非鉄金属工業(読み)ひてつきんぞくこうぎょう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「非鉄金属工業」の意味・わかりやすい解説

非鉄金属工業
ひてつきんぞくこうぎょう

鉄以外のすべての金属を生産・加工する工業の総称。(1)銅、(2)軽金属、(3)レアメタル(希金属)、の三つに大きく分けられる。なお、「軽金属工業」に関しては別項を参照。

[黒岩俊郎]

非鉄金属工業の特徴

地下に賦存する資源

金属鉱物資源は、地下に賦存することが非常に大きな特徴である。そのために、資源を発見する探査技術が重要になってくる。現代は自然科学の成果により、物理探査、地化学探査重力探査電気探査などの各種の探査技術が発展している。それと同時に、地下にある資源を採掘する技術(通風技術、排水技術も含む)も重要である。

[黒岩俊郎]

国際独占体の支配と資源ナショナリズム

この分野では、かつては国際独占資本(体)が圧倒的に強力であった。それは金属鉱物資源が、ある特定の所に集中して埋蔵されていることからきている。すなわちこの分野では、先発企業が、あがる豊富な利益を次々と探査活動に投入し、優良な地帯に「鉱区」を設定し、独占的に支配することを可能にしている。

 銅鉱石の分野では、2006年の時点で、コデルコCODELCO(11.7%)、BHPビリントン(8.2%)、フェルプス・ドッジPhelps dodge社(6.7%)、リオ・チント(5.3%)、アングロ・アメリカン(4.3%)と、この上位5社だけで全世界の銅鉱石生産の36%を占めた。その他の非鉄金属工業でも同様に、BHPビリントン、アングロ・アメリカン、コデルコなどの巨大企業が、資源、鉱石生産から金属製錬の分野を独占的に支配している。

 第二次世界大戦後、資源ナショナリズムの動きが台頭してきている。とくに石油の分野でOPECオペック、石油輸出国機構)が登場し、大きな力をもつにつれ、金属鉱物資源を産出する開発途上国でもそれに対応した動きがみられるようになった。たとえば、1967年、銅鉱石を産出する国々が集まりCIPEC(シーペック、銅輸出国政府間協議会)を結成した。参加したのは、ザンビア、チリ、ペルー、ザイール(現コンゴ民主共和国)の4か国であり、銅鉱石輸出国の協力、協同行為の強化により、銅価格の変動の原因を究明し、銅価格の安定を図ろうというものであった。同じような動きとして1974年、ボーキサイト生産国機構が結成された。

[黒岩俊郎]

鉱山業の特異な性質

製造業と異なり、鉱山業には次のような特有の性質がある。

(1)鉱山業では、資源がなくなると、新しい鉱山開発をし、その生産地を変えなければならない。

(2)探査活動を始めてから、開発に値する鉱山をみつける率は、きわめて低くリスキーな(危険の多い)産業である。

(3)有望な鉱山がみつかっても、鉱山開発には、陸上輸送、港湾の整備等多くの資金投資が必要である。

(4)開発に着手してから最初の鉱石が出るまで、長い年月が必要である。

以上のような理由から、海外資源の開発に際しては、数社で協同開発を行う傾向が強まっている。

[黒岩俊郎]

公害型産業

第二次世界大戦前・戦後を通じて公害型産業であることも認めざるをえない特徴である。戦前の事例では、足尾銅山鉱毒事件や、住友新居浜(にいはま)や日立鉱山で起こった排煙中に含まれる硫黄分の被害事例などがある。また戦後になって起こった、神岡鉱山の廃液の中に含まれるカドミウムによるイタイイタイ病なども代表的な事例である。

[黒岩俊郎]

生産量

2007年の時点で、世界の銅生産高(精製銅)は1800万トンであった。これを国別生産高でみると、第1位は中国(350万トン)、第2位はチリ(294万トン)、第3位は日本(158万トン)であり、この3か国だけで、全世界銅生産高の45%を占める。アルミニウムについては、2008年の世界のアルミニウム生産高は3900万トンで、第1位は中国(1320万トン)、第2位はロシア(380万トン)、第3位はカナダ(312万トン)、第4位はアメリカ(266万トン)、第5位はオーストラリア(197万トン)で、以上5か国で2475万トンと全世界のアルミニウム生産の約6割を占めている。

 日本の銅生産に関しては、国内銅鉱は、ほぼ掘りつくされているため、86%は海外からの輸入銅鉱石から生産されている。アルミニウム生産に関しては、原料となるボーキサイトは国内では産出しないため、全量海外から輸入している。主要なアルミニウム鉱(精鉱を含む)の輸入先は、2005年(平成17)の時点で、オーストラリア、インドネシア、インドであり、それぞれの全輸入量に占める比率は45%、37%、13%であった。

[黒岩俊郎]

