非鉄金属鉱業(読み)ひてつきんぞくこうぎょう

改訂新版 世界大百科事典 「非鉄金属鉱業」の意味・わかりやすい解説

非鉄金属鉱業 (ひてつきんぞくこうぎょう)

非鉄鉱物資源を探査・発見し,これを採掘・取得し,選鉱・製錬する産業。非鉄金属とは広義には鉄以外の金属すべてのことであるが,一般的には銅,鉛,亜鉛,スズ,ニッケルコバルトタングステンなどのことを指し,などは貴金属アルミニウムマグネシウムチタンは軽金属として区別されることが多い。世界の生産量(含有量)は銅鉱1002万tで,うちチリ249万t,アメリカ185万t,旧ソ連80万tなど,鉛鉱は269万tで,うちオーストラリア45万t,アメリカ41万t,中国40万tなど,亜鉛鉱は700万tで,うちカナダ111万t,中国100万t,オーストラリア90万tなど,スズ鉱は19万4600tで,うち中国5万4000t,インドネシア4万6100t,ペルー2万2300tなどである(1995)。日本(精鉱量)は銅鉱2376t,鉛鉱9659t,亜鉛鉱9万5274tなどである(1995)。

非鉄金属鉱物資源の分布をみると地域的に偏在しているものが多い。たとえば銅鉱石埋蔵量ではチリ,アメリカ,旧ソ連,ザンビア,カナダ,ペルーの6ヵ国で世界全体の63.8%を占め,銅鉱の生産量ではこの6ヵ国で72%を占めている(1992)。ニッケルについても,主要鉱山はカナダ,旧ソ連,ニューカレドニア,オーストラリアに集中し,世界のニッケル鉱石の85.9%がこの4ヵ国から産出している(1992)。またコバルトについても,ザイール(現,コンゴ民主共和国),ザンビア,旧ソ連,カナダ,キューバ,オーストラリアの6ヵ国で世界の鉱石生産量の97%を占めている(1992)。このような資源分布の偏在のため,鉱石や地金の供給は局地的政情不安や労働争議,現地政府の政策変更などにより左右されやすい。一方,非鉄金属は産業の基礎資材でもあり,軍需物資としても重要であるので,その需要は景気動向や国際情勢の変化に伴って大きく変動する。その結果,価格も乱高下するようになった。そのため各国とも非鉄金属鉱業に対して保護優遇策をとってきた一方,価格維持のためのカルテルトラストが結成されてきた。とくにアメリカの産銅資本は19世紀後半以降トラストにより国内価格の操作を行ってきた。しかし20世紀に入りアンチトラスト法によりトラストが解散されると1935年国際カルテルを結び,間接的に国内価格を維持しようとした。この国際カルテルはアメリカを除く世界の生産の約半分を支配した。第2次大戦後もアメリカにおいては61年5月から《Engineering and Mining Journal》による国内製錬銅価格30.6セント/ポンド,電気銅生産者価格31セント/ポンドの価格が64年2月まで実施され,アメリカ以外の会社もこれに追随した。一方ロンドン金属取引所LME)においても価格操作が行われ,1962年4月から約2年間銅のLME価格は234ポンド/ロングトンに釘づけにされた。しかし64年には市況が回復し,ベトナム戦争の激化のためLME価格は高騰し生産者価格はこれに対抗できず,65年4月に消滅した。

 その後1960年代中ごろから資源保有国において,資源国有化と価格決定への発言力の強化という,いわゆる資源ナショナリズムが高まった。その象徴的な出来事が,68年にチリ,ザンビア,ザイール,ペルーの4ヵ国によって設立されたCIPEC(シペツク)(Conseil Intergouvernemental des Pays Exportateurs de Cuivre,銅輸出国政府間協議会)の誕生である。CIPEC諸国はそれまで外国資本によって支配されていた国内資源の国有化を積極的に行った。たとえばザイールはCIPEC設立前の1967年にユニオン・ミニエール社(ベルギー)の資産を接収,ペルーは70年にアサルコ,アナコンダ両社(ともにアメリカ)を接収,チリは71年にアナコンダ社,ケネコフット社(アメリカ)の鉱山を国有化した。このうちアナコンダ社Anaconda Co.(1881年アナコンダ・マイニング社として設立)は,その最盛期の1966年には自由世界の約13%に当たる56万5000tの産銅量を記録し,埋蔵量でも世界全体の40%を保有していた産銅業界の文字どおり〈王蛇〉であった。しかし同社は,産銅量の2/3,利益の3/4を得ていたチリの銅鉱山の国有化により大きな打撃を受け,77年にはアメリカの石油会社アトランティック・リッチフィールド社に買収されてしまった。

