長老制(読み)ちょうろうせい(英語表記)gerontocracy

翻訳|gerontocracy

改訂新版 世界大百科事典 「長老制」の意味・わかりやすい解説

長老制 (ちょうろうせい)
gerontocracy

中央集権的な政府をもたぬ社会において,年長者の集団成員は例外なく男)が,法的・政治的決定を行い,また宗教儀礼を執行し,それによって社会の統合を行っている制度。この制度をもつ社会は一般に年齢階梯制度をもっており,その階梯の最も上の段階の者が上述のような力をにぎるのである。したがって長老はもっぱら判断し,決定し,命令するのであって,執行はすべてそれより若年の集団の役割となる。東アフリカの牛牧民には,他部族との戦争や牛の略奪についてこのように行っているものが多い。長老のこの権威は年齢に起因するのであり,一つはその経験に基づく知識,いま一つは祖霊や神に近いことである。とくに後者は重要であり,長老は超自然的存在の意向を理解して人間に伝え,また人間の意向を奏上する。それを儀礼という形式で行うことによって権威を維持しつづけるのである。ただ彼らは集団的にこれを行うため専制的権力に発展することはない。
年齢集団
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「長老制」の意味・わかりやすい解説

長老制
ちょうろうせい

老人(長老)による支配体制。ほとんどの社会で、年をとることにはなんらかの社会的権威の獲得や霊的地位の上昇が伴う。職業や富、出自など、地位の分化に寄与する他の要因が顕著に働いていないところでは、この年長者優位の原則が支配の中心的な枠組みとなり、老人による支配、つまり長老制となって現れる。長老制は、親族集団に基礎を置いた分節的な部族社会では、ごくありふれた形態であるが、長老たちの支配の及ぶ範囲も小さい。しかし東アフリカの諸部族のように、年齢階梯(かいてい)制が発達したところでは、長老の権威は宗教的・政治的・軍事的方面にわたり、かなりの規模の集団に及んでいる。特定の出自集団に権威が集中した首長制のような政治制度のもとでも、長老制は首長や王の補佐役として、あるいは首長や王の権力をチェックする対抗原理の一つとして機能していることが多い。西アフリカの首長制、王制にも、これがしばしばみられた。

[濱本 満]

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百科事典マイペディア 「長老制」の意味・わかりやすい解説

長老制【ちょうろうせい】

伝統社会で長老(元老)が合議による支配権を握る政治。長老は古老というよりも有力者(おとな)である場合が普通。未開社会の長老は年齢階梯(かいてい)制の最高位の年齢集団(成員は例外なく男)で,部族の政治に参与する。

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世界大百科事典(旧版)内の長老制の言及

【家産制】より

… ウェーバーは正当的支配を,合法的,伝統的,カリスマ的支配の三つの純粋型に分類するが,家産制は伝統的支配に属する支配の類型である。彼によれば,この伝統的支配の〈第一次的類型〉は長老制Gerontokratieと第一次的家父長制primärer Patriarchalismusとである。長老制とは複数の家から成る団体において長老のおこなう支配であり,家父長制とは家において家父長のおこなう支配である。…

【年齢集団】より

…つまり花嫁の出産力や労働力への代償として,これを受ける婿方が嫁方に贈るべき高額の代償(牛や羊または金品)の調達は年長者にずっと有利で,これが複妻取得を助長するわけである。これらのことに合わせて,中年階梯が施政を担当し,老年(長老)階梯が祭儀をつかさどることによって部族社会が全体として統合されるのだから,年齢階梯制では究極的権威が長老にあることになり,したがってこれは一種の長老制とみなしうる世代継受のシステムであるということができる。 東アフリカの年齢階梯制を構造的にみると円環型と直線型の2類型に分かれる。…

※「長老制」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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