食用植物(読み)しょくようしょくぶつ(英語表記)edible plant
food plant

改訂新版 世界大百科事典 「食用植物」の意味・わかりやすい解説

食用植物 (しょくようしょくぶつ)
edible plant
food plant

人間が食用とする植物。人間の食物には,植物性食物のほかに動物性食物があり,食物連鎖をたどってゆくと動物もその基は植物を食用としている。しかし,ここで述べる食用植物とは,人間が直接食用とする植物を指す。

 食用植物の含む炭水化物,タンパク質,油脂,ミネラル,ビタミンなどは,人間の体を構成し維持するための不可欠の栄養源となっている。世界で食用とされている植物は1万種以上あるといわれ,種子,果実,花,若芽,葉や茎,地下部など植物のあらゆる部分が食用とされている。人類は狩猟採集時代から,食糧の主要な部分を植物性食品に依存していたと考えられる。

 食用植物は人間によって栽培生産されるものと,野生を採取利用するものとに大別される。栽培される食用植物を食用作物と呼び,全世界に900種類以上,日本だけでも約200種類ある。農業上では,食用作物を狭義の食用作物と園芸作物とに分けて扱っており,また工芸作物として分類されている作物の中にも,香辛料,油料,甘味料作物など食用のものも食用作物に含めることができる。

 狭義の食用作物とは,人間の主要なエネルギー源となり,主食や準主食とされるもので,おもに穀類といも類とからなる。穀類は草本植物の子実で,イネ科とマメ科の植物が中心である。イネ,ムギ類(コムギ,オオムギ,ライムギなど),トウモロコシなどイネ科の食用作物では,デンプンを主とした種子の胚乳を食べる。タンパク質や脂肪も種によって数%から十数%含まれる。ダイズ,アズキ,ササゲ,インゲンマメなどマメ科の食用作物では,種子すなわち豆を食用とする。豆は無胚乳種子であるが,種子の子葉の中にタンパク質,脂肪を多く含み,種によってはデンプンも多く含まれる。このほか,タデ科のソバ,アカザ科のキノア,ヒユ科のセンニンコクなどもデンプン質の種子をもち,穀類として扱われる。いもは,根や茎が養分貯蔵器官として肥大したもので,貯蔵物質は主としてデンプンであるが,他の多糖類のこともある。いもとして肥大する器官の種類により分類される。茎が太っていもとなった作物にはジャガイモ,サトイモなどのタロイモ類,キクイモなどがあり,根がいもとなったものにはサツマイモ,キャッサバなどがある。また,いもが,茎と根の中間的な性質を示すものがある。それはナガイモ,カシュウイモ,ダイジョなどのヤムイモ類である。そのほか,木本性で,デンプン性の果実をつけるパンノキや幹からデンプンをとるサゴヤシなども,熱帯地方ではエネルギー源となる食用作物として重視されている。

 食用とする園芸作物は,大きく野菜類と果物類とに分けられる。園芸作物には,集約的な栽培を必要とするものが多く,穀物にくらべると貯蔵および運搬性が悪い。おもに,副食や惣菜として食用とされ,ビタミン類やミネラルなどの栄養素を人間に供給する。野菜類は食用とする部分に従って,果菜類,根菜類,葉菜類,茎菜類,花菜類に分ける。果菜類は,草本植物の果実をおもに食用とする野菜で,ウリ科(キュウリ,スイカ,カボチャなど)とナス科(ナス,トマト,ピーマンなど),マメ科に属するものが多い。マメ科では,インゲンマメやササゲ,フジマメなどは若莢(わかざや)を,またダイズ(枝豆)やソラマメの未熟な種子を野菜として食用にし,エンドウは若莢と未熟種子の両方を利用する。根菜類は,植物学上の根だけでなく,地下茎や塊茎,鱗茎などを含めた地下の部分を食用とする野菜で,食用作物としても扱われるいも類も,惣菜として食べる場合は根菜類となる。アブラナ科のダイコン,ハツカダイコン,カブなど,セリ科のニンジンなど,キク科のゴボウなど,ユリ科のタマネギ,ラッキョウ,シャロットなどが含まれる。また,ハス(スイレン科),チョロギ(シソ科),クワイ(オモダカ科),オオクログワイカヤツリグサ科)なども根菜類として扱われる。葉菜類は葉を食用とする野菜で,種類が多い。アブラナ科(キャベツ,ハクサイなど)を中心に,セリ科(セリ,ミツバ,パセリなど),キク科(レタス,フキなど)に属するものが多いが,ほかにアカザ科のホウレンソウオカヒジキ,ユリ科のニラやネギなども含まれる。茎菜類は茎を食用とする野菜で,コールラビ(アブラナ科),ウド(ウコギ科),アスパラガス(ユリ科)などのほか,たけのこ類も含まれる。花菜類は花を食用とするもので,カリフラワー,ブロッコリー(アブラナ科)やアーティチョーク(キク科)などがある。

