身分登録制度(読み)みぶんとうろくせいど(英語表記)civil registration

改訂新版 世界大百科事典 「身分登録制度」の意味・わかりやすい解説

身分登録制度 (みぶんとうろくせいど)
civil registration

人の出生から死亡に至るまでの民事的な身分関係civil status(英語),l'état civil(フランス),Personenstand(ドイツ)を,国家等の公の機関がその管理する帳簿に登録し,一定の者からの請求に応じてそれを公的に証明する制度のこと。日本では,戸籍がこれに当たる。およそ社会あるところその構成員を把握する必要があるといえるが,その把握のしかたは国によって,また,時代によって異なる。国民または住民を登録した台帳がかつては,課税,徴兵,治安等の各種の行政目的に利用されることが多かったが,現在では,個人が身分登録簿に登録されることが,その者の基本的人権の保障にとって不可欠な役割を果たすものと理解されている。例えば,国際人権規約B第24条第2項は,〈すべての児童は,出生の後直ちに登録され,かつ,氏名を有する〉と規定している。他方,諸国の身分登録制度は,各種の行政目的のために国民ないし住民を把握するためのものから,冒頭で定義したような民法上の地位を登録し,公証することを目的とする司法的な制度へと変化しつつある。

 身分登録のシステムは国によって異なり,(1)提出された出生,死亡,婚姻等の関係者が署名した証書を事件の種類ごとにファイルするもの,(2)身分登録官が関係者からの報告に基づいて身分登録簿に記載する形で証書を作成し,それに報告者および身分登録官が署名するもの,(3)日本の戸籍のように関係者が提出した届書の記載事項を身分登録官が身分登録簿に書き写すもの等がある。さらに,各人を特定するためにその者に固有の識別番号を付している国もある。スウェーデンでは住民登録上,個人識別番号制度が設けられており,韓国では住民登録法上の番号が住所地からの通知によって戸籍に記載されている。また,国によっては身分登録をすることが,婚姻,離婚,認知,養子縁組などの成立要件とされている。

 身分登録制度によって証明される事項は,氏名,性別,出生の年月日・時分,出生の場所,父母の氏名,婚姻(離婚)の成立の年月日,配偶者の氏名,死亡の年月日・時分,死亡の場所,国籍などである。

 ヨーロッパのキリスト教諸国における身分登録は,教会簿(洗礼簿,婚姻簿,埋葬簿)を起源とする。市民革命によって,教会の手にあった身分登録は,世俗(市町村長等の官公吏)の手に移り,現在の制度となった。かつてヨーロッパ諸国の植民地支配の下にあった南北アメリカオセアニアアフリカ,アジア等の諸国の身分登録制度の多くは,かつての宗主国の制度を踏襲しているものが多い。以上の諸国にあっては,出生簿,婚姻簿,死亡簿などの事件の種類別の登録簿に,事件の発生のつど,事件本人について登録する。この制度の長所は登録手続が簡単なことであるが,欠点は各人の出生から死亡に至るまでの身分関係の変動を把握することや各人の系譜的な親族関係を把握することが困難なことである。この欠点を補うために諸国において種々のくふうがされている(例えば,登録された出生証書の欄外にその者の婚姻,死亡等について付記したり,婚姻の際に夫婦に家族手帳交付するなど)。中国の台湾,韓国,日本等においては,家族を単位として編製される身分登録簿を有しており,それに,各人の出生から死亡に至る身分関係の変動を記載するので,系譜的親族関係を把握することが容易である。ただし,台湾の戸籍登記簿は,司法的な身分登録の要素とともに,各種行政目的のための世帯を単位とする住民登録の色彩が強く,日本や韓国の戸籍とは異質なものとなっている。以下,日本を含む多くの国々の母法国的位置を占めるフランスの制度およびその変型としての西ドイツの制度,さらに在日外国人の関連で問題となることの多い韓国の身分登録について述べる(日本については,〈戸籍〉の項を参照のこと)。

