進水(読み)シンスイ(英語表記)launch

翻訳|launch

デジタル大辞泉 「進水」の意味・読み・例文・類語

しん‐すい【進水】

[名](スル)新しく建造し船体工事をほぼ終了した艦船を、水上に浮かべること。

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精選版 日本国語大辞典 「進水」の意味・読み・例文・類語

しん‐すい【進水】

〘名〙 新しく建造した艦船を水上に浮かべること。また、新しい船がはじめて水に進み入ること。船尾進水横向進水浮上進水などの方法がある。
※日本‐明治三一年(1898)一月二四日「二等巡洋艦笠置の進水 軍備拡張案中の一艦にして」

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改訂新版 世界大百科事典 「進水」の意味・わかりやすい解説

進水 (しんすい)
launch

船台または建造ドックでつくられた船を水の上に浮かべる作業。進水には船尾から水面に降ろす船尾進水,横向きに降ろす横向進水,ドック内に水を入れて浮上させる浮上進水があり,小型船ではクレーンによる進水も行われるが,一般に進水といった場合には船尾進水を指す。進水は船台あるいは建造ドックで船体主要部がほぼでき上がったときに行われ,このとき初めて船は水に浮くことになる。また進水は船殻工事が終わり艤装(ぎそう)工事へと進む工程上の重要な節点でもあり,ふつう盛大に進水式が行われる。

(1)船尾進水 海に向かって直角につくられた傾斜をもつ船台上の船を水に降ろすときに行われる。船尾から進水させるのは,船の一端が浮揚するときにもう一端に加わる大きな力を受けもつのは,船尾より強固につくられている船首のほうがよいこと,早く浮かべ,そして行き足を早く止めるには太い船尾を先に入れたほうがよいことなどの理由からである。進水に先立ち,船台上に固定台と船体をのせて滑る滑走台からなる進水台が通常,2条設けられる(固定台は水面下かなり先まで延ばしてある)。固定台と滑走面の間には牛脂とパラフィンが塗られ,船体が滑りやすくなる方法が取られていたが,最近は鋼球を使ったボール進水法が多く採用されている。進水直前になると,今までキール盤木をはじめとする船底盤木で支えられていた船体重量をすべて進水台だけで支えるよう,すべての盤木,支柱を外す盤木外し作業が行われ,このとき船はトリガーと呼ばれる滑り止め金物だけで止められる。進水式で支綱切断が行われると同時にトリガーが外れ,船は自重で滑り出し海に浮かぶことになる。海上に滑り出た船は錨や錨鎖(びようさ)で速力を落として止め,引船に引かれて艤装岸壁に係留されて進水作業が終わる。進水作業は巨大な重量物を滑走させて浮かばせるため,昔から困難な作業とされており,大型客船や軍艦の場合,とくに苦労が多く,進水の数年前から進水計画が立てられることもあり,また,かつては進水に失敗した例もいくつか報告されている。

(2)横向進水 進水の方法は船尾進水と同様であり,ただ船が進水海面に平行に置かれてつくられ,横滑りして進水する点が異なる。この方式は水面に進んだ後の抵抗が大きく船がすぐ止まるため,河川のほとりの造船所で多く採用されているが,進水後の船体の動揺が激しく,また進水後船が船台の端に打ちつけられる危険もある。日本では見られないが欧米では採用されることが少なくない。

(3)浮上進水 建造ドックで建造された船を,ドックに水を入れることで浮上させるもので,進水方法としてはもっとも容易である。

進水式は建物の上棟式に相当する重要な式典である。式は船主造船所の関係者の見守る中で,まず命名式が行われる。英米では,船主が〈I name this ship…. May God bless her and all who sail in her〉というのが習わしとなっている。続いて船台上の最後の盤木外しが行われ準備作業をすべて終わる。進水はふつう船主側の夫人令嬢が式台上で金の斧で支綱を切断することで始まり,支綱に結んだシャンパンが船首に当たって砕け,船首上のくす玉が割れる。同時に船を止めていたトリガーが外され船は船台上を滑って無事海面に浮いて,まわりの船から汽笛の祝福を受けて式典を終わる。この間わずか数十秒であるが,船の一生でもっとも晴れがましい瞬間であり,船主と造船所の関係者と作業員にとっても感動の一瞬である。浮上進水の場合,式の進め方は同じであるが,支綱切断後船は引船でドックから引き出されるため,華やかさはなく,式を行わない例も多い。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「進水」の意味・わかりやすい解説

進水
しんすい
launch

船台上またはドック内で建造した船を水に浮かべること。船台で建造された船は船体工事がおおよそ完成すると、進水用として船台に固定した固定台と、船体に固定した滑走台がつくられる。この二つを進水台といい、滑走台が固定台の上を滑って進水する。これらは普通2条設けられるが、大型船では3~4条になる。固定台と滑走台の間に直径9センチメートルほどの鋼球を挟んで摩擦を減らし船を滑らせるボール進水と、鋼球のかわりにヘット(牛脂)を挟むヘット進水とがある。

