農商務省(読み)ノウショウムショウ

デジタル大辞泉 「農商務省」の意味・読み・例文・類語

のうしょうむ‐しょう〔ノウシヤウムシヤウ〕【農商務省】

明治14年(1881)設置された農林・商工業行政のための中央官庁。大正14年(1925)農林省商工省に分離。

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精選版 日本国語大辞典 「農商務省」の意味・読み・例文・類語

のうしょうむ‐しょう ノウシャウムシャウ【農商務省】

〘名〙 明治一四年(一八八一)に設置された農林・商工行政の中央官庁。大正一四年(一九二五)農林省・商工省の二省に分離。

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改訂新版 世界大百科事典 「農商務省」の意味・わかりやすい解説

農商務省 (のうしょうむしょう)

1881年4月に設置された,農政と産業の育成,振興を担当した行政機構。現在の農林水産省通商産業省の前身。明治政府は日本産業の資本主義化を達成するため,殖産興業政策をその課題に掲げ,農商工の各分野で行政指導を進めた。欧米の機械制工場制度の移植や鉄道,電信の導入などを促進した工部省(1870設立),農政を所管した内務省(1873創設),さらに大蔵省が当時の産業振興の重要な部門であった。工部省中心の移植産業政策と内務省中心の在来農業の資本主義化政策は1870年代にめまぐるしい機構の改廃,統合を重ねる過程で,相互に補完しあいながら資本主義育成策の重要な部分をなした。しかしこうした殖産興業政策を推進する担当官庁は内部機構の変遷を重ねたのみならず,農商工諸部門の間で分散,不統一の状況に置かれていた。そこで80年に行政機構の整備と財政節減の立場から〈各省分任ノ事務中農商ニ関スル事務ヲ一省ニ集合スル〉必要性を認め,翌81年農商務省が新設された。

 設立当初,〈農商管理ノ事務ヲ主ト為ス〉(参議大隈重信伊藤博文の建議)の目的で,内務省所管の農事と運輸,大蔵省所管の商業などを引き継ぎ,また各省に分散していた工業行政の部門をも移して,管理した。設立時期の同省担当部門は,書記,農務(勧農,開墾事業,農学校運営その他),商務(勧商,会社,商船その他),工務(勧工,専売免許,工学校など)のほか,山林,駅逓,博物,会計など合計8局で,ほかに農商工上等会議が置かれた。初代の農商務卿には河野敏鎌文部卿から転任した。その後,1885年内閣制度の施行とともに駅逓と管船の部門を他省に移し,廃止された工部省から鉱山監督の部門を併合した結果,農商工各務,水産,山林,博物,地質,会計の各局を中心に機構の基礎が固まった。成立当時の農商務行政は欧米の農業技術の導入を前提に,伝統的な日本の農法との融合を意図した農業技術指導者としての〈豪農〉(当時〈老農〉と呼ばれた)の背後にあって,政府の勧農政策を推進する中央官庁であったが,90年代以降は豪農の寄生地主化に対応しながら,地主制の形成とともに地主的農政の代弁者となり,農会などを政策遂行の〈てこ〉として,寄生地主制の利益を擁護する官僚機構に転化した。その後,第1次世界大戦期に自作農の創設などを地主制強化の政策に掲げるが,日本資本主義の高度な発展に対応して,1925年同省は商工省と農林省に分離した。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「農商務省」の意味・わかりやすい解説

農商務省
のうしょうむしょう

明治・大正期の中央官庁で、農林、水産、商、工業などに関する行政を主管した。1881年(明治14)4月7日設立。それまでの産業行政および殖産興業政策は、内務省、工部省、大蔵省などに分散していたが、官業政策の破綻(はたん)と殖産興業経費の過重が明らかになったので、政策の転換と産業行政の一元化を図るため1880年には工場払下概則を達し、1881年には農商務省を設けた。8局、3掛(かかり)を置き、初代の卿(きょう)に河野敏鎌(こうのとがま)が就任。鉱山、鉄道、工作関係は工部省の所管に残されたが、1885年の内閣制成立とともに工部省は廃止されて、農商務省は唯一の産業主務官庁となり、駅逓(えきてい)事業は逓信省に分離した。谷干城(たにかんじょう)が初代大臣に就任。1881年から3年間かかって前田正名(まさな)らが編集した「興業意見」は農商務省の大規模な産業調査と殖産方針書である。1883年から1886年にかけては北海道の官営諸事業をも管理した。農事・水産の各試験場や工業試験所などを有し、また農商工高等会議などのような政策諮問機関を設けた。1925年(大正14)4月1日、農林省と商工省の二つに分離した。

