日本大百科全書(ニッポニカ) 「陰嚢水瘤」の意味・わかりやすい解説
陰嚢水瘤
いんのうすいりゅう
睾丸(こうがん)水瘤ともいう。睾丸は8層の膜に包まれているが、そのうちの睾丸固有鞘膜(しょうまく)とよばれる内外2枚の膜の間に多量の漿液(しょうえき)がたまる疾患である。局所の外傷、副睾丸および睾丸の腫瘍(しゅよう)や急性炎症のときにおこることもあるが、40歳過ぎに発病してくるものは原因不明で、慢性に経過する場合が多い。睾丸からやや離れた精索内の鞘膜内に液体が貯留した場合は、精索水瘤という。新生児にみられるものは、睾丸が陰嚢内に下降するときに同伴してくる腹膜鞘(さや)状突起が開いたまま腹腔(ふくくう)内と交通している場合に水瘤ができるもので、早晩、鞘状突起が閉じれば自然に治ってしまう。一般に痛みはなく、陰嚢に柔らかい嚢状の腫瘤を触れる。鶏卵大から小児頭大以上の大きさになることもある。暗所で光線を当てると透光性があり、針で穿刺(せんし)すると透明で黄色の液体が出る。液を十分に除去したあと、睾丸および副睾丸を入念に触診し、腫瘍の有無を確かめておくことがたいせつである。急性の場合は、原因疾患が治れば水瘤は消失する。原因不明で慢性に経過するものは、針穿刺によって繰り返し貯留した液体を除去する。手術によって鞘膜を切除するか、裏返して縫合してしまうと完全に治癒する。
[松下一男]