陰茎がん(読み)いんけいがん(英語表記)Penile cancer

六訂版 家庭医学大全科 「陰茎がん」の解説

陰茎がん
いんけいがん
Penile cancer
(男性生殖器の病気)

どんな病気か

 陰茎ペニス)の皮膚から発生する扁平上皮(へんぺいじょうひ)がんと呼ばれる種類のがんです。比較的まれな腫瘍で、日本では近年減っていますが、不衛生な地域では発症が多くみられます。60~70代に多く発症します。

原因は何か

 陰茎がんの発生要因として包茎(ほうけい)が重要視されています。これは、がんの人に包茎が多いことや、幼少時に割礼(かつれい)(包茎の手術)を受ける習慣をもつユダヤ教徒やイスラム教徒にその発生が著しく少ないことから示唆されたものです。

 包茎の場合、包皮内の恥垢(ちこう)による慢性炎症の刺激があり、これが発がんと関係していると推測されています。しかし、包茎だから必ずがんになるというわけではなく、あくまで不衛生にしていることが問題ですから、がんの発症を理由に包茎の手術をすすめる根拠はありません。また、近年パピローマウイルスの感染と関係があるのではないかともいわれています。

症状の現れ方

 通常、陰茎にできた痛みのない腫瘤(しゅりゅう)(おでき)として発症しますが、進行すると痛みや出血なども生じてきます。包茎を伴っていることが多く、包皮内の亀頭(きとう)部にできやすいので、外からは気づくのが遅れることもよくあります。典型的なものは表面が不整なごつごつした外観の塊で、潰瘍を伴っている場合もあります。感染を伴うことも多く、膿性(のうせい)または血性の分泌物がみられます。

 鼠径部(そけいぶ)(大腿の付け根)のリンパ節はれが多くみられます。がんが転移している場合もありますが、感染によるはれが多いようです。皮膚から発生しても、進行して陰茎の海綿体や尿道にまでがんが広がれば、排尿の異常を来すこともあります。

検査と診断

 体表にできるため、肉眼的にがんの診断がつきますが、尖圭コンジローマ梅毒(ばいどく)などとの見極めがつきにくい時には一部の組織を切除して診断を確定させます。さらにX線CTMRIなどで他の臓器への転移の有無を調べます。

治療の方法

①手術

 がんが陰茎と鼠径部のリンパ節まででとどまっている場合には、手術で摘出します。全身麻酔病変から約2㎝離れた部位で正常の陰茎を切断し、新たに尿の出口を形成します。根元から切断する場合は尿の出口が女性と同じような位置にくるので、座って排尿するようになります。

 転移が疑われれば、鼠径部のリンパ節も同時に摘出します。はれていなくてもリンパ節を摘出し転移の有無を調べることもありますが、後遺症として下肢のむくみが残ることが多いようです。

②放射線療法

 初期のがんに対しては手術と同じように有効ですが、亀頭を越えて広がっているような場合には、放射線だけで完全に治すことはできません。手術のあとに残ったがんを消滅させるために補助的に使用される場合があります。

③化学療法

 がんが他の臓器に転移しているような場合、および手術で切除していても目に見えないがんが残っている危険性がある場合の再発予防として、抗がん薬で全身的な治療をすることがあります。ブレオマイシンシスプラチン、メソトレキセート、ビンクリスチンという4種の抗がん薬が有効であるといわれ、これらのいくつかを組み合わせて使用します。

病気に気づいたらどうする

 陰茎という場所だけに病院を受診するのがためらわれ、かなりひどい状態になってから受診して手遅れになることが少なくありません。おかしいなと思ったらすぐに診察を受けてください。リンパ節にまで転移していなければ、ほとんどの例が治るがんです。

関連項目

 尖圭コンジローマ

岸田 健

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「陰茎がん」の解説

いんけいがん【陰茎がん Penile Cancer】

[どんな病気か]
 陰茎(いんけい)の亀頭部(きとうぶ)や包皮(ほうひ)に発生する皮膚がんの一種です。高齢者に発生しますが、比較的頻度の少ない病気です。
 亀頭がいつも包皮でおおわれていて、恥垢(ちこう)がたまったりして亀頭部が清潔でないと、発生する危険が高いといわれています。
[症状]
 初期には、陰茎に小さなしこりを触れますが、痛みはありません。進行してくると、しこりは大きくなり、陰茎の表面に潰瘍(かいよう)が生じて汚くなり、悪臭を放つようにもなります。このころになると、鼠径部(そけいぶ)にもしこりを触れたりします。
 放置すると生命に危険がおよびますので、早く専門医を受診しましょう。触診と視診で診断できることが多いのですが、真性包茎(しんせいほうけい)(「包茎」)の場合では困難なこともあります。組織を一部採取して細胞の性質を調べる生検(せいけん)で、診断を確定する必要があります。ときには鼠径部のリンパ節を採取して、転移の有無を調べることもあります。
[治療]
 治療としては、抗がん剤を使いながらの放射線照射が多く行なわれますが、放射線照射だけの場合もあります。日数は2か月くらいかかります。
 陰茎を一部切断したり、陰茎をその根元からすべて切除し、鼠径部や骨盤部(こつばんぶ)のリンパ節を郭清(かくせい)する(取り去る)手術が行なわれる場合もあります。

出典 小学館家庭医学館について 情報

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