還穀(読み)かんこく

改訂新版 世界大百科事典 「還穀」の意味・わかりやすい解説

還穀 (かんこく)

朝鮮の高麗,李朝で行われた公営穀物貸与制度。〈還上〉とも言う。〈還穀〉の制度化は高麗初期(10世紀)に〈義倉〉を配置したことに始まり,李朝初期(15世紀)の〈社倉〉〈常平倉〉設置で全国的に完成した。しかしこれは凶年のみの臨時措置で,常設化されたのは1626年の常平・賑恤(しんじゆつ)庁設置からである。本来〈還穀〉は凶作時の救済が目的で,専用の貯蔵穀や軍糧を春の端境期に貸し出し,秋の収穫期に無利子か利子付きで返還させる制度である。また副次的には貯蔵穀の更新や物価平準も目的とした。しかし壬辰・丁酉の乱(文禄・慶長の役。1592-98)と丙子の乱(1636)の後は,国家財政危機の打開策としてその利子収入が着目されるに至った。売官などで捻出した穀物(元穀)を各官衙・軍営に配付し,それを各郡県を通して民衆に強制貸付けして10%の利息(耗穀)を経費に充当させたのである。〈還穀〉はこうして賦税の一種に転化し,利率引上げや中間に介在する土豪・郷吏悪用もあって民衆を苦しめた。これに抵抗する民衆は1862年に一斉蜂起した(壬戌(じんじゆつ)民乱)。このように〈還穀〉の弊害面が肥大化したため,1867年〈社倉〉を復活し,95年〈社還米〉と改称して利率を引き下げた。しかし弊害はそれでも収まらず,1917年〈還穀〉は朝鮮総督府により廃止された。とはいえ,恒常的な食糧不足に苦しむ中小農民が再生産を行うためには,〈還穀〉を必要としたことも事実であろう。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の還穀の言及

【三政】より

…朝鮮,李朝における田税(田政),軍役(軍政),還穀(還政)の三大収取体制をいう。田税は初め科田法で収穫物の10分の1とされたが,李朝後期には一結(結負制)につき本来の田税が米4斗,大同法による大同米が12斗,その他が4斗とされた。…

※「還穀」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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