閑吟集(読み)かんぎんしゅう

精選版 日本国語大辞典 「閑吟集」の意味・読み・例文・類語

かんぎんしゅう ‥シフ【閑吟集】

室町後期の歌謡集。一巻。編者未詳。永正一五年(一五一八)成立。室町時代の小歌二二六首のほか猿楽の謡、田楽節、放下歌、早歌狂言小歌などを合わせて三一一首を収める。恋愛中心とした人事の歌がほとんどで、よく庶民感情を伝え、江戸歌謡の基礎となった。

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デジタル大辞泉 「閑吟集」の意味・読み・例文・類語

かんぎんしゅう〔カンギンシフ〕【閑吟集】

室町後期の歌謡集。1巻。編者未詳。永正15年(1518)成立。小歌こうたや猿楽など当時の歌謡311首を収める。

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改訂新版 世界大百科事典 「閑吟集」の意味・わかりやすい解説

閑吟集 (かんぎんしゅう)

歌謡集。室町時代に流行した小歌の代表的集成。1518年(永正15)成立。編者の名は記されていないが,仮名序に〈富士の遠望をたよりに庵を結び,十余年を過ごした桑門(よすてびと)〉とある。一節切(ひとよぎり)の尺八をたしなみ,五山僧の面影があり,和歌,連歌,漢詩に通じ,儒教的な教養もうかがえる。連歌師柴屋軒(さいおくけん宗長を擬す説もあるが,確かではない。〈都鄙遠鏡の花の下,月の前の宴席〉などで聴きもし謡いもした懐旧の小歌を,〈毛詩三百余篇になずらへ〉311首にまとめた。書名の〈閑吟〉は漢詩文から出た語で,〈心静かに詩歌を吟誦する〉の意。連歌の付け進みを思わせる配列の妙を工夫している。図書寮本,阿波国文庫旧蔵本,水戸彰考館蔵小山田与清本の3本が主要な伝本である。これらには〈小〉〈大〉〈吟〉などの朱の略符が記入してある。それぞれ〈小歌〉〈大和節〉〈吟詩句〉の意で,小歌は狭義の小歌を意味し,これが圧倒的に多い。大和節は大和猿楽の謡曲の一節を切り出して小歌ふうに謡ったもので,これらを広義の小歌とする。他に〈近江節〉〈田楽節〉〈早歌〉〈放下歌〉〈狂言小歌〉などがある。小歌の内容は8割までが男女の愛情を謡うが,その表出は自由で多面的で,伝統的な古典詩を十分に受容しながらも,小歌独自の世界を作っている。定律的な〈7・5・7・5〉調から口語自由律といってよいものまで採用し,〈な見さいそ,な見さいそ,人の推する,な見さいそ。思ふ方へこそ,目も行き,顔もふらるれ〉〈何せうぞ,くすんで,一期(いちご)は夢よ,ただ狂へ〉というように,室町人のみずみずしい情感を肉声として響き出させることに成功している。《閑吟集》の世界はやがて《宗安小歌集》や《隆達小歌》(隆達節)に引き継がれ,〈7・7・7・5〉の近世調を醸成していくことになる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「閑吟集」の意味・わかりやすい解説

閑吟集
かんぎんしゅう

中世後期に成立した広義の小歌(こうた)の集成。1巻。編者未詳。原本は伝わらず、現存の4本はいずれも転写本である。『詩経』に準じたと考えられる311首の前に真名序(まなじょ)と仮名序とを置き、真名序では小歌の本質や効果を説いたあとで、書名が編者たる「一狂客」の命名であること、永正(えいしょう)15年(1518)秋8月に記したことを述べる。和歌の部立(ぶだて)のごとく四季、恋の順で連歌(れんが)的な「鎖(くさ)り」の手法で配列されている歌謡の内訳は、小歌231、大和(やまと)節48、近江(おうみ)節2、田楽(でんがく)節10、吟詩句7、早歌(そうが)8、放下(ほうか)の謡物(うたいもの)3、狂言小歌2。「小歌」とは『申楽談儀(さるがくだんぎ)』などにみられる「小歌ぶし」の流れを引く優美な旋律拍節不定のリズムを基調とする謡物、「大和節」とは大和猿楽(さるがく)の謡物、すなわち謡曲の小謡(こうたい)風のものをさし、『閑吟集』のほとんどが広義の「小歌節」もしくは小歌がかりのものである。内容は恋の歌が大部を占め、軽妙で自由闊達(かったつ)、詩型も変化に富み、七五七七の今様(いまよう)半型式のような短小のものがもっとも多い。

