電子分光(読み)でんしぶんこう(英語表記)electron spectroscopy

改訂新版 世界大百科事典 「電子分光」の意味・わかりやすい解説

電子分光 (でんしぶんこう)
electron spectroscopy

物質に光(X線,紫外線),電子,イオン励起分子などをあて,物質から放出される電子の運動エネルギー分布を測定する(これを電子を分光するという)方法の総称。照射源と電子放出過程相違により分類される。光照射による方法を光電子分光photoelectron spectroscopy略称PES)という。そのうちX線によるものをX線光電子分光X-ray photoelectron spectroscopy(略称XPS),紫外線によるものを紫外光電子分光ultraviolet photoelectron spectroscopy(略称UPS)と呼ぶ。XPSは化学分析に用いられることが多いので,ESCA(エスカ)(electron spectroscopy for chemical analysisの略称)と呼ばれることがある。物質に電子をあてるときは,直接電子を放出する場合と間接的な過程(オージェ効果)で電子を放出する場合がある。前者の過程による電子の分光を電子衝撃分光electron impact spectroscopy(略称EIS),後者の過程による電子の分光をオージェ電子分光Auger electron spectroscopy(略称AES)という。EISではあてた電子(一次電子)よりエネルギーの低い放出電子(二次電子)に着目するので,電子エネルギー損失分光electron energy loss spectroscopy(略称EELS)という名称も使われる。イオン(おもに希ガスイオン)をあてる方法をイオン中和分光ion neutralization spectroscopy(略称INS),励起原子(おもに希ガスの準安定励起原子)による方法をペニングイオン化電子分光Penning ionization electron spectroscopy(略称PIES)という。これらの方法における電子放出過程とこれらの方法を用いて得られる情報を表に示す。電子分光の適用範囲は広く,気体液体固体試料の研究に使われるが,とくに固体に応用すると,固体表面の最上層から数層までの情報が得られるので,表面の吸着状態や触媒作用の研究において重要な手法となっている。

 気体の紫外光電子分光装置概略を図に示す。装置は光源,イオン化室,電子エネルギー分析器および検出系から成っている。他の電子分光も,光源以外は同様な構成の装置を用いる。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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