輿(読み)ヨ

デジタル大辞泉 「輿」の意味・読み・例文・類語

よ【輿】[漢字項目]

人名用漢字] [音]ヨ(呉)(漢) [訓]こし
何人かで担いで運ぶ乗り物。こし。かご。「肩輿車輿乗輿神輿しんよ鸞輿らんよ輦輿れんよ
万物をのせる台。大地。「輿地坤輿こんよ
大ぜいの。「輿望輿論
[難読]神輿みこし

こし【×輿】

人を乗せる、屋形の下に2本のながえをつけた乗り物。轅を肩に担ぐれんと、腰の辺りにささげ持つ手輿たごしに大別され、身分の上下によって、鳳輦ほうれん葱花輦そうかれん四方輿網代輿あじろごし・板輿などの種類がある。
みこし。神輿しんよ
2本の轅に棺桶を載せて担ぐ葬具。

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精選版 日本国語大辞典 「輿」の意味・読み・例文・類語

こし【輿】

〘名〙
① 乗物の一種。人を乗せる台の下に二本の轅(ながえ)をつけて、肩にかつぎ上げ、または手で腰の辺にさげて行くもの。台の四隅に柱を立て、屋根をつけた四方輿(しほうごし)、側面を覆った網代輿(あじろごし)、筵輿(むしろごし)、板輿(いたごし)塗輿(ぬりごし)などの種類がある。
※竹取(9C末‐10C初)「御こしに奉りて後にかくやひめに」
能楽の作り物の一つ。輿の屋根にかたどり、竹で四角に枠を組み、赤い細布でこれを巻いて、上に絹を覆う。轅には白布を巻き、乗り手を間にはさみ、ワキ・ワキツレの両人で後方から乗り手の頭上にさしかける。「国栖(くず)」「盛久(もりひさ)」「蝉丸(せみまる)」などに用いる。
③ 棺(かん)を載せて肩にかつぐ輿(こし)
※雑俳・柳多留‐八(1773)「相談をしいしいこしの跡を行」
神輿(しんよ・みこし)
[語誌](①について) 中古以前は、駕輿丁(がよちょう)の肩にかつがせ、輦(れん)と呼んで天皇の御料とした。中古以後は力者(ろくしゃ)に腰に副えて持たせ、一般遠行の際の乗用とし、鎌倉室町時代には、大礼に牛車(ぎっしゃ)を用いる以外は常にこれを用い、江戸時代に至っては牛車はほとんど用いることなく、これを規式の用とし、普通は駕籠乗物となった。

よ【輿】

〘名〙 二本の長い棒の上に屋形を置き、人を乗せて運ぶ乗物。こし。
※寛斎先生遺稿(1821)一・三絃弾「雪児富楽日盛昌、王侯門外輿相望」 〔易経‐剥卦〕

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「輿」の意味・わかりやすい解説

輿
こし

屋形・箱に人を乗せ、長柄(ながえ)を肩で担ぐ肩輿(あげこし)(後世、長柄輿という)と、長柄に紐(ひも)を結んで肩からかけて手で腰に支える腰輿(ようよ)(手輿(たごし)ともいう)がある。乗り手は、貴人から庶民、罪人護送、神仏体の送迎、葬送の棺などにわたる。文献的には『日本書紀』垂仁(すいにん)天皇の条に記載されているのが輿のもっとも古いもので、大宝令(たいほうりょう)では天皇の使用のほか、皇后・斎王に限定され、平安後期に及んだころより上皇をはじめ公卿(くぎょう)以下でも乗用するようになった。これは悪い条件の道路を牛車(ぎっしゃ)より簡便で機能的な輿に頼ったからであろう。

 鎌倉時代になると武家においても乗用するようになり、文治(ぶんじ)2年(1186)11月、5歳の源頼家(よりいえ)が鶴岡八幡(つるがおかはちまん)の参詣(さんけい)に輿に乗ったのをはじめとして代々の将軍が乗用したことが『吾妻鏡(あづまかがみ)』に記載されている。室町時代には輿の使用に関する制度を設け、江戸幕府も乗輿の制を設け、御三家(ごさんけ)をはじめとして特定な家格の者に限って乗輿を認めた。

[郷家忠臣]

種類

(1)鳳輦(ほうれん) 鸞輿(らんよ)ともいい、天皇が即位、大嘗会(だいじょうえ)、朝覲(ちょうきん)などの晴の行幸に使用するもっとも重んぜられるもので、屋形の頂に金色の鳳の形を据えているところから名づけられる。

(2)葱花輦(そうかれん) 単に花輦ともいい、屋形の頂に先のとがった丸い葱花に似た形を据えているのでいう。鳳輦よりも軽い臨時略式や諸社寺行幸(春日(かすが)・日吉(ひえ)の2社を除く)などに用い、また皇后・斎宮(さいくう)も用いた。

