鍾馗(読み)しょうき

精選版 日本国語大辞典 「鍾馗」の意味・読み・例文・類語

しょう‐き【鍾馗】

[1]
[一] (中国、唐の開元年中、玄宗皇帝の夢に終南山の進士鍾馗が現われ、魔を祓(はら)い、病気をなおしたという故事に基づく) 中国で、疫病神(えきびょうがみ)を追いはらい魔を除くと信ぜられた神。日本では、その像を、五月五日の端午の節句ののぼりに描いたり、五月人形に作ったり、魔よけの人形にしたりする。その像は、目が大きく、頬からあごにかけて濃いひげをはやし、黒い衣冠をつけ、長ぐつをはき、右手に剣を抜き持ち、時に小鬼をつかんでいる。強い者の権化・象徴とされる。鍾馗大臣
※益田家本乙巻地獄草紙(鎌倉)「瞻部洲のあひだに鍾馗となづくるものあり、もろもろの疫鬼をとらへてその目をくじり、躰をやぶりてこれをすつ。かるがゆゑに、ひと新歳にいへを鎮するにはこれがかたを書きてそのとにおす」
※雑俳・柳多留‐二九(1800)「鯉をねらって切様に鍾馗見へ」 〔五代史‐呉越世家〕
[二] 謡曲。五番目物。各流。金春禅竹作。唐土終南山のふもとに住む者が都に上る途中、鍾馗の霊が現われて、自分は進士に落第して自殺したが今はその執心を捨てて国土を守護しようと思うと語り、この世の無常を説き、やがて真の姿を現わして鬼神を退治し国土をしずめる。
[2] 〘名〙
男の子の称。
※雑俳・柳多留‐四一(1808)「けんをふる妾鍾馗をうみおとし」
② 旧日本陸軍の二式戦闘機の通称。昭和一五年(一九四〇)初飛行。最大時速六〇五キロメートル。

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デジタル大辞泉 「鍾馗」の意味・読み・例文・類語

しょう‐き【鍾馗】


中国で、疫病神を追い払い、魔を除くという神。目が大きく、あごひげが濃く、緑色の衣装に黒い冠、長い靴をはき、剣を抜いて疫病神をつかむ姿にかたどられる。玄宗皇帝の夢に現れ、皇帝の病気を治したという進士鍾馗の伝説に基づく。日本では、その像を端午の節句ののぼりに描き、また五月人形に作る。
謡曲。五番目物金春禅竹作という。唐土終南山のふもとに住む者が都に上るために旅に出ると、の霊が現れて鬼神を退治し、国土を鎮める誓願を示す。
旧日本陸軍の二式戦闘機の異称。昭和15年(1940)に初飛行。主として本土防空にあたった。

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改訂新版 世界大百科事典 「鍾馗」の意味・わかりやすい解説

鍾馗 (しょうき)
Zhōng kuí

中国の邪鬼をはらう神。宋代の《夢渓筆談》《東京夢華録》《夢粱録》などの記載によれば,当時年越しに鍾馗像を門戸にはって魔除けとした。商店主が歳末に鍾馗像を顧客に配る風習もあった。この習俗は,唐の玄宗が除夜に落第書生の鍾馗と名乗る大鬼が小鬼を食うのを夢見て熱病が治ったので,画工の呉道玄に像を描かせたのが起りといわれ,唐朝は年末に群臣に暦と鍾馗像を賜った。宋代歳末に乞食が組になり鍾馗などに扮装してドラ,太鼓を打って踊り門付した。これは〈打夜胡〉〈跳鍾馗〉といい,清代まで残った。清代中ごろから端午にも鍾馗像を掛けるようになり,それが江戸時代の日本の武者人形に取り入れられた。鍾馗を魔除けとあがめる信仰は唐以前より存在し,南北朝時代,後魏の尭暄(ぎようけん)が本名を鍾葵(しようき),字を辟邪(へきじや)といった例や,あやかって鍾葵,鍾馗の名をつけた人物が多いことから,すでに六朝時代に鍾馗と辟邪との関連があったと思われる。起源については,明の楊慎,清の顧炎武,趙翼らが考証し,鬼を撃ち追う椎(つち)〈終葵〉〈鍾葵〉がのちに同音の鍾馗という神名に変化したという。また鍾馗信仰は古代の大儺(たいだ)(鬼やらい,追儺(ついな))に発し,鍾馗の形象仮面をつけ熊皮をかぶって大儺をつかさどる巫師方相氏〉から転化したという説もある。鍾馗神話はしだいに敷衍されて,明・清代には《鍾馗全伝》《斬鬼伝》《鍾馗嫁妹》など通俗小説戯曲が現れ,庶民により親しい神となった。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「鍾馗」の意味・わかりやすい解説