 果物類は,おもに木本性植物の果実を食用とするもので,かたい殻に包まれた種子を食用とするナッツの類も含まれ,数多くの種類がある。他の作物が大部分加工,調理されて食用に供されるのに対して,生食が一般的である点に特徴がある。日本で栽培される果物には,バラ科のリンゴ,ナシ,マルメロ,ビワ,サクランボ,アンズ,モモ,プラム,ウメ,イチゴなど,ミカン科のウンシュウミカン,ナツミカン,イヨカン,ハッサク,ユズ,スダチなどのほか,ブドウ(ブドウ科)やカキ(カキ科)などがある。また,ナッツ類には,クリ(ブナ科)やクルミの類(クルミ科)などがある。日本ではほとんど栽培されていないが,かなりの量が輸入されている果物には,スイートオレンジグレープフルーツ,レモン(ミカン科)などのほか,熱帯果物のマンゴー(ウルシ科),バナナ(バショウ科),レイシ(ムクロジ科),パパイア(パパイア科)などがある。また輸入されるナッツ類には,アーモンド(バラ科),ピスタシオ,カシューナッツ(ウルシ科)などがある。

 工芸作物の中にも,人間の食用になるものがたくさんある。すなわち油料作物には,アマ,ゴマ,ワタ,ヒマワリなど食用油が得られるものが多い。クズウコン,カタクリなどデンプン・糊料作物の多くからとり出したデンプンやマンナンは,加工して食用にされる。サトウキビサトウダイコンなど甘味料作物から得られる砂糖やシロップも,食物にかかせない。またニクズク,シナモン,コショウ,チョウジ,ウイキョウなど多くの香辛料作物は,食物に香味をつけ,食欲を増し,食事を楽しくさせる効果とともに,古くは医薬品や防腐剤の役割ももっていた。チャ,カカオ,コーラなど嗜好(しこう)料作物でも飲物としたり,菓子として食べるものが多く,またチューイング用も食用に準じたものと見ることができる。

 一般的には栽培されないが,昔から食用としている植物もある。野生する樹木で,その果実が食用となるものだけで3000種以上と推定され,いもなどの根部や葉,茎を食べるものも加えると,その種類は世界中でおよそ5000種以上はあるものと見られている。これらの植物が栽培されないのは,文化的に農耕が発達しておらず,もっぱら採集によって生活を営んでいる場合と,農耕は発達しているが,食生活習慣から,あるいは農耕技術上の困難さから栽培されない場合とがある。熱帯地域には,原住民によって利用されている野生のいも類,果物類が多い。また温帯においても,アメリカインディアンアメリカマコモワイルドライス)の種子を食用とするとか,日本でも昔から野生のヤマノイモが採集利用されているなどがその例である。これらの場合,現状を維持するためにある程度環境を保護することはあっても,植物の人為的繁殖や生育管理は行われていない。

 日本では山菜として多くの野生植物が採集され,食用として利用されている。その種類はおよそ300種ほどもある。山菜は古代から栽培食用植物を補う形で食用とされ,飢饉のときばかりでなく,山村ではつい最近まで重要な日常の糧であり,惣菜であり,菓子であった。今日でもその嗜好は失われていない。山菜はおもに多年生で,畑に栽培しにくいことなどのほか,作物化することが困難な特性をもった植物である。山菜のうち,果実やいもが主食の増量あるいは代用となったものに,トチ,クリ,ハシバミ,シイ,カヤ,ヒシ,ヤマノイモ,ウバユリ,ホドイモ,クログワイなどがある。青物として食べられる山菜には,アケビ,ウコギ,ウド,オケラ,ガガイモ,カンゾウ,ギョウジャニンニク,クサソテツ(コゴミ),シオデ,ゼンマイ,ヨモギ,ワラビなどがある。古くは山菜として利用されていたものが栽培化され,現在では野菜となったものに,フキ,セリ,ミツバ,ウド,サンショウ,ワサビなどがある。近年栽培化された,あるいは栽培化されつつあるものに,アサツキ,アシタバ,オオバギボウシ,オカヒジキ,ジュンサイ,タラノキ,ハマボウフウ,モミジガサ,モリアザミなどがある。