日本の非鉄金属工業の歴史

日本は、かつては産銅国であり、別子銅山が発見された直後には、世界有数の産銅国でありヨーロッパに輸出していた。しかし、欧米の鉱山と異なり、日本では徹底した人力依存であったため、その後、地下からの湧水(わきみず)の排水処理がうまくいかず、幕末から明治初期にかけて日本の銅鉱山は廃鉱寸前で、全山蜂(はち)の巣のように穴だらけであった。

 明治になり、政府は非鉄金属部門の近代化を始めた。生野(いくの)鉱山を模範鉱山とし、外国人を雇い、集中的に近代化を始めた。住友の近代化を進めた広瀬宰平(さいへい)が生野に学んだのは、このころである。また、銅の製錬工程においては、足尾銅山で塩野門之介らにより、近代化の先頭をきった。こうした先達の努力により、明治初期には、銅は日本の代表的な輸出商品となった。

 日本でアルミニウムの使用量が増加したのは、軽量であるということに目をつけた陸軍が大阪砲兵工廠(こうしょう)でアルミ製の飯盒(はんごう)、水筒などに使い始めてからである。これは住友伸銅所(住友軽金属の前身)がその伸銅の装置を使い、アルミニウムを圧延し、アルミ板を砲兵工廠に提供したものであった。これが日本のアルミ加工の始まりである。

 第一次世界大戦を契機に、航空機工業がおこり、また電化も進行し、大電力網の建設が必要になってきた。軽量な金属であること、電気の良導体であることなどからアルミニウムの需要が高まり、1919年(大正8)、古河鉱業はイギリスのBACO(バコ)との技術援助契約を結び、古河電工を建設した。日本におけるアルミ精錬は、1934年(昭和9)昭和電工の前身である日本電工が横浜にアルミナ工場を、また長野県大町(おおまち)に電解工場を建設したのが始まりである。

 その後、原子力、航空宇宙産業、エレクトロニクスといった産業におけるハイテク部門の登場に伴い、レアメタルの特殊な物性が注目されるようになった。たとえば、第二次世界大戦中、航空機は高速化を追求した結果、レシプロエンジンからジェットエンジンに変わっていった。ジェットエンジンの材料には、強力な耐熱性、強度、軽量といった厳しい使用条件が要求されたが、これに堪える金属として、チタンが登場してきた。

[黒岩俊郎]

レアメタル

レアメタルとは希少(レア)な金属のことで、ハイテク製品などの製造に必要な金属である。日本では経済産業省の鉱業審議会が、ニッケルやリチウムなど47元素から構成される31品目の鉱物をレアメタルに指定している(経済産業省では、47元素のうちの希土類17元素を1品目として数えている)。レアメタルが重要であるのは、チタン、ジルコン、タンタル、ウラン、ゲルマニウム等のように、将来重要になってくる産業や技術にとっては、なくてはならない金属だからである。たとえばチタンは軽量で強度は大であるため、アルミニウムのかわりとなりえる。ウランは原子力産業にとって基本の材料である。その他、自動車用鉄鋼材料には、微量のレアメタルを添加すると、強度や防錆(ぼうせい)性が飛躍的に高くなることが知られている。

[黒岩俊郎]

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改訂新版 世界大百科事典 「非鉄金属工業」の意味・わかりやすい解説

非鉄金属工業 (ひてつきんぞくこうぎょう)

非鉄金属とは広義には鉄以外の金属の総称であるが,一般的には銅,鉛,亜鉛,スズ,タングステンなどの金属を指し,アルミニウムやマグネシウムなどは軽金属,,白金などは貴金属として区別することが多い。なかでも亜鉛は各種の基礎資材として大量に使用され,資源も豊富なため,ベースメタルと呼ばれる。非鉄金属工業とは,これら非鉄金属を加工して製品を作る産業のことである。鉱石を採掘し,選鉱,精錬する工程は非鉄金属鉱業と呼ばれる。非鉄金属工業のおもな製品は,伸銅品,鋳物,電線,蓄電池などである。日本の非鉄金属工業(非鉄金属製造業から製錬・精製業を除いたもの)の出荷額は6兆5239億円で,工業全体の約2%を占めている(1995。《工業統計表》による)。

 非鉄金属工業の特徴としては,その製品のユーザーが住宅,自動車,電気機械など耐久消費財産業であるため,民間の設備投資や個人消費の動向に需給が大きく左右される。たとえば銅の需要の約7割が電線であり,残りもエアコン用などの伸銅品である。鉛も需要の約4割が自動車用バッテリーを中心とする蓄電池である。亜鉛も,内需の約4割を占める亜鉛鉄板は住宅や自動車向けである。

 また非鉄金属は総じて国際商品である。これは非鉄金属が製品差別化ができず,軍需物資でもあることから,投機の対象となり需要が安定しないためである。また世界の非鉄金属会社においては,何年かごとの労働協約改訂期にストライキが多発し,価格の高騰が生じ,一方,供給過剰期には市況がなかなか回復しない。そして非鉄金属工業も,こうした非鉄金属の市況の影響を受けやすい。
軽金属工業 →伸銅工業 →電線工業
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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