日本の非鉄金属鉱業は銅,金,銀を中心に古い歴史をもっている。たとえば栃木県の足尾鉱山は16世紀中ごろから,愛媛県の別子銅山は17世紀末ごろから稼行されている。明治期には鉱業の近代化の政策がとられ,官営の鉱山も1884年に秋田県の小坂鉱山を最初に,96年までにすべてが民間に払い下げられた。第1次大戦当時にはアメリカに次ぐ第2の産銅国にまで成長した。しかし第2次大戦後,とくに1960年代以降は63年に銅地金輸入自由化がなされ,一方68年に別子銅山,73年に足尾鉱山,78年に尾去沢鉱山,81年に日立鉱山と,歴史的な鉱山が相次いで閉山された。1960年に450以上あった日本の非鉄金属鉱山は84年現在68にまで減少した。日本の非鉄金属鉱山が立ち行かなくなった原因としては,鉱石価格が地金の国際市況にスライドして決まる仕組みのため,市況の低迷や円高によって鉱石価格が生産コストを大幅に下回り採算がとれなくなったことがあげられる。銅鉱石の自給率すなわち,国内鉱山産出量/(国内鉱山産出量+海外鉱山産出量+輸入鉱石量)でみると,1970年に15.1%であったのが82年には3.0%にまで低下している。

 非鉄金属鉱業をめぐる環境は1973年の石油危機以降大きく変化してきた。まず需要面では,経済消費構造が省エネルギー,省資源,軽量化になったことに伴い,これまでの銅,鉛,亜鉛などのベースメタル(基礎的金属)の消費量が漸減していること,そして新製品,新技術の登場により既存材料を代替もしくは駆逐していることである。その典型的なものとしては光ファイバーが銅電線に置きかわりつつあることである。光ファイバーは銅電線に比べ低損失,漏話のないこと,広伝送帯域など種々のメリットがあるため,近年急速に普及してきている。次に供給面では,世界的に鉱山の休・閉山が続いたため,需要の低減以上に供給能力が減少したことである。とくに80年春以降,市況の極端な低迷により,その水準では採算がとれず休・閉山が進む一方,低水準の市況では長いリードタイムを必要とする新規鉱山の開発・操業の投資が喚起されるには至らず,供給能力は減る一方となっている。ちなみに銅の場合,海外新規鉱山の開発コストは84年時点で1~1.5ドル/ポンドといわれるが,同年の銅地金のアメリカ国内価格の約2倍である。

 非鉄金属の激しい価格変動,リスクの大きい探鉱事業のため,日本の非鉄金属鉱業(精錬)会社は,国内に鉱山をもたずに,鉱石をすべて国際市場で輸入し,精錬するカスタム・スメルターに変身していった。今後,国際的見地から日本が非鉄金属資源の安定供給を確保するためには,(1)探鉱に関する融資条件の改善,新鉱床探査補助制度の拡充による海外鉱山開発の促進,(2)国内鉱山開発の積極的推進が必要である。1980年代前半において,金属鉱業事業団が新規鉱床をつぎつぎと発見しているのは先行きにある程度の明るさを感じさせる。たとえば岐阜県の三井金属鉱業神岡鉱山内の鉛・亜鉛鉱床,同じく三井金属鉱業の飛驒地区の鉱区における銀を含む鉛・亜鉛の高品位鉱床,秋田県の北鹿北地域の同和鉱業の鉱区の黒鉱鉱床などがそれである。そのほか鹿児島県の北薩の金鉱床(住友金属鉱山の菱刈金山)も発見された。

 とはいえ非鉄金属部門の採算は不安定かつおおむね低調なため,非鉄金属鉱業会社は,各社ともガリウムヒ素,磁性材料等の新素材,電子材料分野を積極的に拡充し,非鉄金属部門の市況悪化に耐えられる体質強化に取り組んでいる。
軽金属工業
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「非鉄金属鉱業」の意味・わかりやすい解説

非鉄金属鉱業
ひてつきんぞくこうぎょう
nonferrous metal industry

一般的には,非鉄金属を含む鉱石の採掘,選鉱,さらに地金の精錬,2次加工を行う産業をいう。自山鉱と買鉱とを精錬する企業と,鉱石を売るだけで精錬所をもたない企業とがある。工業用基礎原料として重要であるため,非鉄金属に対する需要は旺盛で,アルミニウム,銅など地金精錬では日本は世界的水準にある。近年の傾向としては,単鈍買鉱から融資買鉱へ,さらにコンゴ民主共和国,ペルーなどにおけるように自主開発への動きが目立っている。ただ非鉄金属製品は国際性が強く,LNE (ロンドン金属取引所) の動向が大きく影響し,また,原料産出国の大半が開発途上国で,需要国との間に確執の起りやすいことも見逃せない。このためレアメタルを中心に国内備蓄の対象となっている。また 1970年代に入って,イタイイタイ病などの公害問題が表面化し,公害問題や環境問題への配慮も重要な課題となっている。

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