きん‐さつ【金札】
[1] 〘名〙
※
謡曲・金札(1384頃)「あら不思議や、天より金札の降り下りて候。すなはち金色の文字すわれり読み上げ給へ」
② 帝王の
書状を敬っていう語。勅書。〔
日葡辞書(1603‐04)〕
③
江戸時代、
諸藩が発行した
金貨代用の紙幣。実際には銀札・銭札・米札が多く、金札の発行は少なかった。
※
雑俳・十八公(1729)「金札をもって源五が廓行」
④ 明治元年(一八六八)から同二年に発行された太政官金札と民部省金札。
※第四一三‐明治二年(1869)五月二日(
法令全書)「是迄金札相場被立置候に付夫々引換等も有之候処」
⑤
閻魔(えんま)の庁で、
浄玻璃の鏡にかけて
善人と
悪人を見分け、善人ならその名前を記して極楽へ送るという金製の札。
金紙(きんし)。⇔
鉄札。
※御伽草子・
梵天国(室町末)「きんさつに御判をあそばし」
⑥
能楽で用いる
小道具の一つ。将棋の駒を大きくした形の薄板に表裏ともに
金箔を押したもの。能「金札」の頭にかぶる輪冠
(わかんむり)の上の立物
(たてもの)として、また、「羅生門」の渡辺綱が、証拠の
標札として手にする時に用いる。
※
咄本・
聞上手(1773)綱右衛門「我先祖渡辺の綱、君の仰を蒙り、印の金札給りて」
⑦ 金色に塗った立て札。
※慶長見聞集(1614)七「江戸町の門々に〈略〉異様なる名を付て金札に書付、
海道に立置たり」
⑧ ⑦のうち、特に江戸上野の
元三大師・
慈眼大師は毎月三〇日夕方の七つ時(午後四時三〇分前後)限りに、三六坊を順次遷座し、一坊に一か月鎮座したが、その前に、「両
大師」と書いて立てた標札。大師札。
※雑俳・柳多留拾遺(1801)巻一〇「金札も大師につれて山めぐり」
[2] 謡曲。脇能・
五番目物。各流。作者不詳。伏見の大宮を造営せよとの
桓武天皇の
勅命を受けて伏見を訪れた
臣下は、そこの老人から、天から降ってくる金札のいわれを聞く。老人は自分こそ天津太玉神
(あまつふとだまのしん)であると名乗って消える。その夜、神が真の姿で現われ、
悪魔降伏・国土守護を誓って舞う。
こん‐さつ【金札】
〘名〙
① 厳格な規則。鉄則。
※伝教大師消息(824‐831頃)「高雄持念闍梨 辱枉二金札一、深慰二下情一、歓喜之誠、不レ面何言」
② 閻魔
(えんま)の庁で、浄玻璃の鏡にかけて善人と悪人を見分け、善人ならばその名前を記して極楽に送るという金製の札。金紙。きんさつ。⇔
鉄札。
※浄瑠璃・善光寺(1678)四「かくてゑんま王ぐうには、十五十たいあきらかに、きょくざにうつらせ玉へば、くしゃうじんさゆうに立、こんさつてつさぜんあくのあさきふかきをただし玉ふ」
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デジタル大辞泉
「金札」の意味・読み・例文・類語
きんさつ【金札】[謡曲]
謡曲。脇能・五番目物。喜多以外の各流。観阿弥作。桓武天皇の勅使が神社創建のため伏見へ行くと天から金札が降り、天津太玉神が現れて、悪魔を祓い御代を祝福する舞を舞う。
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金札
きんさつ
江戸時代,金貨を引替えの対象として発行された紙幣。藩札としておもに関東,東北地方に流通したもののほか,慶応3 (1867) 年幕府の発行した江戸銀座金札,明治政府が明治1 (68) ~2年に発行した太政官札,民部省札などがある。
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世界大百科事典(旧版)内の金札の言及
【現物給与】より
…イギリスでは,ときに,雇主は賃金の全額を現物で支払ったり,雇主またはその仲間の経営するトミー・ショップtommy shopsとよばれた売店でのみ使用可能な金券で賃金の一部を支払った。同様の金券は日本でも山札や金札とよばれ,明治・大正期に鉱山や土建業の飯場で広くみられた。このような現物給与はしばしば大きな弊害をともなった。…
【貨幣】より
…【作道 洋太郎】
[近代日本の貨幣法制]
安政の開港により,日本へのメキシコ・ドルの流入と日本からの金貨の流出が激化し,貨幣制度は大混乱に陥った。明治新政府は,この混乱を静め,その経済基盤を確立するために,1868年[太政官札](金札)の発行を布告したのを手はじめに,69年,[民部省札],71年,大蔵省兌換証券,72年,新紙幣,開拓使兌換証券,81年,改造紙幣等々の紙幣を発行した。硬貨に関しては,当面,江戸時代の旧制によるとされたが,1869年以降,従来の四進法から十進法への変更,銀本位制ないしは金本位制の採用等々が種々検討された結果,71年の新貨条例により,金単本位制が採用されることとなった。…
【太政官札】より
…金札ともいう。明治政府が1868年(明治1)閏4月19日発行を布告した不換紙幣(5月15日から発行)。…
【藩札】より
…1871年(明治4)の調査によると,全国諸藩の約80%にあたる244藩で藩札を発行していた。藩札は幕府貨幣の三貨との関係から,金札,銀札,銭札が見られたが,銀札が最も多い。そのほか米札,糸(かせいと)札,轆轤(ろくろ)札,鯣(するめ)札,昆布札などの特殊なものがあった。…
※「金札」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」