通円(読み)つうえん

精選版 日本国語大辞典 「通円」の意味・読み・例文・類語

つうえん ツウヱン【通円】

[一] 茶人。平安末期ごろから山城国(京都府)の宇治橋の南岸に住む橋守であったが、のち、古川通円と名のり、茶を売ることを業とし、茶道にも通じて大慶庵と号した。その後、家は代々続いたが、同所に通円茶屋があり、広く世に知られた。初代古川通円の遺墨類は大徳寺に伝えられているという。
[二] 狂言。各流。舞狂言旅僧宇治の里で宇治橋供養の時に茶を立て過ぎて立て死にした通円という茶屋坊主の話を聞き、回向していると通円の亡霊が現われて最期の時の様を語る。能「頼政」をもじったもの。

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デジタル大辞泉 「通円」の意味・読み・例文・類語

つうえん〔ツウヱン〕【通円】

茶人。京都の人。もと宇治の農民で、宇治橋の東詰に茶店を出したといわれる。古川通円と自称し、代々その名を継いだとされる。狂言の主人公として有名。生没年未詳。
狂言。舞狂言。旅僧の前に通円という茶屋坊主の霊が現れ、宇治橋供養で茶をたてすぎて死んださまを語り、回向えこうを願う。謡曲頼政」をもじったもの。

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改訂新版 世界大百科事典 「通円」の意味・わかりやすい解説

通円 (つうえん)

狂言の曲名。舞狂言。大蔵,和泉両流にある。東国の僧が都見物をすませ奈良へ向かう途中,宇治橋のたもとに着く。そこには,人もいないのに茶の湯を手向け,花を供えた茶屋があるので,ふしぎに思い所の者にたずねると,昔,通円という茶屋坊主が宇治橋供養のとき,茶を点(た)てすぎて死んだ跡だと語り,回向を勧める。僧は夢で通円に会うことを期待して茶屋に寝ていると,枕もとに通円の幽霊が現れる。そして,宇治橋供養半ばに都からの巡礼者が300人ほど,通円の点てる茶を飲みほそうと押し寄せて来たので,負けじとばかり大茶を点てて争ったが,ついに負けて最期をとげたと語り,回向を頼んで消え失せる。シテは通円。大蔵流は通円という名の専用面,和泉流は鼻引(はなひき)の面をかける。能様式なので,とくに僧をワキ,所の者をアイと称する。《楽阿弥(らくあみ)》《蛸(たこ)》《祐善(ゆうぜん)》などとならんで,夢幻能(むげんのう)の形式を模した構成。一見荘重に演じながらも,狂言らしい戯画的精神と俳諧味が漂う。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「通円」の意味・わかりやすい解説

通円
つうえん

狂言の曲名。舞狂言。平等院参詣(さんけい)を思い立った旅僧が宇治橋までくると、茶屋に茶湯(ちゃとう)が手向けられている。不思議に思い所の者に尋ねると、昔、宇治橋供養のおり、通円という茶屋坊主があまりに大茶を点(た)て、点て死にした命日だと語る。そこで旅僧が供養していると、通円の亡霊(シテ)が現れ、橋供養のため都から押し寄せた300人の道者(どうしゃ)に1人残らず茶を飲ませようと孤軍奮闘、ついに点て死にした最期のありさまを謡い舞い、回向(えこう)を願って消え去る。能『頼政(よりまさ)』のパロディーで、最期を述べる部分は詞章ももじりになっている。通円は宇治の橋守が世襲した実在の名で、この曲のモデルは豊臣(とよとみ)秀吉に愛顧されたという中興の通円であろうか。平等院には「太敬菴通円之墓」が残っている。

[小林 責]

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「通円」の解説

通円 つうえん

?-? 織豊時代の茶人。
家は代々山城(京都府)宇治橋の橋守をつとめる。宇治橋東詰に茶店(通円茶屋)をいとなむ。また豊臣秀吉に茶の湯用の水をおさめていたという。号は大慶庵。
【格言など】一服一味一期中 最期一念雲脚淡(辞世)

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「通円」の解説

通円
つうえん

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
初演
元禄9(京・古今新左衛門座)

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世界大百科事典(旧版)内の通円の言及

【水茶屋】より

…葉茶を売る葉茶屋と区別して,水茶屋といった。《本朝世事談綺》(1734)は京の祇園社境内の二軒茶屋,《嬉遊笑覧》(1830序)は宇治橋際の通円(つうえん)を,水茶屋の始まりとする。室町時代から見られた一服一銭の茶売が,よしず張りの掛小屋に床几(しようぎ)をしつらえるなどするようになってからの名で,これらがやがて酒食を供するようになって煮売茶屋,料理茶屋となり,店の奥に座敷を設けるところが現れると,それが男女の密会や売春の場となっていった。…

※「通円」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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