願人坊主(読み)がんにんぼうず

精選版 日本国語大辞典 「願人坊主」の意味・読み・例文・類語

がんにん‐ぼうず グヮンニンバウズ【願人坊主】

[1] 江戸時代、都市に流行した僧形乞食。時と所により種々の形態があるが、加持祈祷などをして札などをすすめた俗法師とも、人に代わって祈願水垢離などをして銭をもらって歩いた者とも、いわれる。願人坊。願人。
※正宝事録‐万治一年(1658)八月一五日「出家山伏・願人坊主の名前、帳面に仕立て」
[2] 歌舞伎所作事。常磐津。二世桜田治助作詞。三世岸沢古式部作曲。文化八年(一八一一)江戸市村座初演。市井風俗の願人坊主を描写したもの。三世坂東三津五郎の七変化(しちへんげ)舞踊「七枚続花の姿絵(しちまいつづきはなのすがたえ)」の一つ。昭和四年(一九二九)、六世尾上菊五郎が「浮かれ坊主」として清元で復演した。

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デジタル大辞泉 「願人坊主」の意味・読み・例文・類語

がんにん‐ぼうず〔グワンニンバウズ〕【願人坊主】

江戸時代、門付けをしたり、大道芸能を演じたり、人に代わって参詣・祈願の修行水垢離みずごりなどをしたりした乞食僧。

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改訂新版 世界大百科事典 「願人坊主」の意味・わかりやすい解説

願人坊主 (がんにんぼうず)

頼まれた者に代わって神仏への代参や代垢離(だいごり)をする坊主の姿をした門付芸人。近世,おもに江戸で活躍し,藤沢派(または羽黒派)と鞍馬派に分かれ集団的に居住,寺社奉行の支配を受けた。1842年(天保13)の町奉行所への書上には〈願人と唱候者,橋本町,芝新網町,下谷山崎町,四谷天竜寺門前に住居いたし,判じ物の札を配り,又は群れを成,歌を唄ひ,町々を踊歩行き,或は裸にて町屋見世先に立,銭を乞〉とあり,乞食坊主の一種でもあった。その所行により,すたすた坊主,わいわい天王,半田行人(はんだぎようにん),金毘羅(こんぴら)行人などとも呼ばれ,その演じる芸能は願人踊,阿呆陀羅経,チョボクレ,チョンガレなど多種で,後にかっぽれ浪花節なども派生した。民俗芸能として関東の万作(まんさく)踊,富山県小矢部(おやべ)市に願念坊踊,秋田県南秋田郡八郎潟町の願人踊が残り,歌舞伎舞踊の長唄《まかしょ》や世話物狂言の点景人物に面影を残す。
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願人坊主 (がんにんぼうず)

歌舞伎舞踊。常磐津。1811年(文化8)3月江戸市村座で3世坂東三津五郎が七変化所作事《七枚続花の姿絵(しちまいつづきはなのすがたえ)》の一つとして初演。作詞2世桜田治助,初世勝俵蔵(のちの4世鶴屋南北)。作曲3世岸沢古式部。振付藤間勘十郎。代願をすると門付(かどづけ)をして銭をもらい歩いた願人坊主の姿を舞踊化したもの。手桶,銭錫杖を持ち,また悪玉の面をつけて滑稽,軽妙な踊りをみせる。昭和になって6世尾上菊五郎が清元節による舞踊《浮かれ坊主》として復活し好評を得た。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「願人坊主」の意味・わかりやすい解説

願人坊主
がんにんぼうず

僧形の大道芸人。依頼者にかわって代参(だいさん)、代待(だいまち)、代垢離(だいごり)をする代願人。もと江戸・東叡山寛永寺(とうえいざんかんえいじ)の支配下で、僧侶(そうりょ)の欠員を待って僧籍に入ることを願っていた者たちをさすという説もある。江戸時代には藤沢(ふじさわ)派(羽黒(はぐろ)派)と鞍馬(くらま)派の2派があり、江戸の市街地で集団生活をしていた。元禄(げんろく)(1688~1704)のころには馬喰(ばくろう)町や橋本町に住み、天保(てんぽう)(1830~44)のころには芝新網町、下谷山崎町、四谷天竜寺門前のあたりに住んでいた。判じ物、御日和御祈祷(おひよりごきとう)、和尚今日(おしょうこんにち)、庚申(こうしん)の代待、半田行人(はんだぎょうにん)、金毘羅行人(こんぴらぎょうにん)、すたすた坊主、まかしょ、わいわい天王、おぼくれ坊主(ちょぼくれ、ちょんがれ)、阿呆陀羅経(あほだらきょう)、住吉踊(すみよしおどり)などの異称があるのは、彼らの大道芸が多種多様であったことを物語る。滑稽(こっけい)、諧謔(かいぎゃく)をなし、卑俗な芸を演じたため民衆に親しまれた。門付(かどづけ)の祭文(さいもん)も語り、後の浪花節(なにわぶし)やかっぽれに影響を与え、歌舞伎(かぶき)にもその風俗芸能が取り入れられた。

[関山和夫]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「願人坊主」の意味・わかりやすい解説

願人坊主
がんにんぼうず

江戸時代の乞食坊主。代願人の坊主という意味。釈迦願人,施餓鬼願人,裸願人,「やっとこせ」などとも呼ばれた。市中を歩き回って軽口,謎,阿呆陀羅経などを唱えて米銭を乞い,また人に代って代参,代待,祈願の修行,水垢離 (みずごり) などをして生計を立てていた。

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世界大百科事典(旧版)内の願人坊主の言及

【伊勢音頭】より

…〈ヤートコセ〉という囃子ことばはその掛声のなごりである。近世以降,伊勢参りの旅人や,願人(がんにん)坊主などの下級の宗教者的芸能者の手により全国に運ばれ,《津軽願人節》《隠岐祝い音頭》など伊勢音頭系統の唄の分布はきわめて広く,各地に定着して祝唄(祝儀唄)や土搗(つちつき)唄に転用されているものも多い。【仲井 幸二郎】。…

【住吉踊】より

…茜(あかね)染の布をめぐらした菅笠(すげがさ)や茜木綿の前垂れなどにも特徴がある。江戸時代には願人坊主(がんにんぼうず)が持ち歩いて各地に流行させた。後に生まれたかっぽれ万作踊などに影響を与えている。…

【まかしょ】より

…3世坂東三津五郎七変化(しちへんげ)所作事《月雪花名残文台(つきゆきはななごりのぶんだい)》の一。当時の江戸市中を,〈まかしょまかしょ〉と叫びながら札をまき,寒参りを代行する願人坊主(がんにんぼうず)の姿を舞踊化したもの。眼目は〈ちょぼくれ〉とクドキ。…

【浮かれ坊主】より

…清元。原曲の常磐津《願人坊主》は,1811年(文化8)3月江戸市村座で3世坂東三津五郎により初演された。七変化《七枚続花の姿絵(しちまいつづきはなのすがたえ)》の一つ。…

※「願人坊主」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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