[徳江元正]

『志田延義他校注『日本古典文学大系44 中世近世歌謡集』(1959・岩波書店)』『浅野健二著『閑吟集研究大成』(1968・明治書院)』『臼田甚五郎・新間進一校注・訳『日本古典文学全集25 神楽歌・催馬楽・梁塵秘抄・閑吟集』(1976・小学館)』『北川忠彦校注『新潮日本古典集成 閑吟集・宗安小歌集』(1982・新潮社)』『高梨敏子他編『閑吟集総索引』(1969・武蔵野書院)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「閑吟集」の意味・わかりやすい解説

閑吟集
かんぎんしゅう

室町時代後期の歌謡集。編者は連歌師宗長説もあるが不明。1冊。永正 15 (1518) 年編。真名序と仮名序を付し,歌謡の歴史と徳を述べ,中国の『詩経』にならって 311首の小歌を集めている。大部分が狭義の小歌であるが,早歌 (宴曲 ) や大和節 (大和猿楽の音曲) ,田楽などの一節や吟句なども含み,各歌の頭にこの区別が小書きされている。配列は春の歌に始り,一種連歌的といわれる連想によって進んでいくような方法によっている。『閑吟集』小歌は,短小で,近世の「七・七・七・五」型にはまらない自由な韻律をもち,前代の歌謡の一節をとっているものや,和歌の変形したような内容のものがある一方で,恋する者の息づかいをそのまま歌った口語的な自由な表現もあり,室町時代後期という一時期の特色をよく示している。

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百科事典マイペディア 「閑吟集」の意味・わかりやすい解説

閑吟集【かんぎんしゅう】

室町後期の歌謡集。1巻。編者不詳,連歌師の宗長かともいう。1518年成立。室町時代に流行した小歌約300首を収録。厳密には狭義の小歌のほか,吟詩,大和節,放下歌,早歌,田楽節,近江節,狂言小歌等を含む。当時の民衆の生活相を表現する歌謡が多く,隆達節など近世歌謡の源泉をなした。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「閑吟集」の解説

閑吟集
かんぎんしゅう

室町時代の小歌集。編者は,仮名序に「ふじの遠望をたよりに庵をむすびて十余歳」の「桑門(僧)」とするのみで不詳。連歌師柴屋軒(さいおくけん)宗長をあてる説もある。1518年(永正15)成立。収録歌数311首,仮名序に「毛詩三百余篇になずらへ」たとある。配列は,おおよそ四季・恋の順に並ぶが,四季のなかにも恋の歌と解されるものも多く,連歌のように小歌の内容の連想・連鎖によって各歌がつながっているとみたほうがよい。小歌230首のほか,大和節・近江節・田楽節・早歌(そうが)・放下歌(ほうかうた)・狂言小歌・吟詠などを収める。「続群書類従」「日本古典文学大系」所収。

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旺文社日本史事典 三訂版 「閑吟集」の解説

閑吟集
かんぎんしゅう

室町後期の歌謡集
1518年刊。編者不詳。当時流行した小歌・大和節(大和猿楽の謡曲の一部が小謡となる)などを集大成したもので,311首を収録。官能的な恋愛を主題としたものが多く,現世肯定的な色彩が強くみられる。当時の庶民の自由な生活や感情を知るのによい史料でもある。

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世界大百科事典(旧版)内の閑吟集の言及

【海道下り】より

…《海道記》《東関紀行》《義経記》などの海道下りが残るが,ことに《平家物語》およびその影響下に作られた《太平記》巻二〈俊基朝臣関東下向事〉などがよく知られている。一方歌謡には,鎌倉中期以降に流行した宴曲(えんきよく)を集めた《宴曲集》(1296成立)に載る〈海道〉上中下,室町時代の流行歌集《閑吟集(かんぎんしゆう)》(1518成立)の〈面白の海道下りや〉で始まる放下(ほうか)歌などが残っている。この放下歌の系統が,のちの芸能の中に伝承されているのであるが,中世の回国の芸能者である放下師(放下)を通してひろく諸国に伝わったのであろう。…

【日本音楽】より

…中世後期の民謡は,〈小歌〉と呼ばれるものの中に見られる。《閑吟集》《宗安小歌集》《隆達小歌集》の中には,民謡的な小歌が相当含まれている。しかし,純粋な民謡を集めたものとしては,中国山地の田植歌を集めた《田植草紙》が代表的なものであろう。…

※「閑吟集」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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