(読み)にぶい

精選版 日本国語大辞典 「鈍」の意味・読み・例文・類語

にぶ・い【鈍】

〘形口〙 にぶ・し 〘形ク〙
切れ味が悪い。鋭利でない。
※枕(10C終)二五九「紙をあまたおし重ねて、いとにぶきかたなして切るさまは」
② 動作や反応がすばやくない。のろい。また、頭のはたらきがおそい。勘がするどくない。
※源氏(1001‐14頃)幻「おぼしたつほど、にぶきやうに侍らんや」
※浮世草子・傾城禁短気(1711)二「毎日五六十の届の文、是でも仕手のにぶい時は」
③ 音の響きなどが低く、するどくない。光などが弱く、鮮やかでない。また、痛みなどの刺激がするどくはないが重苦しい。
※雑俳・軽口頓作(1709)「さあさあさあ・空がにぶいぞみこし様」
※雁(1911‐13)〈森鴎外〉二二「黒ずんだ上に鈍(ニブ)反射を見せてゐる水の面を」
④ 取引相場で、相場が活気なく下落気味である。
にぶ‐げ
〘形動〙
にぶ‐さ
〘名〙

なま・る【鈍】

〘自ラ五(四)〙
① 鍛え方が不十分なために、なまくらになる。刃物の切れあじが悪くなる。
史記抄(1477)一二「頓、銕のなまりたを云ぞ」
※二人むく助(1891)〈尾崎紅葉〉六「先頃四頭の馬を殺せしに刃や鈍(ナマ)りたらむ」
② わざの冴えがにぶる。技量が落ちる。
歌舞伎・三人吉三廓初買(1860)序幕「浪人なせど安森が家来手練(てなみ)神影流、鈍(なま)らぬ腕の太刀先を、ならば手柄に受けて見よ」
③ 力がにぶる。勢いが弱まる。
※浄瑠璃・本朝二十四孝(1766)四「腕もなまり五体もしびれ」
④ 決心がにぶる。貫徹しようとする意志が弱まる。
※歌舞伎・早苗鳥伊達聞書実録先代萩)(1876)二幕「拙者が心はなまらねど左言ふ貴殿の御胸中まことに以て心許なし」

のろ・い【鈍】

〘形口〙 のろ・し 〘形ク〙
① 速度がおそい。進み方がゆっくりしている。はかどらない。
※延慶本平家(1309‐10)五本「宇治河は上はのろくて底はやし」
② 動作、頭の働きがおそい。おろかである。愚鈍である。にぶい。
西洋道中膝栗毛(1870‐76)〈仮名垣魯文〉四「てめへなんぞはかうべがのろいぜ」
③ 異性に甘い。色情におぼれやすい。
洒落本通言総籬(1787)二「をれが顔のたたねへやうな事するなよ。こんなのろい句を出すやうになっちゃあ」
のろ‐げ
〘形動〙
のろ‐さ
〘名〙

にぶ・る【鈍】

〘自ラ五(四)〙
① にぶくなる。するどさがなくなる。
※書紀(720)天智即位前(北野本訓)「鋭(といさき)(ニフリ)力竭(つ)きて抜くこと能はず」
② 力や勢いが弱くなる。衰える。
福翁自伝(1899)〈福沢諭吉〉緒方の塾風「少し疲れて筆が鈍(ニブッ)て来ると」
③ ぼんやりする。どんよりとする。また、空が曇る。
神楽坂(1935)〈矢田津世子〉三「ただ、そんな時の内儀さんは妙に気力のぬけた鈍った表情をしてゐて」

おぞまし・い【鈍】

〘形口〙 おぞまし 〘形シク〙 いやな感じがするほどばからしい。愚かしい。
※読本・椿説弓張月(1807‐11)後「ここへ伴ひ進(まゐ)らせながら、面忘れたるこそ鈍(オゾ)ましけれ」
おぞまし‐げ
〘形動〙
おぞまし‐さ
〘名〙

なま‐くら【鈍】

〘名〙 (形動)
① 切れ味がにぶいこと。また、そのもの。鈍刀。なまくら物。
葉隠(1716頃)七「ためし習に仕候が、なまくらにて候由」
※白鳥の歌(1954)〈井伏鱒二〉「なまくらの庖丁では無理である」
意気地がなかったり、なまけ者であったりすること。また、そのようなさまや人。なまくら者。
※雑俳・卯の花かつら(1711)「折紙がつくとなまくら娘にて」
③ ごまかし、うそを、上方でいう。

おぞ・い【鈍】

〘形口〙 おぞ・し 〘形ク〙 (「おそい(遅)」の変化した語) 頭のはたらきがにぶい。のろまで気が利かない。おろかである。
※読本・椿説弓張月(1807‐11)後「鈍(オゾ)き奴かな。などて吾を欺(あざむ)くぞ」
[語誌]頭や心のはたらきののろさをいう「おそい(遅)」から変化したもの。時間的意味の「遅い」との意味分化によって生じたもので、近世、近代にもちいられた。
おぞ‐げ
〘形動〙