 建造途中の船の船底と船台の間は1メートルほどあいており、船の重量は積み木のような形の木材を積み重ねた盤木(ばんぎ)や支柱などで支えられている。進水が近くなると木製の固定台を船台上に並べる。コンクリート製の固定台があらかじめ船台の一部として作り付けになっている場合もある。次に固定台と船底の間へ滑走台を引き込み、滑走台と船底の間へくさび状の木材(進水矢)をのせ、ワイヤなどで滑走台を船底に引き付けて固定する。また、滑走台と固定台の間に鋼球またはヘットを挟む。この時点で船の重量は盤木や支柱で支えられており、ほとんど進水台にはかかっていない。進水当日になると進水矢を打ち込んで滑走台をしっかり船体に固定するとともに、盤木や支柱を徐々に取り外してゆく。すると、船体重量はしだいに進水台にかかってゆき、進水直前になると、梃子(てこ)を数段に組み合わせたトリガーtrigger(引き金装置)で船が滑り出すのを止めている状態になる。進水式場まで引いてある綱が切断されると、このトリガーが外れて船が滑り出すようにしてある。巨大な船体が相当のスピードで進水する光景は壮観ではあるが、もし滑らなかったり止まったりしたら、重い船体をふたたび滑らすのは至難のわざである。進水は建造工程の節目でもあり儀式でもあって、やり直しができない。日本では船を長さ方向へ滑らせる縦進水が普通であるが、対岸までの距離が短い河川に面した造船所では、進水した船が対岸へ乗り上げる恐れがある。そこで、河川に平行な船台で建造した船を横方向に滑らせて、進水後の走行距離を短くする方法があり、海外にその例がみられる。

 ドック内で船を建造することも多く、この場合はドックへ水を引き入れるだけで船が浮かぶ。作業が簡単であり安全度も高いから、超大型船の建造、進水にはこの方法がとられる。そのほか、小型船ではトロッコのような台車を使う進水、あるいはクレーンで船をつって浮かべる進水もある。

[森田知治]

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百科事典マイペディア 「進水」の意味・わかりやすい解説

進水【しんすい】

船台またはドックで建造した船を,船殻(せんこく)が完成したとき初めて水上に浮かべること。船尾進水,横向進水(河川,入江など水域が狭いとき行う),浮上進水(ドックに注水して浮上させる)がある。ふつうは縦進水で,獣脂を塗るか,鋼球やころを置いたレール上の船体をすべらせて進水させる。進水作業は大重量の船体を円滑に移動させるため,船体の重量,重心,モーメント,浮力,船体・進水台の強度,進水後の復原性,停止位置,潮汐(ちょうせき)などにつき,事前の綿密な計算に基づいて行われる。
→関連項目造船

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「進水」の意味・わかりやすい解説

進水
しんすい
launch; launching

船台やドックで組立てられた船体を,水に浮かせる作業。船台で建造するときは,船底に固定台と滑り台を設ける。固定台は船台に固定され,その上に船体と連結する滑り台が乗る形になる。固定台と滑り台の間には,獣脂や軟石鹸を塗布したり,ローラ,ボールなどを用いて船体が滑走しやすいようにする。普通,船尾から滑走させる。タンカーなどの大型船はドックで建造されるので,進水もドック出しといわれ,ドックの中に注水して船体を浮上させ,タグボートで引出す方法をとる。進水は船の誕生であり,船の一生にとって意義のある行事なので,進水式を行なって祝福する。進水後は,船体は艤装 (ぎそう) 岸壁につながれ,内装などの仕上げ工事を行う。

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世界大百科事典(旧版)内の進水の言及

【ランチ】より

…もとは帆走軍艦に積んでいたオールと帆を使う大型ボート。後には同じ用途の艦載大型モーターボートもランチと呼び,さらに船載と限らず,港内や河川,湖沼などで人員の輸送に使う大型モーターボートにも同じ名称を使うようになった。日本では港内交通艇をいい,全長15m程度,簡単な船室と座席を有し,船速10ノット強。沖がかりする入港船と陸の間の人員輸送がおもな用途である。【野本 謙作】…

【造船】より

…また艤装についても,ブロックの建造時に取り付けてしまう先行艤装が積極的に採用されている。
[進水から引渡しまで]
 船体の形ができ上がると船を海に浮かべる進水作業が行われ,このとき命名式と進水式が盛大に行われる(ただし,ドックで建造した場合はドックに注水して船を浮上させるので,本来の進水式はない)。進水した船は艤装岸壁へ曳航ののち係留され,主機をはじめ,あらゆる機器,金物がクレーンで積み込まれ船内で取り付けられ,調整されていく。…

※「進水」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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