電気泳動(読み)でんきえいどう(英語表記)electrophoresis

翻訳|electrophoresis

精選版 日本国語大辞典 「電気泳動」の意味・読み・例文・類語

でんき‐えいどう【電気泳動】

〘名〙 コロイド溶液・懸濁(けんだく)液・エマルジョンなどに直流電圧を加えたとき、コロイド粒子などの分散質微粒子が陰極または陽極に向かって移動する現象。コロイド粒子の分別、ゴム・合成樹脂電着などに利用。〔電気工学ポケットブック(1928)〕

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デジタル大辞泉 「電気泳動」の意味・読み・例文・類語

でんき‐えいどう【電気泳動】

コロイド溶液電極を入れて直流電圧を加えると、コロイド粒子が陽極または陰極へ向かって移動する現象。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「電気泳動」の意味・わかりやすい解説

電気泳動
でんきえいどう
electrophoresis

古くは、溶液中に一対の電極を浸して直流電圧をかけたときに、コロイド粒子がいずれか一方の電極に向かって移動することをいったが、現在では、コロイド粒子に限定することなく、荷電したイオンなどが溶液中にかけられた電場によって移動することをさす。媒体としては濾紙(ろし)やデンプンゲル、寒天ゲル、あるいはポリアクリルアミドのゲルなどが用いられ、この中で、分離したいものを小さなスポットあるいは細い帯状につけたものを泳動させて分離、確認を行う。生体成分、錯イオンなどかなり類似したものどうしの分離に有効でよく利用される。通電クロマトグラフィーとよばれることもある。

[山崎 昶]

生化学における電気泳動

おもな電気泳動法には、U字管状のガラス容器を用いて溶質の界面移動を観測する方法と、膜あるいはゲル状支持体中で泳動を行う方法の二つがある。溶液中の溶質の移動を観測する前者の方法は、扱いがめんどうなうえ溶質の染色による検出ができないので、支持体中で泳動させる後者のほうが利用度が高い。そのため、濾紙、セルロースアセテート膜、ポリアクリルアミドゲル、アガロースゲルなどの支持体を用いた泳動法がよく用いられ、低分子物質のほか、酸性多糖、核酸タンパク質などの分離や精製に広く用いられている。ポリアクリルアミドゲルやアガロースゲルを支持体とする電気泳動はとくにゲル電気泳動とよばれ、タンパク質やDNAデオキシリボ核酸断片の分離・分画や分子サイズの測定に広く用いられており、分子生物学のもっとも基本的な手段の一つとなっている。

[嶋田 拓]

『A・H・ゴールドン著、坂岸良克訳『ゲル電気泳動法』(1974・東京化学同人)』『木曽義之著『ゾーン電気泳動』(1975・南江堂)』『真鍋敬著『タンパク質のゲル電気泳動法』(1991・広川書店)』『日本電気泳動学会編『最新電気泳動実験法』改訂版(1999・医歯薬出版)』『菅野純夫・平野久監修『より高感度・定量的な検出解析のための電気泳動最新プロトコール』(2000・羊土社)』

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化学辞典 第2版 「電気泳動」の解説

電気泳動
デンキエイドウ
electrophoresis

コロイド溶液あるいは微粒子の懸濁液や乳濁液中に電極を挿入してこれに直流電圧を加えるとき,コロイド粒子あるいは微粒子がどちらか一方の電極へ向かって移動する現象.1808年,F.F. Reussによって発見された.電気泳動の起こる原因は,溶液中の微粒子の表面に生じる電気二重層によるものと考えられている.すなわち,微粒子-溶液界面に電気二重層が生じるときには粒子表面は正または負に荷電し,そこに電場が加えられると,粒子は表面電荷の符号に応じて陽極または陰極に向かって移動する.このように電気泳動は2相界面の電気二重層による表面電荷と外部から加えられる電場との間の静電的相互作用による動的現象であり,電気浸透,流動電位などとともに界面動電現象とよばれるものである.粒子の移動速度を支配する因子は,粒子の大きさ,形状,表面電荷密度,溶液中の電解質の種類,イオン強度,pH,温度,加えた電圧の大きさなどである.両性電解質等電点では,粒子の移動は起こらず,その前後で運動の方向が逆転する.電気泳動の測定法としては,大別して,
(1)特殊な容器を用いて個々の粒子の運動を顕微鏡限外顕微鏡で観測する方法と,
(2)粒子を含む溶液とその分散媒とを接触させて界面をつくり,境界面の移動をシュリーレン法のような適当な光学的方法で観測する方法,
とがある.後者の代表的なものとしては,A.W.K. Tiselius(ティセリウス)の電気泳動装置がある.電気泳動の応用には,コロイド粒子の分別,粘土の精製,ゴムや合成樹脂の電着などがある.とくに,高分子溶液の研究に重要な役割を果たしている.[別用語参照]ティセリウスの電気泳動装置キャピラリー電気泳動ゾーン電気泳動ポリアクリルアミドゲル電気泳動