にぶ・む【鈍】

〘自マ五(四)〙
① 鈍色(にびいろ)になる。特に、喪服を着ることをいう。にばむ。
※栄花(1028‐92頃)鶴の林「世中の十が九は、皆にぶみ渡りたり」
② 色などの鮮やかさがなくなる。
※青井戸(1972)〈秦恒平〉「時代の艷も黄金(きん)色に鈍んだまんまるい手焙り」

のろ【鈍】

〘名〙 (形動) (形容詞「のろい」の語幹から) 動作や頭の働きなどがおそいこと。また、そのようなさまや人。
※いさなとり(1891)〈幸田露伴〉二一「此女房(かみさん)に使はれるは中々愚鈍(ノロ)では及付(おっつ)かぬ」

どん【鈍】

〘名〙 (形動) にぶいこと。のろいこと。まがぬけていること。愚かなこと。また、そのさま。また、鈍重なさま。⇔
※今昔(1120頃か)一四「我が根性の鈍なる事を歎て云く」

どん‐・する【鈍】

〘自サ変〙 どん・す 〘自サ変〙 にぶくなる。ぼける。ばかになる。「貧すれば鈍する」
※ブラリひょうたん(1950)〈高田保〉私談「しかし鈍しては居らぬぞと息張ってみせたら、その息張るところがお若いお若いと冷やかされた」

にば・む【鈍】

〘自マ四〙 にび色になる。薄墨色に染まる。また、にび色が喪服の色であるところから、喪服を着ることにいう。
※源氏(1001‐14頃)葵「にばめる御衣奉れるも夢の心地して」

にび【鈍】

〘名〙 「にびいろ(鈍色)」の略。
※枕(10C終)八三「あるかなきかなる薄にび、あはひも見えぬきぬなどばかり」

に・ぶ【鈍】

〘自バ上二〙 鈍色(にびいろ)になる。鈍色を帯びる。にばむ。
※源氏(1001‐14頃)朝顔「にびたる御衣どもなれど」

おぞまし【鈍】

〘形シク〙 ⇒おぞましい(鈍)

どん‐・す【鈍】

〘自サ変〙 ⇒どんする(鈍)

おぞ・し【鈍】

〘形ク〙 ⇒おぞい(鈍)

にぶ・し【鈍】

〘形ク〙 ⇒にぶい(鈍)

のろ・し【鈍】

〘形ク〙 ⇒のろい(鈍)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「鈍」の意味・読み・例文・類語

どん【鈍】

[名・形動]
にぶいこと。頭の回転が遅く、動作がのろいこと。また、そのさま。「なんてな奴だ」
愚かであること。ばかげていること。また、そのさま。
「―な事ぢゃぞ、…妹めが居らぬ」〈伎・幼稚子敵討〉
[類語]鈍重遅鈍愚鈍鈍才のろいまぬるいまのろい遅いスロー緩慢とろいのろくさいまだるいまだるっこい鈍い緩徐遅緩スローモー遅遅のろのろそろそろゆっくりもたもたぼやぼやだらだらのろまちんたらのさのさのそのそとぼとぼのこのこぐずぐずのそりのっそりのっしのっしのしのしとろとろぼちぼちぼつぼつぽつぽつ徐徐徐徐にじわじわじわりじわりじりじりのたりのたりのたりそろりゆるゆるのんびりのらくらゆったり悠然悠悠もさもさもさっともさくさ便便だらり便便のんべんだらりずぼらものぐさぐうたらだらしないしだらないぬらりくらりのらりくらりぬらくらちゃらんぽらん無精ルーズぶらぶらごろごろ無気力だらけるのほほん風太郎ぷうたろうその日暮らしふしだら自堕落ずるける怠ける手を抜く手抜き骨惜しみ投げ遣りレイジー怠慢怠惰無為拱手きょうしゅ横着怠るサボるイージーイージーゴーイング風の吹くまま気の向くまま油を売るまったり漫然たるむぬるま湯ぬるま湯につかる

どん【鈍】[漢字項目]

常用漢字] [音]ドン(呉) [訓]にぶい にぶる のろい
刃物の切れ味が悪い。「鈍器鈍刀
感覚や動作がにぶい。「鈍感鈍根鈍重鈍痛愚鈍遅鈍
にぶくなる。にぶる。「鈍麻鈍磨
進行が遅い。「鈍行
角度がゆるい。「鈍角
[難読]鈍色にびいろ鈍間のろま

なま‐くら【鈍】

[名・形動]
刃物の切れ味が鈍いこと。また、そのさまや、その刃物。「な包丁」
力が弱いこと。意気地がないこと。また、そのさまや、その人。「なからだ」「そんななことでどうする」
腕前が未熟であること。また、そのさまや、その人。「な芸」
[類語]無能無能力非力駄目能無し能がない非才無力低能

のろ【鈍】

[名・形動]《形容詞「のろい」の語幹から》のろいこと。にぶいこと。また、そのさまや、そのような人。のろま。
「目にあまる―な事をやってますぜ」〈白鳥・泥人形〉
[類語]愚鈍鈍重遅鈍鈍才魯鈍馬鹿

にび【鈍】

鈍色」の略。「青」「薄

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

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