鈴木尚(読み)すずきひさし

改訂新版 世界大百科事典 「鈴木尚」の意味・わかりやすい解説

鈴木尚 (すずきひさし)
生没年:1912-2004(大正1-平成16)

形質人類学者。東京大学名誉教授。埼玉県鳩ヶ谷市に生まれ,考古学少年として育ち,東京大学医学部を卒業したが,人類学研究に興味をもち,1943年以来,東京大学人類学教室の講師,助教授,教授を歴任。72年国立科学博物館に人類研究室を創設翌年,研究部となる)。1969-75年日本学術会議会員。1970-76年日本人類学会会長。83年勲二等瑞宝章受賞。港川人などの更新世人骨をはじめ縄文時代人骨などの古人骨を収集し,それらの形態研究を行った。鎌倉から発掘した大量の戦死者の人骨を研究し,日本人の頭の形が時代とともに変化することを初めて見いだした。それに基づき,明治以来多くの議論があった日本人起源論において,生活環境の変化が形態の変化をもたらすという〈変形説〉を提唱し,縄文時代人が進化して現代日本人になったと解釈した(現在は,変形説は現象としては正しいが,日本人の形成の主要原因ではないとされている)。徳川将軍と親族遺体を研究して,咀嚼器官が退化する〈貴族化〉現象を見いだし,彼らは未来の先取りをしていると考えた。イスラエルのアムッド洞窟の発掘調査を行い,ネアンデルタール人骨格化石を発見し,記載比較研究報告書《The Amud man and his cave site》を作成した。他に著書は,《日本人の骨》(1963),《増上寺徳川将軍墓とその遺品・遺体》(1967),《化石サルから日本人まで》(1971)など。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「鈴木尚」の意味・わかりやすい解説

鈴木尚
すずきひさし

[生]1912.3.24. 埼玉,鳩ヶ谷
[没]2004.10.1. 東京,文京
自然人類学者。東京大学医学部卒業後,人類学を専攻し,東京大学理学部人類学教室教授,国立科学博物館人類研究部長,日本人類学会会長などを歴任した。 1953年に神奈川県鎌倉市材木座の中世遺跡を調査して多数の中世人骨を発掘し,日本人の時代的変化の研究に先鞭をつけた。また 1958年からは徳川将軍とその夫人たちの遺体を調査し,近世における貴族形質の形成過程を明らかにした。他方,更新世人類化石の探索にも取り組み,国内で三ヶ日人,浜北人,港川人などを発見したほか,1961年にはイスラエルのアムッド洞窟でほぼ完全なネアンデルタール人の全身骨格を発見した。主著に『日本人の骨』 (1963) ,『骨は語る 徳川将軍・大名家の人びと』 (1985) などがある。

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「鈴木尚」の解説

鈴木尚 すずき-ひさし

1912-2004 昭和-平成時代の人類学者。
明治45年3月24日生まれ。解剖学から人類学に転じ,昭和30年東大教授。のち国立科学博物館人類研究部長,成城大教授。縄文時代から江戸時代にいたる人骨を研究。36年イスラエルでネアンデルタール人の一種のアムッド人の化石を発見した。平成16年10月1日死去。92歳。埼玉県出身。東京帝大卒。著作に「日本人の骨」「骨は語る徳川将軍・大名家の人びと」など。

出典 講談社デジタル版 日本人名大辞典+Plusについて 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内の鈴木尚の言及

【アムッド人】より

…約3万5000年前のものとみなされる。1961,64年の2回にわたる東京大学西アジア洪積世人類遺跡調査団(団長,鈴木尚)により4個体分(アムッドI~IV)が発見され,そのうちIはほぼ完全であった。四肢管状骨から推定される身長は約175cmと高く,脳頭骨容量も1740ccで大きい。…

【鼻】より

…もう一つの理由は,脳を包む脳頭蓋が旧人までの長頭化から一転して短頭の新人となる際,上前方に出て額を盛り上げただけでなく,後下方に曲がって,頭蓋底を介して鼻中隔が曲がるほどに圧迫したため,外鼻が隆起したとされる。 鈴木尚は,縄文時代人,弥生時代人,古墳時代人,鎌倉武士,室町時代人,江戸時代人,そして明治人の頭蓋骨を調べた結果,縄文時代人の鼻根は高く隆起して鼻も高かったが,弥生時代人の移行期を経て古墳時代から江戸時代まで鼻根も鼻全体も低くなり,明治以降再び高くなってきたと唱えた(《日本人の骨》)。縄文期のハート型土偶の高い鼻,王朝絵巻などに描かれた引目鉤鼻,国芳の《庶民(ただのひと)八面相》のつぶれた鼻などを思い浮かべればよい。…

※「鈴木尚」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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