額面増資(読み)がくめんぞうし

改訂新版 世界大百科事典 「額面増資」の意味・わかりやすい解説

額面増資 (がくめんぞうし)

株式会社は増資をするに際して新株を発行するが,新株の発行価額を券面額とする(額面発行)増資を額面増資という。これに対して,新株の発行価額を時価とする増資を時価発行増資,額面よりは高いが時価よりは低いある価格にする増資を中間発行増資という。証券市場に上場している会社のほとんどは券面額を50円と定めている。上場株式の時価はおおむね券面額を上回っているので,額面増資は新株の引受人に有利な増資である。株主以外の者にとくに有利な価額で新株を発行することを強く制限している商法の規定(280条ノ2)により,額面増資は株主割当増資となるのが通例である。額面増資を取締役会で決議した会社は,新株引受権を有する株主を確定するために割当日を定め,その日の2週間前にその旨(新株引受権を譲渡できるようにするときはその旨)を公告しなければならない。株主が確定すると,各株主に対して割当株数,引受権譲渡の内容等,および一定の期日(申込期日)までに申込みをしないときは引受権を失う旨の通知(失権通告)をしなければならない。証券取引法上の届出や発行日取引等の諸手続を考慮すると,株主割当額面増資に要する日数は150日ほどになり,公募による時価発行増資の所要日数(100日ほど)に比べると相当長くかかる。

 株式の流通市場では株主割当日の4日前に新株引受権権利落ちがある。権利落ち後の理論株価は(50円額面の場合),
   (P0=新株引受権付株価,i=割当率)

となる。会社が新株引受権証書を発行し取引所がその取引を認めた場合には,希望する株主は新株引受権の取引ができる。また未発行の増資新株も,発行会社の上場申請手続がとられ取引所が上場承認した銘柄については,権利落日以降発行日決済取引(〈普通取引〉の項参照)により取引が行われる。明治以来の慣行で長年額面増資が続いてきたが,時価発行増資等の盛行と反比例し,額面増資は近年著しく減少している。
新株発行 →増資
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の額面増資の言及

【増資】より

…株主割当増資の手順は,(a)取締役会で増資を決議,(b)一定の日(割当日)を定め,その日の株主名簿に記載されている株主に対し所有株数に応じて新株を割り当てる,(c)一定期日(株式申込期日)までに株式の申込みをしないときは新株引受権がなくなる旨を株主に通知し,(d)申込期日までに申込みのなかった株式および割当ての結果1株未満の割当不能の端数株式は切り捨てることができるが,通常は公募の方法で株金を徴収し全額の払込みが完了する。新株式の発行価額は額面株式においては額面金額を下回ることができないので,額面価額にする(額面発行という)ことが一般的であるが(このため額面増資という言い方もある),最近では額面価額と時価の中間価額で発行する中間発行増資もある。 公募増資(時価発行増資)は,時価を基準に発行価額を定め,株主を広く公募するものである。…

※「額面増資」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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