革細工(読み)かわざいく

改訂新版 世界大百科事典 「革細工」の意味・わかりやすい解説

革細工 (かわざいく)

動物の皮は表皮と真皮からなり,革細工に使われるのはその真皮層である。真皮はなめしの工程を経ると革と呼ばれる。皮の種類となめし法によって多種多様の条件と可能性をもつ革が作られる((革))。すなわち真皮層はタンパク質一種であるコラーゲン主体とし,束状の繊維が入り組んで網状の構造となっているが,各種のなめし剤は繊維とその間隙に浸透して,それにより硬い,柔らかいなど種々の状態をもつ革を得ることができる。繊維層が独特な立体的構造であるために伸縮性があり,複雑な型になじみやすく,しかもその形を保たせることができる。また,タンパク質性繊維であるために,絹や毛と同じように,染色しやすく,吸湿性・放湿性があり,保温性にもすぐれ,肌ざわりがよい。しかし大きさが限られ,品質が均一でない弱点もあり,用途に応じて各種の加工法,多様な装飾法の発達をみた。

革の加工技術には次のようなものがあった。裁断cutting,皮削(そ)ぎskiving,縁のしまつedge finishing,異なった性質の皮を集めて製品とするassembling,縫製sewing,キルティングquilting,鋲打ちrivetting,成型mouldingである。このようなもっぱら実用的な加工からやがて革の表面をより美しく装飾する技術が生まれてきた。その技術の基本的なものには,(1)染色,捺染する。(2)金銀の箔をはる。(3)小刀で模様の輪郭線を切り込む。(4)小さな鉄製の紋型を押しつけ地模様を出すパンチング。(5)加熱した鉄製の薄浮彫の型を加圧して模様をつけるモデリング。(6)深く彫り込んだ木型を用いて彫りの深い肉づけを打ち出すことなどがある。それらの装飾には金の装飾が加えられることが多かったが,銀をはり,それに黄色のワニスを塗って金に似せることが一般に行われた。それらには革の表面を保護する意味もある。これら押出しや打出し模様の仕上げには細部に切込みや浅い彫刻のアクセントを施し,装飾を引きしめるなど,各種の装飾法が組み合わされた。

日本では古くから牛,馬,鹿の白のなめし革をもとに染韋(そめかわ)や印伝がつくられ,よろい,かぶと,鞍などの武具羽織履物,袋物などに利用された。

 前5000年のエジプトの先王朝時代にすでに皮なめしが行われ,それから衣服,サンダル,びんなどが作られていた。ギリシア・ローマ時代には革は盛んに用いられていたが,キリスト教時代に入ると,コプトの書物の革装丁(4世紀)が残されており,また聖書の写本に羊皮紙が用いられ,その4~5世紀のものが知られている。北アフリカのリビアのガダメスGhadamesはミョウバンなめしのヤギ革の生産で名高かった。それは絹のように柔らかな感触をもっていたという。8世紀,イスラム征服後のスペインで生産された同様に柔らかく美しい革はガダメシGhadameciと呼ばれたが,それがGhadamesから出ていることは明らかである。しかし,ここではヤギ革ではなく,羊革であった。リビアからもたらされたとされるこの革の技法は,スペインで豊かな発達をみた。スペイン以外のヨーロッパでは,それを〈コルドバ革〉あるいは〈スペイン革〉と呼んで珍重した。ガダメシの技法は研究者の間で四つの発達段階に分けられている。初期のガダメシは革そのものの色で白であったが,やがて赤に染められ,簡単な壁掛けやクッションに作られた。次の段階には革の表面全体に,あるいは一部に金または銀の箔をはり,さらに型を押しつけて模様を染め出したり,パンチングを施して細かな模様をつけた。第3の段階は革に金に似せて銀をはり黄色のワニスを塗った後,加熱した金属板のレリーフ型を当て,プレス機で加圧し浅い浮彫風模様を出した。また木製の凹凸の型の間にあらかじめ湿らせておいた革をはさみ,同様にプレスして,肉づけのある高浮彫の装飾を施した。最終段階には打出しembossingで肉づけのある高浮彫風の模様を作り,これに金,銀やつやのある絵具を用いて彩画を加えたりした。また以上のような技法を並用しつつ本格的な絵画も描かれた。スペインでは以上の技法を14世紀までには完成させていたが,1305年スペイン在住のイスラム系工人がオランダに移住すると,フランドル地方は革細工の中心地となった。それら豪華に装飾された革は,大型の壁掛け,いす,テーブルセンターなど調度品の表を飾るのに用いられた。このような革装飾は16世紀から18世紀までのヨーロッパで盛んであったが,その後衰退した。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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