退去強制(読み)タイキョキョウセイ(英語表記)deportation

翻訳|deportation

デジタル大辞泉 「退去強制」の意味・読み・例文・類語

たいきょ‐きょうせい〔‐キヤウセイ〕【退去強制】

不法に入国・上陸したり、在留期間を超えて不法に残留したり、法令違反で有罪判決を受けた外国人を、本国あるいは入国する前に居住していた国などに送り返すこと。いわゆる強制送還のこと。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「退去強制」の意味・わかりやすい解説

退去強制
たいきょきょうせい
deportation

最高裁判所判例によれば、「出入国の公正な管理という行政目的を達成するために、入国管理当局が出入国管理及び難民認定法に基づき一定要件の下に外国人を強制的に国外に退去させる行政処分」(最判1995年6月20日)と定義されている。退去強制事由(入管法24条)に該当する場合の多くは刑事罰が科されるが、退去強制は行政上の処分であり刑事罰とは異なるため、刑事罰の適用とは独立して判断される。退去強制された者は原則として5年間または10年間の上陸拒否期間が設けられる(入管法5条1項9号ロハ)。退去強制事由がきわめて悪質な場合には、上陸拒否期間の定めが設けられていない(入管法5条1項10号)。

 退去強制事由に該当するかどうかは、入国警備官による違反調査(入管法27条)を経て、入国審査官審査する(入管法45条)。認定に異議があるときは特別審理官に対し口頭審理の請求(入管法48条)、口頭審理に異議があるときは法務大臣に対し異議を申し出ることができる(入管法49条)。退去強制事由に該当するとの認定が確定すると主任審査官が退去強制令書を発付し、入国警備官により執行され、送還される(入管法52条)。

 以前は、退去強制事由に該当すると疑われる段階から送還されるまで原則としてすべての外国人を収容施設に収容する仕組みが採用されていた(全件収容主義)が、2023年(令和5)の法改正により、主任審査官が、当該外国人を収容するのか、監理人によって監理されながら収容施設外で生活することを認めるのか(監理措置)を判断する仕組みに改められた(入管法39条2項、44条の2~44条の9、52条8項、52条の2~52条の7)。

 退去強制事由に該当する場合であっても、法務大臣が職権または申請により例外的に在留を正規化する方法として在留特別許可制度がある(入管法50条)。以前は、退去強制令書が発付され、口頭審理・異議の申出を経なければ在留特別許可の判断がされなかったが、2023年改正により、収容または監理措置に付された時点から在留特別許可を申請できるようになった。

[坂東雄介 2023年12月14日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「退去強制」の意味・わかりやすい解説

退去強制
たいきょきょうせい
expulsion

一定の事由のある外国人について,本邦からの退去を強制すること。追放または国外退去処分ともいう。外国人の出国は自由とされ,国家がそれを禁止することは,平時においては原則としてできない。しかし,例外的に本人の意に反して強制的に出国が要求される場合があり,その一つが退去強制である。国家が外国人を退去強制できる場合を定める一般国際法上の原則は存在しないので,国家は一応自由にそれを決定できる。しかし,国家はその自由を濫用してはならず,したがって正当な理由なしに外国人を退去強制することは許されないと解される。日本の「出入国管理及び難民認定法 (入管法) 」 24条は不法入国者,不法残留者,刑罰法令違反者,暴力主義的破壊活動を行なう者などいくつかの事由をあげているが,さらに「法務大臣が日本国の利益又は公安を害する行為を行なったと認定する者」と規定し,法務大臣の自由裁量権を許している。退去強制は入国警備官の違反調査,収容,入国審査官による審査,口頭審理,異議の申し出など入管法の定める一定の手続きを経て,退去強制令書の執行によって行なわれ,原則として,その者の国籍または市民権の属する国に送還することになっている。 2004年に入管法の見直しが行なわれ,難民申請者については一定の基準を満たせば退去強制手続きを一時停止し,仮滞在を許可する制度が創設された。なお,外国の外交官に対する退去強制は,国外退去処分という。

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世界大百科事典(旧版)内の退去強制の言及

【外国人】より

…精神的自由は,ほんらい人権のなかでも優越的地位にあるものであるが,日本国憲法または国民主権原理に基づき成立した政府を暴力で破壊することを主張する自由は制限されるであろう(入管法24条4号オ)。居住・移転の自由は,国内におけるものは,国民と平等に保障されるが,入国の自由は,条約等による場合や一定の再入国の場合のほかは認められず,出国は,禁止されえないが,強制される場合(退去強制。入管法24条)があり,在留には外国人登録(申請義務=外国人登録法3条1項,携帯・提示義務=同13条)が必要である。…

【出入国管理】より

…同庁は後に法務省入国管理局へ改組)が制定され組織が整えられて,回復された出入国管理権の行使体制がつくられた。その後30年の間,出入国管理令は改正されなかったが,1980年代になって,国際交通の発達,日本の経済的地位の向上等の時勢の変化に対応するため,在留資格を整備し,在留資格の変更・再入国制度の自由化をはかり,在日韓国・朝鮮人の特例永住許可制度を定め,退去強制事由等を国際人権規約に適合するようにし,また難民条約(難民)の批准にともない,条約の趣旨を実現するための改正が行われた。名称も〈出入国管理及び難民認定法〉(1982公布)となった。…

※「退去強制」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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