鍾馗
しょうき

日本陸軍の二式単座戦闘機。第2次世界大戦時の日本陸軍最初の近代的重戦闘機。糸川英夫(→ペンシル・ロケット)らの技術陣を擁する中島飛行機が格闘戦よりも一撃離脱戦法を意図して設計,開発したもの。試作名称キ‐44。試作 10機と当初の I型 40機は中島ハ‐41エンジン(1250馬力)を装備して,1940年8月に完成,翌 1941年12月の太平洋戦争開戦とともに南方の実戦配備についたが,出力不足の感があった。そのため 1942年末から生産に入った II型および III型はハ‐109エンジン(1450馬力)に換装され,合わせて 1175機が製造された。エンジン強化によって上昇,加速,速度性能が向上し,日本の戦闘機としては初めて座席後部に操縦者保護のため厚さ 13mmの防弾板を装備した。しかし航続距離が短く,操縦席前方のエンジン直径が大きくて視界が悪く離着陸が難しいという難点もあった。火器は当初,翼内に 12.7mm固定機関銃 2,機首に 7.7mm機関銃 2という軽装備だったが,のちに 12.7mm機関銃 4に改められた。これで戦争初期は南方の戦いに投入され,末期には日本に向かって高々度で来襲するアメリカ軍のボーイングB-29に対し本土防空の任務にあたった。最終的な諸元はエンジンが中島ハ‐109(1450馬力)1,乗員 1,全長 8.8m,全幅 9.45m,総重量 2770kg,自重 2109kg,最大速度時速 605~615km,航続距離 1300km。武装は 12.7mm機関銃 4。(→戦闘機

鍾馗
しょうき
Zhong-kui

中国,民間信仰の魔よけの神。古代から魔よけの神の信仰が盛んで,さまざまな神と習俗とがあったが,その一つの展開であろう。俗説では,唐の玄宗皇帝が病中に鍾馗が悪鬼を退治する夢を見,鍾馗の図を呉道子に書かせたことから始るという。もとは,大みそかに鍾馗の図を貼って悪霊を祓ったが,その後,端午の行事のなかに加わり,日本にも端午の行事として伝わっている。

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普及版 字通 「鍾馗」の読み・字形・画数・意味

【鍾馗】しようき

疫病神を追い払う神。唐の玄宗の夢にあらわれた終南山の道士。呉道子にその姿を描かせた。〔五代史、呉越、銭俶世家〕除、畫工、鍾馗、鬼をつの圖を獻ず。(弟)、詩を以て圖上に題す。(胡)思、之れを見て大いに悟り、~俶をへて之れを立つ。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「鍾馗」の意味・わかりやすい解説