[永井秀夫]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「農商務省」の意味・わかりやすい解説

農商務省
のうしょうむしょう

1881年4月設置された農林,商工行政を司った中央官庁。明治初年から農商務省設置までの間の農林,商工行政は行政機関の改廃につれて,民部官,民部省,大蔵省,工部省,内務省の諸省によって担当された。 73年に設けられた内務省の一等寮であった勧業寮は農林,水産,商工全般の元締め的存在として政府の殖産興業政策の中核となり,大蔵,工部両省とともに近代国家建設,資本主義経済育成の目標に向って突進していた。農業改良のための農事試験場,農学校の設立,模範的官営工場の設立と払下げなど勧農,勧業事業に3省は一致して取組んだ。西南戦争後,政府は紙幣整理,経費節減に取りかかると同時に産業振興に一層拍車をかける必要を感じていたが,その一環として大隈重信,伊藤博文の建議に基づき,各省に分管されていた農林,商工行政の一本化がはかられ,統轄官庁としての農商務省が設置された。初代農商務卿には河野敏鎌がなり,書記,農務,商務,工務,山林,駅逓,博物,会計の8局を統裁したが,別に農商工上等会議が設けられていた。 85年内閣制度発足とともに駅逓局が逓信省に移管されるなど若干の改変があった。明治 30年代以後商工業の発達とともに農業政策も一層充実したが,第1次世界大戦以後急速に商工行政の重要性が増大してきたため,1925年3月,農林省 (→農林水産省 ) ,商工省に分離され,廃省となった。

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百科事典マイペディア 「農商務省」の意味・わかりやすい解説

農商務省【のうしょうむしょう】

明治・大正期の中央官庁の一つ。農林・水産・商業・工業・鉱業などの産業行政一切を担当。1881年創設。1925年農林省と商工省に発展解消された。現在の農林水産省通商産業省の前身。
→関連項目興業意見工部省職工事情柳田国男

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「農商務省」の解説

農商務省
のうしょうむしょう

明治・大正期の農林・商工行政の中央官庁。1881年(明治14)4月7日設置。初代農商務卿は河野敏鎌(こうのとがま)。85年内閣制度が創設され,谷干城(たてき)が初代農商相に就任。大臣官房のほか総務・農務・商務・工務・水産・山林・地質・鉱山・専売特許・会計の10局編成。96年には製鉄所が省内におかれた。商務・工務の2局はしばしば商工局に合併したり分離したりした。1910年第2次桂内閣は農商相のもとに生産調査会を設置。23年(大正12)5月には省内に小作制度調査会が設置された。帝国農会などは1916年以来,毎年農商務省から農林行政担当の部局を分離し,農林省の新設を要求してきたが,25年3月31日農林・商工両省の分離が決定された。

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旺文社日本史事典 三訂版 「農商務省」の解説

農商務省
のうしょうむしょう

明治・大正時代,農林・商工に関連する中央行政官庁
松方正義らの意見により,1881年内務省・大蔵省・工部省の農商工管掌事務を統合して設置し,農務・商務・工務などの局を置いた。'85年内閣制度制定にあたり,若干の改変があり,1925年農林省と商工省に二分された。

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世界大百科事典(旧版)内の農商務省の言及

【農林水産省】より

…略称,農水省。1881年の農商務省の設置以来の歴史をもち,1925年農林省,商工省に分離され,43年に再統合されて農商省となったが,45年再分離されて農林省となり,78年,200カイリ時代の到来に対応して農林水産省と名称を改めて現在に至っている。 その内部組織も,歴史的には一般農政,林野,水産,畜産,蚕糸,農地,食糧などに分かれ,種々の変遷を経てきているが,とくに第2次世界大戦後の経過では,1948年に水産庁,49年に食糧庁,林野庁と,まとまりのある三つの行政分野において外局制度がとられるに至り,また,72年に本省内部部局の改革が行われ,従来の農地局,農政局,蚕糸園芸局が再編成され,構造政策,生産政策,流通政策の三本柱に対応して構造改善局,農蚕園芸局,食品流通局が設けられた。…

※「農商務省」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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