遼寧(省)(読み)りょうねい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「遼寧(省)」の意味・わかりやすい解説

遼寧(省)
りょうねい / リヤオニン

中国、東北地区南部の省。面積14万5900平方キロメートル、人口4135万3441(2000)。略称は遼。14地区級市、17県級市、19県、8自治県(2001年現在)からなる。省都は瀋陽(しんよう/シェンヤン)市。

 東部は長白山地に続く遼東丘陵で、千山山脈が主脈をなし、その南端は南西に伸びて遼東半島を構成し、黄海と渤海(ぼっかい)を隔てている。中部は東北平原の南部にあたる遼河平原で、遼河が蛇行しつつ南流し、渾河(こんが)、太子(たいし)河などが合流する。河口部は広いデルタを形成し、遼河は数本に分流して、渤海北部の遼東湾に流入する。河口の海沿いの平地は最近の干拓地を含み、盤錦(ばんきん)墾区とよばれる。西部は遼西丘陵で、大凌(たいりょう)河、小凌河が貫流し、また内モンゴル自治区との省境付近をヌルルフ山が走る。西部の遼東湾岸沿岸は背後の丘陵との間に細長い平野が形成され、遼西(りょうせい)走廊とよばれ、古来華北地区と東北地区間とを結ぶ交通路として重視された。

 気候は夏は高温だが冬は寒冷で、7月の平均気温は22~26℃だが、1月の平均気温は零下10℃を下回り、零下18℃に達する所もある。年降水量は北西部の内モンゴル自治区との境界では400ミリメートルだが、東部では1200ミリメートル以上になる。住民の大部分漢族であるが、ほかに満洲族モンゴル族、回族、朝鮮族などが住み、瀋陽などにシボ族も居住する。

[河野通博]

歴史

この地方への漢族の移住は古く、戦国時代には西部は燕(えん)国に属していた。秦(しん)代には遼東、遼西などの郡が置かれ、漢代には幽州(ゆうしゅう)に属し、遼西、遼東、玄菟(げんと)の諸郡が置かれた。後漢(ごかん)には、東部は高句麗(こうくり)の支配下に入り、多くの山城が建設された。唐代には領土拡大により、安東都護府と河北道に属した。遼の興起とともにその根拠地となり、東京、上京、中京などの道が置かれた。元(げん)代は遼陽行中書省に、明(みん)代は遼東都指揮使司に属した。満洲族が勢力を拡大すると、初めは新賓(しんひん)、ついで遼陽、さらに瀋陽に都を置き、中国統一後は盛京(せいけい)省とよばれ、清(しん)末には奉天省と改称、さらに1929年遼寧省と改められた。19世紀末のロシア帝国の東進により、東支鉄道南満支線(後の南満州鉄道)が敷設され、また商港の大連(だいれん/ターリエン)と軍港の旅順(りょじゅん/リュイシュン)がロシアの租借地となった。日露戦争後、これらの利権は日本が取得し、戦争中に安東(現、丹東)―奉天(現、瀋陽)間に敷設された軍用鉄道と南満州鉄道は日本の南満州鉄道株式会社(満鉄)が経営した。鞍山(あんざん/アンシャン)、撫順(ぶじゅん/フーシュン)、本渓(ほんけい/ペンシー)などの鉱山も日本に支配された。さらに旅順、大連を含む旅大半島は日本の租借地となり、関東州と命名され、関東州長官の管轄下に置かれ、瀋陽などには満鉄付属地がつくられ、これらの警備のため関東軍が常駐した。1931年(昭和6)関東軍は瀋陽郊外で計画的に満鉄の線路を爆破し、中国軍の行為であると偽って、それを口実に日本は大軍を派遣して東北全域を武力で支配し、傀儡(かいらい)政権の満州国を樹立した。それ以後45年まで日本の支配下にあったが、日本の無条件降伏により中国に返還された。しかし接収した国民政府の腐敗と内戦により経済は荒廃し、48年の解放以後ようやく復興の途についた。

[河野通博]

産業

地下資源に富み、ことに鉄、石油、石炭マグネシウムモリブデンマンガン、油母頁岩(けつがん)などが豊富である。石炭は開発が早くから進み、撫順、阜新(ふしん/フーシン)、鉄法(てっぽう)、本渓、北票(ほくひょう/ペイピヤオ)などの炭鉱があるが、工業化に伴う需要増のため供給不足をきたしている。石油は遼河河口に遼河油田が発見され、鞍山には低品位ながら豊富な鉄が、営口(えいこう/インコウ)にはマグネシウムの富鉱がある。また撫順は油母頁岩が豊富で、遼河油田のほか、黒竜江省の大慶(たいけい)油田からパイプラインで原油が輸送され、石油化学工業が盛んである。

 これらの地下資源を利用して、瀋陽、鞍山、本渓、撫順、遼陽、大連、錦州などでは重化学工業が発展し、鞍山には中国最大の鉄鋼コンビナートが建設され、瀋陽にも鉱山機械をはじめ多くの重機械工業が発達する。また遼陽には大規模な合成繊維工場が、大連には造船、鉄道車両などの輸送機械工場がある。瀋陽などには綿紡織工業も立地する。

 かつて遼河水系は水害が多かったが、解放後、治水事業が進行し、各支流上流部には桓仁(かんじん)、大平哨(たいへいしょう)、大伙房(たいかぼう)などの大型ダムが完成し、西部には砂漠化を防ぐため飛砂防止用の防護林帯が造成された。農産物はコウリャン、トウモロコシ、アワ、大豆、綿花が中心だが、遼東半島にはリンゴ、ラッカセイが多く、遼河下流と渾河沿岸には水田が開けている。丹東付近では柞蚕糸(さくさんし)を産する。沿海部では漁業、天日製塩も盛んである。

 鉄道は全国でもっとも稠密(ちゅうみつ)で、国際列車の走る京哈(けいこう)、哈大(こうだい)、瀋丹(しんたん)の3鉄道のほか、瀋吉(しんきつ)、錦承(きんしょう)、魏塔(ぎとう)、新義(しんぎ)、大鄭(だいてい)などの諸鉄道が省内を縦横に走り、遼河の一部も航行が可能である。大連は中国の代表的対外貿易港の一つで、東北全域の門戸である。

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