鍾馗
しょうき

中国で広く信仰された厄除(やくよ)けの神。唐の玄宗皇帝が病床に伏せっていたとき、夢のなかに小さな鬼の虚耗(きょこう)が現れた。玄宗が兵士をよんで追い払おうとすると、突然大きな鬼が現れて、その小鬼を退治した。そしてその大きな鬼は、「自分は鍾馗といって役人の採用試験に落弟して自殺した者だが、もし自分を手厚く葬ってくれるならば、天下の害悪を除いてやろう」といった。目が覚めるとすっかり病気が治っていたので、玄宗は画士に命じて鍾馗の姿を描かせ、以来、鍾馗の図を門にはり出して邪鬼悪病除けにするようになったという。初めは年の暮れの習俗であったが、のちに5月5日に移り、図柄としては鍾馗が刀を振るってコウモリ(蝙蝠)を打ち落としているものが好まれた。これは蝠の字が福に通じることから、これによって福を得たいという気持ちを表現したものである。この鍾馗の信仰は、日本にも伝わって室町時代ごろから行われ、端午の節供を通してなじみが深い。

[伊藤清司]

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百科事典マイペディア 「鍾馗」の意味・わかりやすい解説

鍾馗【しょうき】

中国の魔よけの神。唐の玄宗皇帝の夢に現れ邪鬼を払ったので,その姿を呉道玄に命じて描かせたのが起りという。その画像を除夜にはった風俗がのち端午に変わり,日本でも端午の幟(のぼり),五月人形に作る。容貌魁偉(かいい),黒髭(ひげ),右手に剣を握る。
→関連項目武者人形

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「鍾馗」の解説

鍾馗 しょうき

中国の伝説上の人。
唐の玄宗皇帝が病気になったとき,科挙におちた鍾馗と名のる書生が皇帝をなやませていた小鬼をたべる夢をみて熱病がなおったことから,呉道玄にその像をかかせたのが起こりという。邪気をはらう神とされ,年末に鍾馗像をかざるようになった。これがしだいに端午の節句にまつられるようになり,日本では室町時代から信仰され,江戸時代には武者人形にとりいれられた。

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デジタル大辞泉プラス 「鍾馗」の解説

鍾馗(しょうき)

第2次世界大戦時の日本軍の重戦闘機「二式(単座)戦闘機」の愛称。初飛行は1940年。二型丙の最高速度は時速605キロメートル。キ番号、キ44。連合軍によるコードネームは「トージョー」。

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世界大百科事典(旧版)内の鍾馗の言及

【コウモリ(蝙蝠)】より

…また〈蝠〉が〈福〉と同音なので幸福の表象とされ,吉祥の装飾意匠に好んで使われてきた。正月に門にはった〈門神〉の鍾馗(しようき)像には,鍾馗が剣でコウモリを打ち降ろす図が描かれ,これは〈降蝠〉が〈降福〉(福を降ろす)に通じ,コウモリが銭を抱える図案は,〈福在眼前〉(銭と前は同音)などと縁起をかついだりした。自分の所属を鳥類と獣類に巧みに使い分けて言い抜けるコウモリの二股膏薬(ふたまたごうやく)的性格を風刺した寓話も伝えられている。…

【護符】より

…魔よけ,厄よけのため,あるいは幸運を招くために,彼らは護符を身につけたり,家屋や門にはったり,飲み下したりもする。また正月に用いられる門神像のように,邪鬼を退治する神としての鍾馗(しようき)をはじめ,さまざまな神々の像を印刷したものや,なかば図像化された神秘的な文字をしるしたものなどがあり,それらはたいせつに扱われるが,反対に,奇怪な姿の悪鬼や貧乏神を描いたものは,これを焼却することによって悪鬼退散と厄よけが祈願される。 また中国では古来,邪気を払いのける力が桃に宿っていると信じられてきたので,厄よけの符も桃の木で作られることが多い。…

【端午】より

…この解釈の当否はともあれ,この日にちなんでさまざまな避邪防病の俗信が生まれた。 この日,薬草を摘み,家の門には艾(よもぎ)で作った人形や虎,あるいは菖蒲(しようぶ)で作った剣をかけ,鍾馗(しようき)の絵や五毒(サソリ,ムカデ,ヤモリ,ガマ,ヘビ)を食っている虎の絵を貼って邪鬼の進入を防いだ。また菖蒲酒や雄黄酒(イオウを混ぜた酒)を飲み,無病息災を祈った。…

※「鍾馗」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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