随園食単(読み)ずいえんしょくたん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「随園食単」の意味・わかりやすい解説

随園食単
ずいえんしょくたん

中国の料理書。著者は袁枚(えんばい)。浙江(せっこう)省杭州(こうしゅう)府銭塘(せんとう)県の人で、江蘇(こうそ)省の知県(日本の郡長にあたる)を転々としたのち、役所が南京(ナンキン)にあった江寧(こうねい)県の知県時代に、南京の城西にあった隋(ずい)氏の別荘を買い、隋氏の姓をとり字を改めて「随園」と命名した。38歳で官を辞してからは、ここに住んで、荒れ果てていた園を構築するとともに、知友を集めて詩酒の会合をよく催した。袁枚は文章に優れ、詩にも長じており、これが彼の生活を支え、生涯を終えるまでに30余種の著書を残した。『随園食単』は1792年(乾隆57)刊。序によると、馳走(ちそう)になった先の主人や料理人に美味の製法を聞いて書き集めたのが40年このかたで相当に集まったとしており、それを編著したものである。内容は、味つけや取り合わせを知ることなどの予備知識20、材料の浪費やまにあわせを戒める警戒事項14を述べてから、海産物9、川魚6、豚肉43、獣類16、鳥類47、有鱗(ゆうりん)水族フナなど)17、無鱗水族(ウナギなど)26、精進(しょうじん)47、小菜43、点心(てんしん)55、飯粥(はんしゅく)2、茶酒16の、料飲について作り方、飲み方を説明している。清(しん)代中期の南方料理が主として解説されており、たまに白片肉(パイペンロウ)(水煮した豚の切り身)とか猪肚(チュウトウ)(豚の胃袋)の煮方など北方料理にも触れている。

小柳輝一

『青木正兒訳注『随園食単』(岩波文庫)』『『青木正兒全集8』(1971・春秋社)』

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改訂新版 世界大百科事典 「随園食単」の意味・わかりやすい解説

随園食単 (ずいえんしょくたん)
Suí yuán shí dān

中国,清代の文人として名高い袁枚(えんばい)(随園は,彼の庭園の名であり,また雅号でもある)が著した料理書。1巻。1792年(乾隆57)刊。〈食単〉とは〈菜単(メニュー)〉ではなく,料理法を記した書付けの意である。まず料理に関する一般的な心得を須知単,戒単で述べ,ついで料理の材料により,海鮮単,特牲単,雑牲単,羽族単,水族有鱗単,水族無鱗単,雑素単の7部(217種)に分け,これに小菜単43種,点心単55種,飯粥(はんしゆく)単,茶酒単を加えて,それぞれの調理法や品評を記している。いずれも袁枚自身が口にして美味と賞した料理についての記録である。19世紀フランスのブリヤ・サバランが著した美食古典とでもいうべき《味覚の生理学》(《美味礼讃》)と東西双璧をなす《随園食単》は,日本においても明治以降,受容され紹介されてきた。とりわけ青木正児によって完訳されたことにより,今日多くの人が手にとり中国の食文化の一端を理解できるようになった。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の随園食単の言及

【袁枚】より

…《随園詩話》26巻はその文学活動の記録であり,なかでも女性や働く人々の詩句を採録している点が注目される。またみずから育成した女流詩人28人の《随園女弟子選》6巻,怪談物語《子不語》24巻,料理法の解説書《随園食単》などには,多彩で型破りな生きかたの一端がそれぞれ反映されている。【松村 昂】。…

【中国料理】より

…日本からは長崎貿易を通して輸入された海参の類は珍重された。
[近・現代]
 清代にも料理書は多々あるが,最も人口に膾炙(かいしや)するのは袁枚(えんばい)の《随園食単》である。士大夫の食生活や料理のあり方を知る上で貴重な書である。…

【料理書】より

…明代には食物関係書が急に多数出版されるようになり,めぼしいものに《宋氏尊生》(16世紀初期),《多能鄙事》(1550,劉基撰),《易牙遺意》(16世紀末ころ,韓奕編),《遵生八牋(じゆんせいはつせん)》(1591,高濂著)などがあり,前代のものに比し記述はより具体的である。清代では《随園食単》(1792,袁枚著)が出色で,〈料理論語〉と通称されるほどの豊かな内容をもつが,教訓的な記述が多いのも一つの特色である。《粥譜(しゆくふ)》(1581,黄雲)は中国唯一の粥の専門書であり,238種の粥と雑炊が採録されている。…

※「随園食単」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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