転注(読み)てんちゅう

精選版 日本国語大辞典 「転注」の意味・読み・例文・類語

てん‐ちゅう【転注】

〘名〙
① めぐりそそぐこと。〔水経注‐漸江水〕
漢字分類法である六書(りくしょ)うち、漢字の用法一つ。別な意味を持っていた二つの文字が、意味が転化して互いにその文字で訓注し合えるようになること。またその文字。
随筆胆大小心録(1808)四「文字にも仮借転注など云て、たとへやら何やらをいふてとく事じゃが」 〔許慎‐説文解字序〕
③ (②から転じて) 縁起をかつぐためなどに、ある文字に他の文字を転用・借用すること。
浄瑠璃・応神天皇八白旗(1734)一「善しと褒むる詞を隠し、よしあしの字を転註(テンチウ)して、葦原とは名(なづ)けし国」

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デジタル大辞泉 「転注」の意味・読み・例文・類語

てん‐ちゅう【転注】

漢字の六書りくしょの一。ある漢字を、原義に類似した他の意味に転用すること。この場合、音の変わることが多い。例えば、「音楽」の意の「ガク」の字を「ラク」と発音して「たのしい」の意に転用する類。

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普及版 字通 「転注」の読み・字形・画数・意味

【転注】てんちゆう

六書の一。段玉裁互訓と解するが、造字法としては、形声に対して、意符の系列字をさすものかと思われる。漢・許慎〔説文解字叙〕轉なるは、一首、同相ひ受く。考・老是れなり。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「転注」の意味・わかりやすい解説

転注
てんちゅう

六書の一つ。漢字の運用法の一つで,古来諸説があったが,ある意義をもつ漢字を,その音とは無関係に,それと近い,あるいは転移した意義の語を表わすために用いることをさすとみられる。仮借 (かしゃ) とともに,既成の文字を転用する方法である。「音楽」の意を表わす漢字「楽」を,意味上関連のある「楽しむ」の意を表わす語にも用いるのがその例。「妻」の「つま」と「めあわす」も同じ。しかしこれは同字異義の状態を生み出し,文字の機能から反するところから,会意や形声に取って代られ次第に少くなっていった。

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世界大百科事典(旧版)内の転注の言及

【漢字】より


【漢字の種類と造字・転用】
 ふつう〈六書(りくしよ)〉と呼ばれる分類がある。六書とは指事・象形・会意・形声・転注・仮借の六つである。このうち前4者が文字の形による分類であり,後2者は文字の転用に関するものである。…

【六書】より

…この〈武〉の場合のように,この解釈そのものは,この字のさまざまの形や使用例から考えて,いわば〈字源俗解〉である可能性がきわめて大きいが,しかしこの文字そのものが,要素の〈戈〉と〈止〉とからでき上がっていて,その要素の意味どうしの間に干渉があるだろうということまでは否定できない。(5)転注 清の段玉裁の《説文解字注》に従えば,互いに相手方の文字の訓詁でありうる考,老両字のようなものをいう。〈考は老なり〉といい,また〈老は考なり〉というような関係である。…

※「転注」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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