酵素剤(読み)コウソザイ

デジタル大辞泉 「酵素剤」の意味・読み・例文・類語

こうそ‐ざい〔カウソ‐〕【酵素剤】

酵素を用いた医薬品消化をよくするジアスターゼパンクレアチン血栓溶解するウロキナーゼ炎症を緩和するリゾチームなど。

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改訂新版 世界大百科事典 「酵素剤」の意味・わかりやすい解説

酵素剤 (こうそざい)

酵素は生物細胞によってつくられ,細胞の内外での物質の反応を生物の生存できる程度の温度圧力のもとで促進する触媒として働くタンパク質である。人間はさまざまの酵素をさまざまの形式で人間生活の営みのうえに利用しているが,酵素剤という医薬としての活用もまた将来性に富んだ一つの応用領域である。たとえば,細胞内で酵素の正常な働きが発揮できないとき,生体機能のうえに障害が生ずる。このような場合に細胞内に酵素を与えてやることができれば合理的である。しかし酵素は高分子化合物であるため,現在の医療技術ではこれを細胞内の適当な場に押し込んで,細胞内でその作用を発揮させることには成功しておらず,現状としてはもっぱら細胞外ないし細胞表面への酵素の作用に基づく薬効に期待しているわけである。

この目的にはさまざまの動植物起源,微生物起源のデンプン,タンパク質,脂肪などに対する加水分解酵素が使われる。一般的なものとしては,ウシブタ膵臓から抽出したパンクレアチン(デンプン,タンパク質消化を主とし,脂肪消化作用ももつ),各種のジアスターゼ類(発芽中のオオムギコウジカビなどからのデンプン消化酵素が主体),パパイア果汁からのパパイン(タンパク質消化酵素)などがよく知られている。また,乳糖不耐性の乳児(小腸に固有の消化酵素であるラクターゼの遺伝的欠損によってミルク中の乳糖が消化されず,下痢を起こしやすい)に対する補充療法剤としてのβ-ガラクトシダーゼ(ラクターゼと同様に乳糖を消化しうる酵素)もこのカテゴリーに入る酵素剤である。

キモトリプシン,ブロメラインその他の動植物,微生物起源のタンパク質加水分解酵素類や細菌細胞壁のムコペプチドの分解酵素であるリゾチームなどは,これらを内服した場合に種々の炎症症状を改善する作用,副鼻腔や気管支における分泌物,膿汁などの粘度を下げ排出を容易にする作用などが認められるとして,これらの目的で歯科領域,耳鼻咽喉科領域などで使用されているが,理論的裏づけは不明確のまま残されている。

ヒト尿から抽出されるウロキナーゼ(血液凝固機構によって析出凝固したフィブリンすなわち繊維素を溶解する作用をもつ繊溶系の活性化酵素)は,血栓性の疾患に対して血栓の溶解を期待する治療剤として静脈内に注射される。また溶血性連鎖球菌の1種が産生するストレプトキナーゼもまた同様に使用される。ただし,ストレプトキナーゼは厳密には酵素ではなく,不活性型の繊溶系活性化酵素を活性化する物質である。また同じ菌が産生するストレプトドルナーゼはデオキシリボ核タンパク質の分解酵素であって,タンパク質分解酵素であるトリプシンやコラゲナーゼとともに,化膿巣局所や熱傷で破壊された組織などを清浄化するために使われる。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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