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改訂新版 世界大百科事典 「電気泳動」の意味・わかりやすい解説

電気泳動 (でんきえいどう)
electrophoresis
cataphoresis

液体中に分散された固体粒子や油粒子は帯電しているので,電界を与えられると移動する。この現象を電気泳動という。粒子はその帯電電荷に応じて陰極または陽極に移動し,また粒子の大きさや形状によって泳動速度(移動度)も異なるので,これを利用して精製・分離や分析を行うことができる。以下に応用例を述べる。

(1)精製への応用 粘土粒子は水中で負に帯電するので,電気泳動により陽極に集めて精製できる。顔料,カーボランダムステアタイト(滑石の一種)などの精製も試みられている。

(2)分離,分析への応用 固-液界面においては電荷の再配列によって電位勾配が生じている。液相を機械的に動かすときに重要な役割を演ずる電位差は,液相の内部の電位とヘルムホルツ層の外側の電位との差(界面動電位またはζ電位と呼ぶ)であり(図),ζ電位の差を利用すると電気泳動により,コロイド粒子の混合物から成分を分離,分析できる。したがってコロイド化学,生化学,医化学,免疫化学などの分野で,タンパク質,アミノ酸,色素などの精製,分離,分析に応用されている。分析法は電気泳動を行わせる方式によってゾーン電気泳動法と移動界面法に大別される。前者は試料を泳動させて分離したゾーンとして検出する方法で,ろ紙電気泳動法が広く用いられている。後者はティセリウス法とよばれ,U字形セル内に試料と溶媒を入れ,その境界面の通電による移動を適当な光学系で観察して泳動図を得て分析する方法である。

(3)電着への応用 水溶性樹脂(アクリル樹脂など)に顔料を混じた塗料を15%以下の濃度でコロイド粒子として水中に分散させ,被塗物と塗料槽の間に40~270Vの直流電圧を与えると,コロイド粒子は被塗物に向かって電気泳動し,ここに達すると電荷を失って,被塗物表面に連続して被膜を形成する。このような原理に基づく電着を泳動電着という。自動車の塗着などに広く用いられている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「電気泳動」の意味・わかりやすい解説

電気泳動
でんきえいどう
electrophoresis

コロイド溶液や,さらに粒子の粗い分散系 (粗大分散系) 中に電極を入れて直流電圧をかけると,コロイド粒子や微粒子が分散媒中を移動して徐々に一方向に集る現象。これらの粒子は多くの場合,その表面に負電荷または正電荷をもつために,このような現象を生じる。この場合,分散相である微粒子に対して分散媒である液体は微粒子との境界面で反対符号の電荷をもち,ちょうどコンデンサのように微粒子と液体の境界面に電位を生じる (電気運動学的電位,ツェータポテンシャル) 。電気泳動で粒子の移動する速度は溶液の粘度のほかに移動する粒子の形,大きさ,電気運動学的電位で決る。したがって溶液に一定の直流電圧を加えた場合,それぞれの粒子は粒子の種類に応じた特有の速度で移動するので,それらの粒子を種類別に分別することができる。この現象を利用してコロイドや粗大分散系の粒子の分別,空中に浮遊する塵埃コロイドの除去や回収,蛋白質の分析 (→ティセリウスの電気泳動装置 ) などが行われる。

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百科事典マイペディア 「電気泳動」の意味・わかりやすい解説

電気泳動【でんきえいどう】

コロイド溶液中に二つの電極を入れて直流電圧を加えたとき,溶質がその電荷に応じて陽極または陰極側に移動する現象。電位勾配(こうばい)1V/cmの時の移動速度(cm/secで表す)を移動度という。この値はコロイド粒子の大きさ,形,構造,電荷などによって異なり,両性電解質ではさらにpHによっても変化する。アミノ酸,タンパク質などの分離や分析,DNAの塩基配列の決定に利用。
→関連項目コロイド

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栄養・生化学辞典 「電気泳動」の解説

電気泳動

 荷電性粒子の溶液やコロイド液を電場におくと,荷電によって他の符号の電極にその粒子が引かれる.この性質を利用して物質を分別する方法.

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世界大百科事典(旧版)内の電気泳動の言及

【界面電気現象】より

…コロイドの場合には,コロイド粒子のほうが移動する。これを電気泳動という。また隔膜などの多孔質膜を通して液を流動させると,膜の両面に電位差を生ずる。…

※「電気泳動」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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