農産物価格政策(読み)のうさんぶつかかくせいさく

改訂新版 世界大百科事典 「農産物価格政策」の意味・わかりやすい解説

農産物価格政策 (のうさんぶつかかくせいさく)

農産物は価格変動が激しい。白菜ダイコンなどで日常経験しているように,少し供給がふえれば価格は暴落し,ちょっと供給が少ないと価格高騰がおきる。生活必需品の常として需要の価格弾力性が小さいからであるが,厄介なことに農業生産は予測しがたい供給変動がおきることを特徴とすらしている。自然条件とくに気象条件に豊凶が左右され,人為的コントロールが困難だからである。加えて,農家は価格が下がったとき単価下落を量の拡大で補おうという行動をとりがちで,価格下落に拍車をかけ,逆に価格上昇が見込まれるときでも生産を拡大する余力をもっていないことが多く,価格をさらに高騰させる。価格変化に対応して供給を調節する力が弱いばかりでなく,逆に行動することが価格変動を増幅させることにもなるのである。また,需要の所得弾力性が小さく,消費者の所得増は必ずしも農産物需要の増とならず,シェーレ(鋏(はさみ)状価格差)現象が作用するもとでは,工業製品に比べての農産物の相対価格は低下しがちであり,農工間の所得格差は拡大する傾向が強い。

 所得格差の拡大はむろん大きな社会問題だし,農産物の価格変動が激しいことは,生活必需品であるだけに社会不安のもとになる。国家独占資本主義段階に入って,資本主義国はいずれも階級対立緩和のための社会政策を強化することになるが,その一環として農産物価格の安定,とくに暴落阻止も大きな政策課題としてとり上げられるようになった。今日,主要資本主義国で農産物価格政策を展開していない国はない。

 日本でも,米価調節政策が昭和に入ると展開されたように,農産物価格政策はかなり長い歴史をもっているが,対象農産物として主要農産物のほとんどをカバーするまでに制度的に整備されるのは1960年以降である。今日では農産物価格政策の対象になっている農産物の総価額は,農業粗生産額の80%を超えるまでになっている。その価格政策の手法は農産物によって違い,政策介入の程度も著しく異なるが,手法に着目して類型化すると次の6類型になる。

(1)管理価格制度 米と葉タバコが対象品目。米については政府(葉タバコは日本専売公社,1985年4月以降は日本たばこ産業株式会社)が作付面積を決め,自家飯米を除く流通量を政府の管理下におき(〈食糧管理制度〉の項参照),政府が一定価格で買い上げる制度である。1968年までは流通量全量が政府対象になったが,69年から政府の需給計画下にはあるが政府が買わない自主流通米制度が始まり,89年産米以降は自主流通米が政府管理米の7割以上を占めるまでになっている(葉タバコは全量買上げ)。自主流通米価格も政府米価格を下回らない価格が保証されており,この類型が最も価格支持の程度が高い。

(2)安定価格帯制度 豚肉牛肉生糸(繭)が対象品目。市場での暴騰,暴落を防止するため,一定の価格幅を政府が決めておき,市価が下限価格以下になったら政府機関(畜産物は畜産振興事業団,生糸は蚕糸砂糖類価格安定事業団であったが,96年10月に両者が合併して農畜産業振興事業団となった)が買い入れて保管し,上限価格を超えたら放出,売渡しをする制度。生糸への介入で繭価格が一定の基準繭価を維持できるようにしている。当該品目の輸入も政府機関がコントロールする。

(3)安定指標価格制度 安定帯ではなく指標価格が維持できるように政府機関が買上げ,売渡しの市場介入を行う制度である。バター,脱脂粉乳,練乳が対象品目。加工原料乳不足払制度と連動している。

(4)最低価格保証制度 サツマイモ,ジャガイモ,テンサイ,サトウキビ,麦類が対象品目。デンプン,砂糖の価格に政府が市場介入を行い,原料農産物の最低価格を保証する。

(5)交付金制度 イギリスでは支配的な制度であるが,日本では加工原料乳,大豆,ナタネに適用されている。原料乳に即していえば,メーカーのための基準取引価格と生産者のための保証価格(いずれも政府が決める)の差額を不足払いする制度である。

(6)安定基金制度 特定野菜,肉用子牛,子豚,鶏卵,加工原料用果実が対象品目。生産者団体,政府機関,地方自治体が出資して基金をつくり,市価が一定水準以下に暴落したとき,一定額の価格補塡(ほてん)を行う制度である。価格政策としては最も政府介入の程度が低く,効果も小さい。
米価
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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