(1)身分証書l'act de l'état civil 市区町村長が身分吏officier de l'état civilとして,登録簿に記載する形で身分証書を作成する(民法典第1編第2章)。監督機関は,裁判所の検事局である。身分証書は,関係人からの報告に基づいて作成され,報告者と身分吏が署名する。ただし,婚姻は,役場に当事者と証人が出頭し,身分吏が司式し,婚姻証書を作成することによって成立する。証書には,夫,妻,証人および身分吏が署名する。身分証書には,出生証書,認知証書,婚姻証書および死亡証書の4種類があり,それぞれの種類ごとの登録簿に事件の発生のつど,その地で記載される。各人の身分の変動は出生証書の欄外付記によって明らかにされる。例えば,婚姻証書が作成されたときまたは死亡証書が作成されたときは,その通知を受けて,出生証書の欄外に婚姻または死亡の欄外付記がされる。離婚判決が確定したときは,婚姻証書および出生証書の欄外にその付記がされる。身分証書が作成されず,またはその欄外付記がされない事項(後見,保佐,夫婦財産制に関する判決事項)は,〈民事目録répertoire civil〉に記載される。(2)家族手帳le livre de famille 婚姻証書を作成した身分吏は,夫婦に対して家族手帳を交付する。家族手帳には,両配偶者の婚姻証書の抜粋が記入される。以後,この婚姻によって出生した子,準正子,養子等の出生証書の抜粋,未成年で死亡した子の死亡証書の抜粋および配偶者の死亡証書の抜粋が記入される。母が出生子を認知したとき,または父母の知れない子を未婚の母が養子にしたときは,母の請求に基づいて家族手帳が母に交付される。この手帳には,母と子の出生証書の抜粋が記入され,以後,未成年で死亡した子の死亡証書および母の死亡証書の抜粋が記入される。家族手帳の記載はすべて身分証書の抜粋および身分証書の欄外付記と同様の効力を有する(1974年5月15日のデクレ)。(3)身分登録簿の公開 登録後100年を経過しない身分登録簿は権限ある国家機関および検察官の許可書を所持する者以外は閲覧することができない。出生証書および婚姻証書の記載のすべてを写して認証したもの(以下〈謄本〉という)は,事件本人,その直系卑属,配偶者,法定代理人および検察官にのみ交付される。認知証書の謄本は,前記の者および子の相続人にのみ交付される。その他の者には,検察官の許可がある場合にのみ,出生・認知および婚姻の各証書の謄本が交付される。死亡証書の謄本はだれにでも交付される。出生証書および婚姻証書の一部を写して認証したもの(以下〈抄本〉という)はだれに対しても交付される。出生証書の抄本には,子の出生の年月日・時分,場所,性別および氏名のみが記載され,父母の氏名・職業等は記載されない。婚姻証書の抄本には,婚姻の年月日,両配偶者の氏名,出生の日および場所が記載され,両配偶者の父母の氏名,職業等は記載されない。夫婦財産契約,離婚および別居については,証書に記載があれば,記載する。子の父母の氏名,出生の日および場所を記載した出生証書の抄本ならびに両配偶者の父母の氏名を記載した婚姻証書の抄本は,子または配偶者,相続人および国家機関のほかには交付されない(1962年8月3日のデクレ)。

(1)人籍簿Personenstandsbücher 身分登録官Standesbeamteに任命された市町村長が戸籍簿に所定の事項を記載する(1957年の人籍法Personenstandsgesetz)。監督機関は行政官庁である。人籍簿には,婚姻簿Heiratsbuch,家族簿Familienbuch,出生簿Geburtenbuchおよび死亡簿Sterbebuchの4種がある。婚姻簿は,身分登録官が各婚姻を司式するごとに,その夫婦,証人の立会いのもとに作成し,登録され,これらの者が署名する。家族簿は婚姻を司式した身分登録官が婚姻のときに作成する。出生簿および死亡簿は,身分登録官が一定の者からの報告に基づいて作成し,報告者と身分登録官が署名する。(2)家族簿 家族簿には,当初,夫婦の氏名,職業,出生地,出生の年月日,婚姻締結の場所および年月日,各配偶者の父母の氏名および住所または最後の住所,国籍等が記載されるが,その後は次の事項が継続して記載される。各配偶者の死亡,婚姻の取消しまたは離婚,再婚,名の変更,国籍の変更,婚姻によって出生した子,準正子,養子,子の婚姻,子の死亡,子の名の変更など。(3)人籍簿の公開 人籍簿の閲覧ならびに人籍調書(謄本,出生証明書,婚姻調書,死亡調書,血統調書および家族簿抄本)の交付は,官庁がその権限の範囲内で,かつ,目的を明示して請求することができ,また,本人,配偶者,直系尊属および直系卑属が法律上の利害関係を明らかにして,請求することができる。

(1)戸籍簿 市邑面(市,邑,面とは,日本の市,町,村に当たる)の長が,一定の者からの届出に基づいて戸籍の記載をする(1960年の戸籍法)。監督機関は裁判所である。韓国には家の制度が維持されていて,戸籍は,市邑面の区域内に本籍を定めるものについて,戸主を基準にして家別に編製される。戸籍には戸主および家族の姓名と本(本貫)が記載される。韓国では同姓同本の血族間の婚姻は民法によって禁止されているので,人の姓と本とを明らかにする戸籍の機能は重要である。姓とは出生の系統を示す標識であり,〈本〉とは,沿革的にはその家の始祖の発生地名に由来するが,男系の血族を示すものであるとともに個人を特定する機能を有する。戸籍には各人の出生から死亡に至るまでの身分関係の変動が記載され,系譜的親族関係をたどることができる。日本と同じく,婚姻,協議離婚,任意認知,養子縁組などは戸籍法上の届出によって成立する。女は婚姻によって従前の家を去り,夫の家に入るが,妻の姓は婚姻によって変更しない。子は父の姓と本に従い,父の家に入り,父がない場合は母の姓と本に従い母の家に入る。(2)戸籍の公開 戸籍簿の閲覧または戸籍の謄本,抄本の交付については,だれでも手数料を納めて請求することができる。
戸籍
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の身分登録制度の言及

【戸籍】より

…すなわち,戸籍は,一定の人(戦前は戸主,現在は戸籍筆頭者)を中心とする一定範囲の親族を単位として編製され,各個人の親族的身分関係の発生,変更,消滅の記載は,原則として届出によってなされる。これらの点において戸籍制度は,欧米の身分登録(証書)制度が,原則として各個人について,それぞれ出生証書,婚姻証書,死亡証書などを作成し,かつ婚姻証書の作成については当事者自身の意思の申述を必要としているのと異なる。両者の原理の相違は,制度の背景をなす社会における個人のあり方の相違に基づく。…

※「身分登録制度」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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