金剛頂経(読み)コンゴウチョウギョウ

デジタル大辞泉 「金剛頂経」の意味・読み・例文・類語

こんごうちょう‐ぎょう〔コンガウチヤウギヤウ〕【金剛頂経】

大乗経典不空訳「金剛頂一切如来真実摂大乗現証三昧大教王経」3巻、金剛智こんごうち訳「金剛頂瑜伽中略出念誦ねんじゅ経」4巻のほか施護せご訳がある。「大日経」と並ぶ真言密教の根本経典で、金剛界思想を説いたもの。

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精選版 日本国語大辞典 「金剛頂経」の意味・読み・例文・類語

こんごうちょう‐ぎょう コンガウチャウギャウ【金剛頂経】

通常は不空訳の「金剛頂一切如来真実摂大乗現証大教王経」三巻をさす。別に金剛智訳と施護訳がある。真言密教秘経一つ大日如来成仏(じょうぶつ)次第を通じ、釈迦すなわち金剛界如来が、金剛界三十七尊を出生したことや、この金剛界曼荼羅建立儀則弟子曼荼羅に導入する法などを説いた経典。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「金剛頂経」の意味・わかりやすい解説

金剛頂経
こんごうちょうぎょう

仏教の経典。『大日経(だいにちきょう)』とともに真言密教における二大経典の一つで、さらに『蘇悉地(そしつじ)経』を加えて三部秘経とする。『金剛頂経』は南インドのアマラバティで成立したと考えられている。『金剛頂経』は単数の経典ではなく、新古いくつかの同系統の経典の総称である。このうち初期の成立で、かつ内容的にも後の『金剛頂経』の方向を決定した、初会(しょえ)の『金剛頂経』が、アマラバティの成立と考えられる。

 この経は、金剛界の思想を説き、金剛界曼荼羅(まんだら)のもととなる経典で、『大日経』の胎蔵(たいぞう)界、胎蔵界曼荼羅に対する。『金剛頂経』はもと瑜伽行唯識(ゆがぎょうゆいしき)派の思想を受け、密教の三密思想(仏の身体、言語、心によって行われる行為は霊妙、不可思議な働きであるとするもの)、大日如来(にょらい)の信仰にたちながら、密教の認識論的、実践的側面を著しく発達させた。このように『金剛頂経』群の一貫した特色は、『大日経』で確立された「悟りの心」(菩提心(ぼだいしん))を認識論的に具体的に実践的に把捉(はそく)しようとする試みである。したがってここでは、心の観察、冥想(めいそう)(観法)の段階が、こと細かに展開される。密教の阿毘達磨(あびだつま)ともいうべき議論が繰り広げられる。

 この経の成立には、長い歴史があったものと思われ、広本、略本4種があったともいわれ、そのうちの18会(え)10万頌(じゅ)の大本(だいほん)が分かれて今日伝わったともいわれる。『金剛頂経』(初会の)は前後3回中国に紹介された。最初にこれを翻訳したのは唐代の金剛智(こんごうち)である(『金剛頂瑜伽中略出念誦(りゃくしゅつねんじゅ)経』4巻)。こののち、金剛智の弟子として『金剛頂経』を翻訳し、中国の密教界を大成したのは、同時代の不空(ふくう)であった(『金剛頂一切如来真実摂(しょう)大乗現証三昧(ざんまい)大教王経』3巻)。その後、遠く下って宋(そう)代の施護によって『真実摂経(しんじつしょうきょう)』(初会の『金剛頂経』の翻訳)が完成された。このほか広本の『理趣経(りしゅきょう)』なども、その一種とする。

[金岡秀友]

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改訂新版 世界大百科事典 「金剛頂経」の意味・わかりやすい解説

金剛頂経 (こんごうちょうぎょう)
Jīn gāng dǐng jīng

真言密教で用いる,根本聖典の一つ。詳しくは《金剛頂一切如来摂大乗現証大教王経》といい,唐代中期に不空が漢訳したもの。如来が金剛三摩地に入って金剛界三十七尊を出生する,金剛界大曼荼羅(まんだら)の建立と,弟子を曼荼羅に引き入れる方法や羯摩,三種曼荼羅について説き,この経によって金剛界曼荼羅(両界曼荼羅)が図示される。胎蔵部に属する《大日経》とあわせて,両部大経と呼ばれ,空海がこれを日本に伝えるが,チベットでもツォンカパ密教のよるところとなる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「金剛頂経」の意味・わかりやすい解説

金剛頂経
こんごうちょうぎょう

真言宗三部秘経の一つ。『大日経』とともに密教の根本聖典となっている。梵本は日本で出版されており,漢訳は3種残っている。第1は,唐の不空訳出の『金剛頂一切如来真実摂大乗現証大教王経』 (3巻) 。最も一般的なもので,日本にも空海が将来している。第2は,唐の金剛智訳の『金剛頂瑜伽中略出念誦経』 (4巻) 。第3は,宋の施護訳『一切如来真実摂大乗現証三昧教王経』 (30巻) 。これは 26分から成り,梵本と一致し,初めの部分は不空訳の3巻本に相当している。元来,広本と広本の精要を略出した略本の2種があったというが,現存する上記の3種はすべて略本である。内容は,金剛界如来が金剛三摩地に入り,金剛界の 37尊を出生して,如来を礼賛することや,密教独自の秘密儀則を詳細に述べたもの。金剛頂とは,諸経典のなかの最高峰という意味である。

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世界大百科事典(旧版)内の金剛頂経の言及

【密教】より

…第1の雑密とは,世界の女性原理的霊力をそれと同置された呪文,術語でいう真言(しんごん)(マントラ),明呪(みようじゆ)(ビディヤーvidyā),陀羅尼(だらに)(ダーラニー)等の誦持によってコントロールし,各種の目的(治痛,息災,財福の獲得など)を達しようとするものである。純密とは《大日経(だいにちきよう)》と《金剛頂経(こんごうちようきよう)》のいわゆる両部大経を指すが,前者は大乗仏教,ことに《華厳経》が説くところの世界観,すなわち,世界を宇宙的な仏ビルシャナ(毘盧遮那仏)の内実とみる,あるいは普賢(ふげん)の衆生利益の行のマンダラ(余すところなき総体の意)とみる世界観を図絵マンダラとして表現し,儀礼的にその世界に参入しようとするもので,高踏的な大乗仏教をシンボリズムによって巧妙に補完したものとなっている。《金剛頂経》はシンボリスティックに表現された仏の世界を人間の世界の外側に実在的に措定し,〈象徴されるものと象徴それ自体は同一である〉というその瑜伽(ヨーガ。…

【竜猛】より

…ただし,歴史的には密教の成立は7世紀ころとされるから,その時期に同名異人が存在したとする説もある。不空が著した《金剛頂義訣》によれば,竜猛は大日如来の真言を誦持して,封鎖された鉄塔を7日間めぐり,7粒の白芥子を塔の門戸に投げつけてみごとにその塔の扉を開け,塔内の諸仏菩薩から,密教の根本聖典である《金剛頂経》を授けられた。これが世に密教が伝えられたはじめとされている。…

※「金剛頂経」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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