(3)腰輿 非常の場合の天皇乗用具で、内裏(だいり)炎上とか地震の災害や方違(かたたがえ)、にわかの行幸に使用した。

(4)網代輿(あじろごし) 平安後期より貴族が使用するようになり、のち制限が生じ、親王・摂関(せっかん)・清華の家格に限られた。網代車の車輪をとって轅(ながえ)をつけた形のもので、文献に車輿(しゃよ)とある。青竹を細く削って網代に組み、外側に張ったもので、初め腰のあたりで持つ形であったが、室町時代以後は轅を長くして肩に担いだ。担い手は力者(りきしゃ)という僧体の6人からなる。

(5)四方輿(しほうこし) 網代を張っているが、四方に簾(すだれ)がかかっているのでいう。鎌倉中期ころ現れ、上皇、摂関、大臣はじめ公卿や僧綱(そうごう)などが遠方に赴く場合に用いたが、形式は、僧侶(そうりょ)の輿は棟を高くし、屋根を反らした雨眉(あままゆ)形で、俗人の輿は棟を山形にした庵(いおり)形にして区別する。手輿と同じく担ぎ、板輿(いたこし)ともいう。

(6)小輿(しょうよ) 台座と高欄とからなり、屋根のない作り。最勝会(さいしょうえ)の講読師が乗用した。

(7)張輿(はりこし) 莚(むしろ)を張った輿で、罪人の公家(くげ)を護送するときに用いた。

(8)塗輿(ぬりごし) 漆を塗った輿で、公家の乗り物は庇(ひさし)付きで、武家と僧侶のものは庇がない。略儀的に用いられたが、江戸時代にはよく用いられるようになった。

(9)白輿(しらこし) 白木作りの輿。

 このほか、神輿(しんよ)や舎利輦(しゃりれん)など宗教用具に転用した場合がある。

[郷家忠臣]


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改訂新版 世界大百科事典 「輿」の意味・わかりやすい解説

輿 (こし)

人が肩で担ったり手で持って運ぶようにした乗物。養老職員令主殿条や延喜内匠式等には,天皇が乗用するものとして供御輿輦や御輿,御腰輿の名が見える。平安時代の公家の日記に〈我朝,帝王,皇后,斎王の外,輿に乗る人無し〉と記されているように,輿は天皇,三宮,斎宮などが用いるものであった。後には公家も用いたが,一般には牛車(ぎつしや)をおもに用いた。武家は公家とは反対に車を用いないで輿を用い,室町時代には家格の高い者に将軍が輿を用いることを特許する制度が生じた。天皇が朝覲行幸,即位等に用いる鳳輦(ほうれん)が最も格が高く,次いで天皇が尋常の行幸に用いる葱花輦(そうかれん)以下,腰輿(たごし),小輿,網代(あじろ)輿,板輿,張輿,四方輿,塗輿等の種類がある。腰輿は上皇,王臣,高僧が用い,網代輿は親王,摂関,清華家の者が用いたが,室町時代以降は家格の高い武家も網代輿をおもに用いた。
駕輿丁(かよちょう)
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山川 日本史小辞典 改訂新版 「輿」の解説

輿
こし

人力で運行する乗物。着座する台の下に2本の轅(ながえ)を通し,それを駕輿丁(かよちょう)が肩にかつぐものを輦輿(れんよ),力者(りきしゃ)が手をそえて腰にあてて運ぶものを腰輿(ようよ)という。輦輿は屋形の頂上に鳳凰(ほうおう)や葱花(そうか)をすえて鳳輦(ほうれん)・葱花輦といい,天皇が乗用した。腰輿は牛車(ぎっしゃ)に比べ難路などの通行も容易で,上下諸人に広く用いられた。上皇・摂関以下,公卿・僧綱(そうごう)などの遠行用とした四方(しほう)輿,屋形のない最も簡略な塵取(ちりとり)輿などがある。武家も輿を使用したが,室町時代には武家の使用は,将軍により家格の高い者に制限された。

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百科事典マイペディア 「輿」の意味・わかりやすい解説

輿【こし】

屋形(やかた)に人を乗せ,その下についた轅(ながえ)を手でつりあげ,またはかついで運ぶ昔の乗物。元来は天皇,皇后,斎宮(さいぐう)のみの乗物で,肩でかつぐ輦(れん)と手で運ぶ腰輿(たごし)とがあり,輦をかつぐ者を駕輿丁(かよちょう),腰輿を運ぶ者を力者(ろくしゃ)と呼んだ。平安末期以後,上皇をはじめ公卿,僧,武家なども用いるようになり,網代(あじろ)輿,張輿,板輿,四方輿,塗輿などの様式が生まれた。

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葬儀辞典 「輿」の解説

輿

棺をのせて運ぶもの。平安時代から使われてきましたが、大正時代に入ってからは輿をかたどった霊柩車が使われるようになりました。

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世界大百科事典(旧版)内の輿の言及

【駕籠】より

…人を竹で編んだ〈かご〉にのせ2人が1本の長柄で前後をかつぐ乗用具。籠,駕,轎,籃輿の字があてられる。安土桃山時代ごろまでは,乗用具として牛車のほか,2本の柄の上に台をのせた輿(こし)があった。…

※「輿」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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