雑戸(読み)ざっこ

精選版 日本国語大辞典 「雑戸」の意味・読み・例文・類語

ざっ‐こ【雑戸】

〘名〙 令制で、諸官司に属し、主として手工業的な特殊技術をもって奉仕する集団。所属する官司に年間の一定期間、または臨時に出向して勤労するか、あるいは特定製品を納入することを義務づけられていた。そのかわり課役全部、または一部を免除された。雑戸は品部(しなべ・ともべ)とともに身分的には良民と賤民の中間にあるが、品部よりもやや高く良民に準ずるべきものと考えられていた。奈良時代以降、次第に解放された。
※律(718)名例「凡雑戸・陵戸犯流者、近流決杖一百、一等加卅、留住倶三年」

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デジタル大辞泉 「雑戸」の意味・読み・例文・類語

ざっ‐こ【雑戸】

律令制で、諸官司に属し、主として手工業的な特殊技術をもって奉仕した集団。多くは、課役の一部または全部を免除された。図書寮紙戸雅楽寮楽戸など。

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改訂新版 世界大百科事典 「雑戸」の意味・わかりやすい解説

雑戸 (ざっこ)

大化前代の職業部のうち,その技術の軍事的重要性のゆえに解放されず,令制諸官司に強力に掌握された集団。大蔵省・内蔵寮百済手部(くだらてべ)・百済戸,造兵司雑工戸鍛戸(かぬちべ)・甲作(よろいつくり)・靱作(ゆぎつくり)・弓削(ゆげ)・矢作(やはぎ)・鞆張(ともはり)・羽結(はゆい)・桙刋(削)(ほこけずり)),典鋳司雑工戸,鍛冶司鍛戸,筥陶司筥戸(はこべ),左右馬寮飼丁および所属不明の鞍作(くらつくり)等からなる。大宝官員令別記によると総数は1603戸を数え,おもに1戸より1丁が年に6ヵ月間または臨時に,所属官司に上番して作業に従事するが,筥戸のように一定額の製品を貢納するものもあった。この労働に対する代償として戸内の課役の全部または一部を免除され,兵士にも充てられなかった。雑戸の多くは朝鮮半島からの渡来人を組織した職業部民に起源をもち,京畿内および伊賀,伊勢,尾張,近江,美濃丹波,播磨,紀伊等の近国に居住した。その名称は唐制の賤民雑戸に由来するが,日本では法的に賤民とはされていない。しかし公民品部とは異なる特殊な雑戸籍によって把握され,官司に直属するという方式がとられたため,賤視の風潮が生じ,良賤の中間の準賤民的扱いをうけた。このためはやくより雑戸の公民化をもとめる動きが見られ,744年(天平16)全雑戸の解放が行われた。これは大仏造立にかかわるものと考えられる。この大工事には大量の雑戸労働力を必要としたが,聖武天皇は大仏造営に民衆の〈知識〉すなわち自発的参加を期待したので,公的労働力としての雑戸の投入ではなく,解放雑戸の自発的参加という形式を装わせたのであろう。しかしその労働力はその後も官司で必要とされたので,大仏完成とともに再び旧官司に勤務するようになる。ただし雑戸としてではなく,雑戸籍に付貫されない品部的扱いとなっている。その後,律令制解体の危機の中で品部の停廃がすすむが,旧雑戸の鍛冶戸,雑工戸等は軍事的重要性から廃されず延喜式制まで存続している。しかしそのころの実体はすでに官司の資養農民的存在に変質している。
馬飼部 →鍛冶部 →鞍作部
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「雑戸」の意味・わかりやすい解説

雑戸
ざっこ

律令時代,大蔵省兵部省造兵司,中務省図書寮などのような特定の,寮に属し,手工業などの技術的業務に従事した集団。百済戸,鍛戸(かぬちこ),筥戸(はここ),馬甘(うまかい),甲作(よろいつくり),靫作(ゆぎつくり),矢作,弓削(ゆげ)などのあったことが知られ,渡来人系の者も多く含まれていた。おもに畿内に居住し,1年のうち一定期間所属の官司に上番するか,特定の手工業品を貢納し,課役のすべてまたは一部を免除された。身分的には良民に準じたが,奈良時代の最盛期以来,良民への解放が行なわれ,平安時代にはその種類も減少し,残った雑戸も農民と変わらないものとなった。(→律令制

雑戸
ぞうこ

雑戸」のページをご覧ください。

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百科事典マイペディア 「雑戸」の意味・わかりやすい解説

雑戸【ざっこ】

〈ぞうこ〉とも読む。律令制度で諸官庁に世襲的に隷属した下級技術者。身分は,唐では賤民(せんみん),日本では良民の最下層で渡来人が多い。大和朝廷時代の品部(しなべ)のうち,武器製作・皮革加工・牧畜などの技術をもち,官庁の工房や牧場に交代で勤務したものが,大化改新後もその重要性のゆえに解放されず,唐にならって雑戸と呼ばれ,婚姻・職業・裁判などで身分上の差別をされた。《令集解(りょうのしゅうげ)》によると総戸数1603。744年全雑戸の解放が行われたが,これは聖武天皇の大仏造立(ぞうりゅう)にかかわるとみられる。
→関連項目官戸伴造

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「雑戸」の解説

雑戸
ざっこ

律令制下,特定官司に所属した軍事関係を主とする技術者集団。大化前代の職業部民のうち,その技術の重要性から解放されずに再編成されたもので,課役が減免された。百済手部(くだらのてひとべ)・百済戸・雑工戸(ざっこうこ)・鍛戸(かぬちこ)・筥戸(はここ)・飼戸・鞍作などがあり,大宝令の官員令別記によればその総数は1603戸。雑戸籍に登録され,特殊な姓を付されるなど一般公民と区別され,賤視されることもあった。8世紀初めからしだいに解放され,9世紀中にはほぼ実体を失ったと考えられる。

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旺文社日本史事典 三訂版 「雑戸」の解説

雑戸
ざっこ

律令制において,特定の官司に属する特殊手工業者の集団
賤民に準じ,品部 (しなべ) より身分は低い。庸・調の代わりに,一定期間所属官庁に勤務して特殊技術の仕事に従事したり,または特定の手工業品を納めた。多くは課役を免除された。

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普及版 字通 「雑戸」の読み・字形・画数・意味

【雑戸】ざつこ

官奴再免。

字通「雑」の項目を見る

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「雑戸」の意味・わかりやすい解説

雑戸
ざっこ

品部・雑戸

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世界大百科事典(旧版)内の雑戸の言及

【賤民】より

…官戸,公奴婢,家人,私奴婢は,一般に手工業や農業に従事する労働奴隷ではなく,それらの補助的労働や雑役に従事する家内奴隷であった。手工業部民の一部は律令制では賤民に準ずる身分の雑戸(ざつこ)に編成されたが,8世紀半ば以降解放されていった。賤民は同身分間での婚姻しか認められず,良民との通婚も禁止された。…

※「雑戸」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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