顕示選好(読み)けんじせんこう(英語表記)revealed preference

日本大百科全書(ニッポニカ) 「顕示選好」の意味・わかりやすい解説

顕示選好
けんじせんこう
revealed preference

伝統的な消費者選択の理論においては、効用関数前提にして需要曲線を導出する。しかしながら、効用関数は個人の主観的な満足度に基づいているため、直接観察したり計測したりすることは不可能である。これに対して、現実市場で与えられる価格、数量などの客観的なデータを通して消費者の選択行為の合理性を設定し、それによって消費者行動の法則性を説明しようとするのがP・A・サミュエルソンによって創始された顕示選好の理論である。

 いま2財X、Yの価格が(P0X, P0Y)のときに消費者は(X0, Y0)の財の組合せを購入し、別の価格(P1X, P1Y)のときに別の財の組合せ(X1, Y1)を購入したものとしよう。このとき、
  P0X・X0+P0Y・Y0≧P1X・X1+P1Y・Y1 (1)
が成立したならば、
  P1X・X1+P1Y・Y1<P1X・X0+P1Y・Y0 (2)
がかならず成立しなければならない。これがサミュエルソンの「顕示選好の弱公理」である。もし(1)が成立したならば、財の組合せ(X0, Y0)と(X1, Y1)では前者のほうが高価である。このとき消費者は両方の組合せが購入できたにもかかわらず前者を選択したのであるから、(X0, Y0)が(X1, Y1)よりも効用水準が高いことを顕示revealしている。それにもかかわらず、価格が(P1X, P1Y)のとき(X1, Y1)を購入したことは、(X0, Y0)はコストが高くて購入できなかったことを、すなわち(2)が成立することを意味しなければならない。

 この「顕示選好の弱公理」を使用すれば、代替効果は負であること、需要関数は一次同次であることなど、消費者選択理論の多数命題を導き出すことができる。

[畑中康一]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「顕示選好」の意味・わかりやすい解説

顕示選好 (けんじせんこう)
revealed preference

消費者の消費支出行為のうちに顕示される消費者の好みのことをいう。ここで消費者の好みというのは,ある内容の消費がどのような内容の消費よりも選好されるかについての消費者の好みを指す。この概念は,価格および所得の変化が消費者の消費行為における選択をどのように変化させるかを説明する理論を,市場で観察される事実のみを基礎として組み立てようとする試みから生じた。消費者は,同じ予算の範囲内で選択しうるさまざまな消費内容のなかから,自分が最も好むものを実際に選択して消費支出行為のうちに顕示するという判断を前提としている。この判断のもとでは,消費者の選好の順序は,一種数量指数に基づいて判定される。たとえば,ある一つの価格体系のもとで消費者が実際に選択する消費内容をA,Aとは異なるもう一つの消費内容をBとしよう。いま,その価格体系のもとでAおよびBに要する支出総額をそれぞれ算定して後者の前者に対する比をとると,それはAを基準とするBのラスパイレス数量指数になる。この指数が1を超えないならば,この消費者はAをBよりも選好するといえる。なぜなら,Bは,この消費者がAを選択した価格体系のもとで,Aと同じ予算の範囲内で選択しえた消費内容であるのに,実際に選択されなかったからである。この指数が1を超えるならば,同様の推論が成り立たないから,この指数だけからではBがAよりも選好されるとは必ずしもいえない。
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