イギリスの作家コンラッドの中編小説。1899年刊。マーロウ船長が、アフリカの奥地を訪ねたときの経験を語る、という形で書かれている。地図を見て暗黒世界の魅力に抗しきれず、コンゴ川をさかのぼった彼が現地で見たものは、人間性の暗黒だった。交易と称して実は支配と搾取を続けながら、自らも精神的に荒廃してゆく白人たち。とくに興味をひき強烈な印象を与えるのは、クルツという人物である。彼は現地人たちに神のごとく畏敬(いけい)され、象牙(ぞうげ)の収奪に狂気じみた執念を燃やす男であり、その最期をみとったマーロウは、巨大な空虚を感じて慄然(りつぜん)とする。異様な雰囲気とともに人間性の恐るべき深淵(しんえん)を象徴的に描いた名作。
[高見幸郎]
『中野好夫訳『闇の奥』(岩波文庫)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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