを男女関係の次元で戯曲化し《人と超人》を書いた。しかし超人概念は,〈金髪の野獣〉といったニーチェの言葉とともに,やがてナチスのイデオロギーの中で悪用されることにもなる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「超人」の意味・わかりやすい解説

超人
ちょうじん
Übermensch

中間者としての人間が克服された結果,存在することになった絶対者のこと。この超人の概念はすでにルキアノスの hyperanthrōposというギリシア語に始まり,アダム・H.ミュラー,ヨハン・G.ヘルダー,ヨハン・ウォルフガング・フォン・ゲーテ,テオドール・ゴットリープ・フォン・ヒッペル,ジャン・パウルらにおいて見出されるが,思想として哲学的に深められたのはフリードリヒ・W.ニーチェにおいてである。ニーチェは著書『ツァラトゥストラはかく語りき』で,超人の具体像こそはツァラトゥストラであり,キリスト教の神に代わる人類の支配者で,民衆はその服従者でしかないと唱えた。また超人の正反対の存在として末人 der letzte Menschがあるとも記した。ニーチェの超人思想はのちの時代,たとえばナチスにより曲解されたこともあったが,現代では実存主義哲学の立場などから新たな光があてられている。

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普及版 字通 「超人」の読み・字形・画数・意味

【超人】ちようじん

絶倫。

字通「超」の項目を見る

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旺文社世界史事典 三訂版 「超人」の解説

超人
ちょうじん

ニーチェ

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世界大百科事典(旧版)内の超人の言及

【実存主義】より

…彼はとくに《哲学的断片への後書》(1846)において,客観的真理が人間を生かすのではなく〈主体性内面性が真理である〉と語り,単独者として神の前で主体的に生きる人間を宗教的〈実存〉と呼んだ。ニーチェもまた不断に脱自的であらざるをえない人間を〈力への意志〉に基づく〈超人〉と名づけ,無意味な自己超克を繰り返しているかに思われる運命を肯定することに意味を発見した。〈実存哲学〉の語が定着するのは,第1次大戦後の動向のうちとくに《存在と時間》(1927)に表明されたハイデッガーの哲学を念頭に置いて,これを〈人間疎外の克服を目指す実存哲学〉と呼んだF.ハイネマンの著《哲学の新しい道》(1929)以降であり,ヤスパースがこれを受けて一時期みずから〈実存哲学〉を名のった。…

【ニーチェ】より

…そしてこの《ツァラトゥストラ》で後期の思想が始まったと普通に言われている。 後期には〈力への意志〉,ニヒリズム,超人,永劫回帰,〈価値の転換〉といった中心的思想の多少なりとも連関した叙述をめざして,さまざまな変奏を加えたアフォリズムが書きつがれていく。《善悪の彼岸》(1886),《道徳の系譜学》(1887),《偶像の黄昏》(1889),《ニーチェ対ワーグナー》(1888脱稿),《ワーグナーの場合》(1888),《アンチキリスト》(1888脱稿),そして自伝的著作《この人を見よ》(1888脱稿)などがそうした作品群である。…

※「超人」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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