近代スポーツ(読み)きんだいスポーツ

百科事典マイペディア 「近代スポーツ」の意味・わかりやすい解説

近代スポーツ【きんだいスポーツ】

ヨーロッパ近代が生み出したスポーツの総称。modern sport。ヨーロッパ近代の合理主義的な発想によって整備・統一されたスポーツ。すなわち,国や民族宗教を超えてルールや施設や用具マナーを共有するスポーツのこと。別の言い方をすれば,それぞれの民族や地域や宗教に固有のスポーツであった民族スポーツが,それぞれの民族性や土着性や宗教性を排除して,いかなる民族の人びとにも,いかなる地域の人びとにも,そして,いかなる宗教の人びとにも受け入れてもらえるように〈合理化〉され,〈近代化〉されたスポーツのこと。 その多くは,19世紀の英国から発信され,大英帝国植民地をとおして,地球規模の展開をしていった。その典型的な例は〈サッカー〉であろう。今日のサッカーの原型は,地球上の各地に伝承されていた民族・民俗フットボールである。それらの民族・民俗フットボールにはそれぞれの民族性や土着性や宗教性が色濃く盛り込まれていた。しかし,それら固有の色を脱色し,〈普遍性〉を求めたところに近代サッカーの出発点がある。とはいえ,その〈普遍性〉もまた,ヨーロッパ近代,ヨーロッパ・ヒューマニズム,ヨーロッパ・キリスト教という〈ヨーロッパ〉の枠組みからはみ出すものではなかった。今日のサッカーをみればよくわかるように,ここで採用されているルール,施設,用具,審判,マナー,フェアプレーの精神などのいずれをとってもすべてヨーロッパ近代のキリスト教文化の所産である。その意味で,近代スポーツは,〈ヨーロッパ〉という一つのローカルが生み出したスポーツ文化の総称,と呼ぶことができる。 それでもなお,ヨーロッパ産近代スポーツが輸出され,世界の各地に伝播(でんぱ)していく過程では,いやおうなくそれぞれの地域の民族性や土着性や宗教性との摩擦による文化変容が余儀なくされた。たとえば,米国の〈ベースボール〉と日本の〈野球〉とは似て非なるスポーツだと言われるように。あるいは,ニュージーランドクリケットのように,英国産クリケットがまったく変容してしまって,一種の〈クレオール〉化現象が起きていることもまた事実である。つまり,ここには,近代スポーツによるスポーツ文化の〈世界システム化〉の進展と同時に,〈個別化〉や〈クレオール化〉の進展もみられるのである。 近代スポーツのもう一つの大きな特徴は,自由競争を是とする〈競争原理〉にある。今日大きな問題になっているのは過剰に機能しはじめた近代スポーツの〈競争原理〉である。予定調和の範囲内での自由競争は,人間の自由を保障する上で有効に機能した。が,その範囲を越えて,〈過剰に〉競争原理が機能しはじめると,こんどは近代スポーツそのものが人間に対して牙(きば)を剥(む)き始めることになる。今日の〈ドーピング〉問題はまさにここに発する。近代スポーツの未来は,この過剰に働きはじめた〈競争原理〉をどのように止揚し,どのような折り合いをつけていくか,この一点にかかっていると言っても過言ではない。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

世界大百科事典(旧版)内の近代スポーツの言及

【ニュー・スポーツ】より

…サッカーやバスケットボールのようなある程度の練習を必要とし,競争原理の強くはたらく近代スポーツとは別の,誰でも気軽にすぐに楽しむことのできることを目的に新しく考案され,アレンジされたスポーツの総称。日本独自の表現で,近代スポーツに代わる〈新しいスポーツ〉という意味。…

【民族スポーツ】より

…民族音楽,民族舞踊,民族料理などと同じ語法である。したがって,グローバルに展開して,オリンピック(IOC主催)に収斂(しゅうれん)するいわゆる国際スポーツ(あるいは近代スポーツ)からは区別される。世界各地で行われる民族スポーツ(エスニック・スポーツ)を紹介すれば,次のようである。…

※「近代スポーツ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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