阿野廉子(読み)あの・れんし

朝日日本歴史人物事典 「阿野廉子」の解説

阿野廉子

没年:延文4/正平14.4.29(1359.5.26)
生年正安3(1301)
鎌倉南北朝時代,後醍醐天皇の寵を受け,建武政権を支え,後村上天皇生母として南朝を支えた女院。阿野公廉の娘。後醍醐天皇中宮禧子の入内にともない,内侍となる。ほどなく後醍醐寵愛を受けて,恒良親王,成良親王,義良親王(後村上天皇),祥子内親王,惟子内親王の3男2女を生んだ。後醍醐の乳母の夫の洞院公賢の養女となり,従三位に叙せられて,「三位殿の御局」と呼ばれている。『太平記』には,才色兼備で「殊艶」のみならず「便佞」であるので,後醍醐の数多い寵姫のなかでも一番のお気に入りで,どこに行くにも一緒であったと記している。内侍として,宮廷の内政に能力を発揮したと思われる。元弘の変(1331)によって後醍醐が隠岐に配流されたときも同行した。建武政権樹立後は准三后になり,恒良を皇太子に,祥子を斎宮に立てている。さらに末の6歳の義良を北畠親房に委ね,陸奥に旅立たせ,次に成良を足利尊氏・直義兄弟に預けて関東に行かせている。新政の2大勢力に2子を委ねざるをえなかったのであろう。のちに恒良・成良兄弟は,足利氏によって殺されたり,幽閉ののちに死んでいる。新政瓦解後,吉野にあって後醍醐を助け,その亡きあとは後村上を助けて南朝勢力の結集に努め,所領の安堵などを行っている。正平の一統(1351)という和議が成立したとき,朝廷において新待賢門院という女院となったが,南朝は京都を占領できず,賀名生行宮に逃げ帰った。 『太平記』は雌鶏朝を告げる例として,廉子を悪く書いている。北畠顕家の死に臨んでの上奏文も廉子を暗に非難している。しかし,後醍醐の片腕として,後村上を背後より支える力として,南朝において廉子の果たした役割は大きい。『新葉和歌集』『李花集』には廉子の和歌が収録されていて,心情あふれるものがある。<参考文献>佐藤進一『南北朝の動乱』,脇田晴子「阿野廉子」(『人物日本の女性史』5巻)

(脇田晴子)

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改訂新版 世界大百科事典 「阿野廉子」の意味・わかりやすい解説

阿野廉子 (あのれんし)
生没年:1311-59(応長1-正平14・延文4)

阿野公廉の女。後醍醐天皇の妾。1319年(元応1)西園寺実兼の女禧子(のち後京極院)が後醍醐天皇の中宮として入内するに際して,洞院公賢の養女としてその女房になり後宮に入った。容姿端麗で和歌の才に優れ,ひととなり聡敏であったといわれる。後醍醐天皇の寵愛をうけ,25年(正中2)に恒良(のち東宮),翌26年(嘉暦1)に成良,28年に義良(のち後村上天皇)の3親王の誕生をみ,ほかに2人の皇女を生んだ。これにより後宮に大きな勢力をなし,阿野氏の多くは南朝に参じた。32年(元弘2)3月後醍醐天皇の隠岐配流に際しては三位内侍としてこれに従い,天皇還幸後,准三宮に叙せられ,建武政府の中枢にたびたび口入(くにゆう)することがあったといわれる。51年(正平6・観応2)南朝において院号宣下をうけ,新待賢門院と称した。59年吉野で49歳で死去。
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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「阿野廉子」の解説

阿野廉子 あの-れんし

1301-1359 鎌倉-南北朝時代,後醍醐(ごだいご)天皇の妃。
正安(しょうあん)3年生まれ。阿野公廉の娘。洞院公賢(きんかた)の養女。天皇の寵愛(ちょうあい)をうけ,後村上天皇,恒良(つねよし)親王,成良(なりよし)親王らを生む。天皇の隠岐(おき)配流にしたがい,建武(けんむ)新政府のもとで准三宮(じゅさんぐう)となり,権勢をほこった。吉野遷幸にも同行し,南朝から新待賢門院の院号をうける。「新葉和歌集」に20首のる。延文4=正平(しょうへい)14年4月29日死去。59歳。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「阿野廉子」の意味・わかりやすい解説

阿野廉子
あののれんし

[生]応長1(1311)
[没]正平14=延文4(1359).4.29.
南北朝時代,後醍醐天皇の後宮。公廉の娘。後醍醐天皇の寵愛を受け,後村上天皇,恒良親王,成良親王の母。後醍醐天皇に従って隠岐,吉野におもむき,正平6=観応2 (1351) 年,新待賢門院の院号を受けた。『新葉和歌集』に 20首,『李花集』に数首の作歌収録。

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