辰国(読み)しんこく(英語表記)Chin-guk

改訂新版 世界大百科事典 「辰国」の意味・わかりやすい解説

辰国 (しんこく)
Chin-guk

古代朝鮮の南部に存在したとされる国名。辰国という名称はすでに《史記》《漢書》に見えるが,その内容についてやや詳細な記録を残しているのは《三国志魏志東夷列伝である。ところが《三国志》の記載がきわめて断片的で,矛盾した個所もあるため,古来この国の存在,性格については諸家の見解が一定しない。白鳥庫吉は辰国は辰韓のことであり,辰王は辰韓王であるとした。三上次男も辰王は2~3世紀ころ半島南部に成立した一種の部族連合国家の君主であったと解釈している。最近の朝鮮民主主義人民共和国ではこの辰王の存在をさらに積極的にとらえ,前4世紀以前に出現していた三韓全体の最高権力者であるとみている。これに対して三品彰英は辰国に関する文献上の矛盾をついて,辰国は史書編纂者の観念上の所産で,その歴史的実在には疑問があるという説を提出した。三品彰英の非実在説も根拠があるので賛成者が少なくない。このようにまったく相反する2説が提出されるのは,原史料の説明不足と記述の矛盾によるものである。一例をあげれば,〈三国志〉では辰王は馬韓の一国の〈月支国〉に治したとあるが,《後漢書》では〈目支国〉と記し,《翰苑》所引〈魏略〉でも〈目支〉と表記されており,〈月支国〉をどう解釈すべきかいまだに結論が出ていない。また《後漢書》と〈魏志〉では辰王の性格,その支配範囲についての記述がまったく相違するので,簡単にその一つをもって辰国を律するわけにはいかない。これらの解明は今後の課題である。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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