長者(読み)ちょうじゃ

精選版 日本国語大辞典 「長者」の意味・読み・例文・類語

ちょう‐じゃ チャウ‥【長者】

〘名〙 (śreṣṭhin の訳語。団体や組合の長である富豪、または地位や徳行の高い年長者の意)
① (「ちょうしゃ」とも) 徳のすぐれている人。高徳者。また、おだやかな人。重厚な人。
※旱霖集(1422)題扇「寛厚長者意、跡混軽薄子」 〔史記‐項羽本紀〕
金持。富豪。金満家。ちょうざ。
※竹取(9C末‐10C初)「火鼠の皮衣〈略〉若天竺にたまさかにもて渡りなば、若長者のあたりにとぶらひ求めんに、なき物ならば」
福徳のすぐれた者。めぐまれた幸福な人。
※性霊集‐九(1079)高雄山寺択任三綱之書「善心長者等、依内外法律、治擯而已」
氏族の長。一門一族の統率者。氏(うじ)の長者。〔令集解(868)〕
※大鏡(12C前)五「その時に藤氏の長者殿うらなはしめ給に」
⑤ (「ちょうしゃ」とも) 年上の人。目上の人。また、身分の高い人。
※応永本論語抄(1420)李氏第一六「尊者の前にて物を申は、先長者たる人が申して、次第に少き者が申べき也」 〔礼記‐曲礼上〕
⑥ (⑤から、共同体や芸道などの最高の地位を示す称号として用いたもの) 首長長老。主宰者。かしら。
※中右記‐康和五年(1103)一二月二一日「民部大夫博定於備中国去八日卒去〈年余〉長管絃道、勤陪従琵琶、筆和歌、横笛、篳篥皆以伝之、已終命、誠惜哉、一道長者也、可惜々々」
⑦ 京都の東寺の座主の称。空海の弟子実慧が初めてこれに補せられた。当初は一人であったが、のちに一の長者から四の長者まで置くようになった。ちょうざ。
※中右記‐長治元年(1104)三月一七日「今日法印権大僧都経範入滅云々、東寺一長者法務也」
太政官の史の最上席の者。平安後期以降、小槻氏長者が世襲した。官長者。官務。
愚管抄(1220)四「官にめして、長者・大夫史・大外記候て、弁官、職事にてとはれける」
⑨ 宿駅の長。うまやのおさ。駅長。
※太平記(14C後)二「重衡中将の、東夷の為に囚れて、此宿に付き給しに、東路の丹生の小屋のいぶせきに、古郷いかに恋しかるらんと、長者の女が読たりし」
⑩ (昔、宿駅の女主人が主になって、宿泊人の世話、伝馬の継ぎ立てなどをし、また官人、貴人の宿泊にあたっては、遊女の歌舞・管弦によって旅の疲労を慰める斡旋(あっせん)をしたところから) 娼家の女主人。また、遊女のかしら。
吾妻鏡‐文治三年(1187)二月二五日「折節信濃国保科宿遊女長者、依訴訟事参住」
くしゃみがでた時にとなえるまじないのことば。
四河入海(17C前)六「仏嚔ときに弟子たち祝して長寿長寿と云ぞ〈略〉さて日本に嚔時に長者と云は、仏を長寿と云たを今長者と云ぞ」

ちょう‐ざ チャウ‥【長者】

〘名〙 (「ざ」は「じゃ」の直音表記)
① 金持。富豪。ちょうじゃ。
古本説話集(1130頃か)五六「喜こびあひて、給はるほどにぞ、まことのちゃうさはかへりたる」

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デジタル大辞泉 「長者」の意味・読み・例文・類語

ちょう‐じゃ〔チヤウ‐〕【長者】

《「ちょうしゃ」とも》年上の人。また、目上の人。年長者。
《「ちょうしゃ」とも》徳のすぐれている人。また、穏やかな人。
「そこは温厚の―だから、別段激した様子もなく」〈漱石吾輩は猫である
金持ち。富豪。「億万長者
一門一族の統率者。「うじ長者
「親戚の―たる一見老猾らしき金富醇次郎が」〈魯庵社会百面相
京都東寺座主ざすの称。
宿駅の長。駅長。
宿場の遊女屋の主人。また、遊女のかしら。
「かの宿の―ゆやがむすめ、侍従がもとにその夜は宿せられけり」〈平家・一〇〉
[類語](3金持ち富豪金満家大尽素封家成金財閥物持ち分限百万長者億万長者資産家財産家大家

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日本歴史地名大系 「長者」の解説

長者
ちようじや

[現在地名]須坂市塩川字長者

塩川しおがわ村の東南部、小山こやま村の字八幡裏はちまんうらに接する。ここに大石の散在する八幡長者の屋敷と伝える東西一四〇間、南北三〇間、ほぼ台形の一枚畑がある。大石は現在畦畔にまま見られるが、かつては地深の畑中に列状をなしていたという。北を限る一四〇間の道は、幅六尺で馬場との伝承がある。「三峰紀聞」は、八幡長者の子供歌「八まん長者之未通嬢、みめよし髪よし形よし、手には日本之国を持ち足には黄金之沓をはき」や長者清水の足跡石を載せている。

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普及版 字通 「長者」の読み・字形・画数・意味

【長者】ちよう(ちやう)じや

年輩の人。謹厚な人。〔史記、高祖紀〕懷王の老將皆曰く、項は人と爲り悍(へうかん)猾(くわつぞく)、~(もろもろ)の(よぎ)る、殘滅せざる無し。~今(や)るべからず。獨り沛は素(もと)より大の長なり。るべしと。

字通「長」の項目を見る

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「長者」の意味・わかりやすい解説

長者
ちょうじゃ

仏典に現れる富豪、資産家のこと。サンスクリット語のグリハ・パティgha-patiとシュレーシュティンśrehinの両者の訳。前者を資産者、後者を長者と区別して訳す専門家もある。いずれも社会的な身分として認められた名称であり、仏教教団の発展には大きな原動力となった。シュレーシュティンは商人代表とか同業組合の組合長の意味をもち、グリハ・パティは居士(こじ)と漢訳され、年齢や徳行の長じた者と理解された。日本では、長老耆宿(ぎしゅく)の意味に用いられ、とくに東寺(教王護国寺)座主(ざす)の称となったが、これは空海(くうかい)の遺告(ゆいごう)によるといわれる。のちに仁和(にんな)寺、大覚(だいかく)寺、三宝(さんぼう)院、勧修(かじゅう)寺の四門跡(もんぜき)が戒を受けた順で勅任された。初めは長者は1人であったが、やがて四長者となり、さらに長者補任(ぶにん)さえ置かれるようになった。

[石上善應]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「長者」の意味・わかりやすい解説

長者
ちょうじゃ
śreṣṭhin; gṛha-pati

仏教用語。資産があって徳をそなえた者の通称。 gṛha-patiは居士と訳し,富み,かつ学徳のある在俗信者。日本では特に東寺の長官を長者といい,承和3 (836) 年に実慧が勅によって任じられたのがその始りである (→東寺長者 ) 。

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