農業教育(読み)のうぎょうきょういく

日本大百科全書(ニッポニカ) 「農業教育」の意味・わかりやすい解説

農業教育
のうぎょうきょういく

産業教育のなかで、農業に関係する教育をいう。学校での農業教育は、狭義には高等学校の農業科の教育をさし、広義には中学校の技術・家庭科や大学における農学の教育を含む。さらに広義には、都道府県の農政機構の進める農業改良普及事業や、農村社会教育のなかでの農事学習なども含む。

[三好信浩]

歴史

江戸時代の日本では、幕府や藩は年貢の増収を図るための勧農政策を進めたが、農業の学校をつくることはなかった。農業の知識や技術は、村にあっては村役人層や老農が農民に、家にあっては父が子に教えた。宮崎安貞(やすさだ)の『農業全書』(1697)をはじめとする多くの近世農書が、農業技術の開発と伝承に役だてられた。

 明治期になると、西洋をモデルにして農学校がつくられた。開拓使の札幌農学校はアメリカのマサチューセッツ農科大学から、内務省の駒場(こまば)農学校はイギリスのサイレンセスター農科大学から教師を雇い、農学教育を開始した。津田仙(せん)の学農社や府県の農事講習所など、公私立の農学校も設けられた。文部省は1883年(明治16)に農学校通則を公布し、さらに実業教育法制によって農業教育の体系化を図った。その結果、農業学校および農業補習学校の目覚ましい普及をみた。学校外の農村教育盛況をみせ、農会による技術改善の指導や、国民高等学校の塾風教育などが行われた。

[三好信浩]

現況

第二次世界大戦後、産業構造の変化に伴い、農業教育は工業商業の教育に比べて相対的に衰微した。2000年(平成12)には、高等学校農業科から3万6329人の生徒が卒業したが、農林業実務に従事する者はきわめて少ない。貿易自由化による国際競争が激しくなってきた現在、日本農業の将来について展望を開くとともに、農業の機械化や経営の合理化のために、農業教育の内容や方法を改善し、産業教育の調和のとれた発展を図ることなど、解決すべき課題は多い。

[三好信浩]

『比嘉秀善著『農業教育は滅びない』(2000・那覇出版社)』


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改訂新版 世界大百科事典 「農業教育」の意味・わかりやすい解説

農業教育 (のうぎょうきょういく)

一般的には農業の生産性を高めるための教育をいうが,広くは,実際の仕事を通じて先人の知恵や技術を家や共同体単位で改良しながら次の世代に伝えるという実践をも含む。しかし近代学校成立以後は学校教育の一分野を主にさしているが,ここでも広狭二義があり,広くは普通教育の社会科などで行われる農業関係の教育をいうが,ふつうは狭義にとり,職業教育の一分野をさす。以上の区分は諸外国にほぼ共通である。職業教育としての農業教育には農業,林業,養蚕,畜産,園芸などの分野があり,日本では1872年(明治5),北海道開拓を目的として東京に設置された開拓使仮学校の教育が最初とされている。同校は76年札幌農学校に改組(北海道大学農学部の前身),W.S.クラークの指導を受けた。また74年東京に設置された農事修学場は,駒場農学校を経て,90年帝国大学に合併される(東京大学農学部の前身)。これら初期の農業教育は日本農業の資本主義化,大農化をめざして行われた。中等教育段階の農業学校の制度化は,83年公布の農学校通則に始まる。この時期に,政府は小農制維持の方針を決め,そのため農業教育は簡易な方式がとられるようになり,93年の実業補習学校,翌年の簡易農学校,さらに99年には各種の実業学校とともに農業学校が設置された。しかし当時の農業自体が低い生産レベルにあり,これらの学校が積極的にこの状況を克服し,科学的な農業を促進するということはなかった。

 第2次大戦後の教育改革で高校に農業科が置かれ,当初,農業を志す有為の青年を集め,その卒業生は村の農業改革の担い手となった。しかし1960年代の経済高度成長の下,農村から都市への人口流出などにより農村は変化し,農業科へは農業志望の生徒ではなく,低学力のため希望する普通科へ入学できなかった生徒を入学させるという結果を招いた。その間,農業技術は大きく改善され生産性は向上したが,それは農業高校の教育によってではなく,工業化に伴う大型機械の導入,農機具の改善や農薬の使用などによるところが大きかった。このように生徒の志望問題や実際の栽培飼育と農学理論とのずれなど農業教育のあり方が問われており,改革への模索がつづけられている。
農村教育
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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