(読み)いん

精選版 日本国語大辞典 「陰」の意味・読み・例文・類語

いん【陰】

〘名〙 (「いん」は「陰」の漢音、「おん」は呉音。古くは「おん」が普通)
① 易学で、陽に対置され、合わせて宇宙の根元となる気。能動的、積極的な陽に対して、受動的、消極的な事象の象徴とする。月・秋・冬・西・北・水・女・偶数・弱・静など。⇔よう(陽)
※雑談集(1305)一「男(なん)は陽、女(にょ)は陰也〈略〉南は陽、北は陰、女を北方(きたのかた)といへり」
※風姿花伝(1400‐02頃)三「夜は又陰なれば、いかにも浮々と、やがてよき能をして人の心花めくは陽也」 〔易経‐繋辞上〕
② 日のささないところ。ひかげ。山の北面。また、川の南岸の地をいう。〔山海経‐南山経〕
陽気が衰え、陰気の盛んなときをいう。転じて、盛りを過ぎた四〇歳以上の年齢にもいう。
※太平記(14C後)四「春夏は陽の時にて忠賞を行ひ、秋冬は陰の時にて刑罰を専らにす」
④ 男女の生殖器。陰部。かくしどころ。また、男のそれを陽物というのに対して、特に女性器をさすこともある。
※十巻本和名抄(934頃)二「陰 釈名云陰〈今案、玉茎・玉門等之通称也〉蔭也。言其所在蔭翳也」
色葉字類抄(1177‐81)「陰 イン ヲン 玉茎玉門等通称也」 〔漢書‐景十三王伝・広川恵王越〕

おん【陰】

〘名〙
① 男および女の陰部。〔十巻本和名抄(934頃)〕
② 暗いこと。陰気。→陰(いん)
浮世草子・真実伊勢物語(1690)二「けふはおばの日にてすこしおんを見たもうじゃなれば」

ほと【陰】

〘名〙
① 女性の陰部。女陰。ほとどころ。
古事記(712)中「其の美人の富登(ホト)〈此の二字は音を以ゐる。下は此れに效ふ〉を突きき」
山間のくぼんだ所。→みほと(御陰)

かぎ【陰】

〘名〙 「かげ(陰)」の上代東国方言。
万葉(8C後)二〇・四三八四「暁のかはたれ時に島加枳(カギ)を漕ぎにし船のたづきしらずも」

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デジタル大辞泉 「陰」の意味・読み・例文・類語

かげ【陰/×蔭/×翳】

《「」と同語源》
物に遮られて、日光や風雨の当たらない所。「木の―で休む」
物の後ろや裏など、遮られて見えない所。裏側。「戸の―に隠れる」「月が雲の―にかくれる」
その人のいない所。目の届かない所。「―で悪口を言う」「―で支える」
物事の表面にあらわれない部分。裏面。背後。「事件の―に女あり」「―の取引をする」
(翳)表にはっきり現れない、人の性質や雰囲気の陰気な感じ。「どことなく―のある人」
他の助け。庇護ひご。恩恵。現代では、ふつう「おかげ」の形で用いる。
「元はといえばかの西内氏のお―である」〈蘆花思出の記
正式なものに対する略式。「―の祭り」
[下接語]いそ岩陰片陰草陰草葉の陰小陰の下陰下陰島陰谷陰・軒陰・葉陰花陰日陰物陰・森陰・柳陰やぶ山陰
[類語](1日陰物陰山陰木陰草陰葉陰緑陰樹陰・森陰/(2後ろ裏面背後背面裏手裏側搦め手

いん【陰】[漢字項目]

常用漢字] [音]イン(漢) オン(呉) [訓]かげ かげる
〈イン〉
光の当たらない所。かげ。「陰影樹陰清陰緑陰
山の北側。「山陰
移りゆく日かげ。時間。「光陰寸陰
暗い。曇る。「陰雨夜陰
気分が晴れない。「陰鬱いんうつ陰気
表面に現れない。「陰徳陰謀
隠し所。性器。「陰萎いんい陰部陰門会陰えいん
(陽に対して)消極的、受動的な性質。「陰画陰極陰性陰陽太陰
〈かげ〉「陰口木陰こかげ日陰物陰山陰
難読陰陽師おんようじ・おんみょうじ陰陽道おんようどう・おんみょうどう

いん【陰】

易学で、陽に対置されて、消極的・受動的であるとされるもの。地・月・夜・女・静・偶数など。⇔
人目につかないこと。表面に現れない部分。⇔。→陰に

ほと【陰】

女性の陰部。女陰。
「―をきて死にき」〈・上〉
山間のくぼんだところ。
御陵は畝火山の―にあり」〈・中〉

おん【陰/飲/隠/蔭】[漢字項目]

〈陰〉⇒いん
〈飲〉⇒いん
〈隠〉⇒いん
〈蔭〉⇒いん

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占い用語集 「陰」の解説

古代中国において考えられた陰陽思想のこと。この世の森羅万象を「陰」と「陽」に分類することができると考えられる。この陰陽に基づく思想を陰陽思想・陰陽道といい、五行論とともに陰陽五行説に発展した。陰は「女性的」「従順」「止まる」「日陰」などの意味合いがある。

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動植物名よみかた辞典 普及版 「陰」の解説

陰 (カゲ)

植物。日陰蔓の別称。ヒカゲの別称

出典 日外アソシエーツ「動植物名よみかた辞典 普及版」動植物名よみかた辞典 普及版について 情報

世界大百科事典(旧版)内のの言及

【陰影法】より

…光線で物体を照らしたときに,物体の置かれた台の上にできる暗部を影shadow,物体それ自身の表面にできるものを陰shadeといい,これらを描写する絵画の技術を陰影法と呼ぶ。これは,空間内の物体を人間の目が認識した場合のビジョン(視覚)の再現に不可欠の要素である。…

【下座音楽】より

…歌舞伎の演出に,効果,修飾,背景,伴奏音楽として,原則として舞台下手の板囲いをし上部の窓に黒いすだれをさげた〈黒御簾(くろみす)〉で演奏される歌舞伎囃子の通称。〈黒御簾音楽〉〈陰囃子〉(略して〈黒御簾〉〈陰〉とも)などの別称がある。ただし〈陰囃子〉は,狭義に,出囃子,出語りについて黒御簾の中で演奏される鳴物を意味することが多い。…

※「陰」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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