 欧米諸国でも,日本の山菜に似た野生植物の利用は,日本ほどではないがかなり行われている。ヨーロッパ人の生活に,野生のヒースの果実やノイチゴ類は,ジャムの原料として不可欠である。アルプスなど山岳地帯の人々は,春の山野に萌える山菜を好んで利用している。

 藻類は,アサクサノリのように栽培的に生産されるもののほかは,利用はすべて採集による。緑藻類(ヒトエグサ,スジアオノリ,カワノリ,クロレラなど),褐藻類(モズク,マツモ,マコンブ,ミツイシコンブ,トロロコンブ,ワカメ,ヒジキなど),紅藻類(アサクサノリ,スサビノリ,チシマクロノリ(岩海苔),フクロフノリ,マフノリなど),ラン藻類(スイゼンジノリ,カワタケなど)がある。

 菌類のつくり出すキノコも食用として重視される。現在市場に出回っているシイタケ,エノキタケ,ナメコ,ヒラタケ,マイタケ,マッシュルーム,フクロタケなど,大部分のものは栽培されたものである。しかし,マツタケやホンシメジのように,食品としてすぐれているが,まだ技術的に栽培できないものもある。おもに採集によって食用とされるものには,ハツタケ,コウタケ,ナラタケ,タマゴタケ,キクラゲ,アラゲキクラゲ,アミタケ,ホウキタケ,シャカシメジなどがある。

 海藻類やキノコ類は外国においても採集食用とするが,日本人はとくにこれらへの嗜好が強く,食用の種の数が多いのが特色である。

狩猟や採集をしながら移動生活をしていた人類が,一定の場所にとどまって定住を始めたことが,食用とする植物の栽培を知るきっかけになったといわれる。それは,今から約1万年前のことらしいが,以来,農耕文化を発達させながら,人間は食用作物の種類を徐々に増やし,生産量も増加させた。食糧の確保ができるようになると,人口も増やすことができ,こうして栽培の発達がやがて古代文明の発生の基盤となったと考えられている。新石器時代に形成されたいくつかの農耕文化圏は,その地域の気候的環境と植生などの特色の影響をうけて,それぞれに特有の主要作物群を栽培化した。それはとくに優秀なイネ科の穀物を中軸にして,それに随伴するマメ科作物や野菜類などからなるものが多い。メソポタミア文明およびエジプト文明は,食用植物としては,地中海気候に適応した冬作型のコムギ,オオムギを中心に,エンドウやソラマメなどのマメ科作物を伴う。食べ方はおもに粉にして焼く。あとでは発酵の過程を含んだパンを作る技術を生みだした。

 インドの古代文明の中軸食用植物は,西部はおもにアフリカ起源の穀物や西からのムギ類など,東部はインド北部~中国雲南省が起源と考えられている夏作型で高温を必要とするイネである。そしてリョクトウその他のマメ類が穀物と組みあわされた。中国の黄河文明は西から伝播(でんぱ)したコムギのほかにアワ,キビ,ヒエなどの夏作型の雑穀をも含めて,これにマメ科食用植物のダイズを伴った。インドや中国では種子を粒のまま煮炊きして食べる方法をとった。中南米の古代マヤ文明やインカの文明の主食糧は,イネ科ではトウモロコシであり,これにジャガイモやサツマイモ,カボチャ類が加わった。そしてマメ科植物としては,ラッカセイやインゲンマメなどがあった。
有用植物
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の食用植物の言及

【有用植物】より

…このようにすべての緑色植物は,人類生存の基盤を形成しているという点で,有用である。
【食糧としての植物】

[食用植物]
 人類が農耕を開始する以前,人類は野生の植物を広く採集利用していたにちがいない。農耕を知らなかったアフリカのピグミーやマレーシアの山地民の利用可能な植物についての具体的で詳細な知識体系は,農耕開始以前における人類の食用植物に対する知識の蓄積が,いかに多かったかを知らせてくれるものである。…

※「食用植物」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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