高橋克彦(読み)タカハシカツヒコ

デジタル大辞泉 「高橋克彦」の意味・読み・例文・類語

たかはし‐かつひこ【高橋克彦】

[1947~ ]小説家。岩手の生まれ。浮世絵研究家として美術館に勤務した後、執筆活動に入る。江戸時代に対する深い知識を生かした時代物推理小説の他、怪奇小説SFミステリーなどを幅広く手がける。「あかい記憶」で直木賞受賞。他に「写楽殺人事件」「総門谷」「ほむら立つ」など。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「高橋克彦」の意味・わかりやすい解説

高橋克彦
たかはしかつひこ
(1947― )

小説家。岩手県釜石市生まれ。小学生の頃に江戸川乱歩を読み、その妖(あや)しい世界に魅了される。中学に入ってからは演劇部に所属、中学3年のときに初めての戯曲「あいつ」を執筆。高校に入学してからも演劇熱は冷めず戯曲を発表しながら、同時に文芸部にも所属する。初めての小説「ミコとデイト」を書いたのもこのころで、ミコとは当時人気絶頂だったアイドル歌手弘田三枝子(1947―2020)の愛称。大学は医学部を目ざすが、4浪して早稲田大学商学部に入学する。浪人中も同人誌『異端』『青鞜派』などを創刊し、毎号短篇を掲載していた。それらはのちに『聖夜幻想』(1997)に収録される。1970年(昭和45)「ぼくらは少年探偵団」を『小説現代』新人賞に応募。これは高校時代のヨーロッパ旅行の思い出を核にした作品だが、三次選考まで残るも最終候補には至らなかった。その後は浮世絵研究に没頭。大学卒業後『浮世絵鑑賞事典』(1977)を刊行、翌1978年から郷里岩手県のアレン短期大学で非常勤講師となる。

 高橋克彦の文学熱が再燃したのは、1982年、江戸川乱歩賞を同郷の中津文彦(1941―2012)が受賞したことに刺激を受けたのが直接のきっかけだった。彼はまず歴代の受賞作をすべて読み、傾向と対策を練る。奇を衒(てら)わず自分の得意なテーマに絞ること。目先を変えるため図版や時刻表などを挿入すること。殺人のない受賞作は一つとしてない。謎解きの興味とは別に、主人公の苦悩をじっくり描くのも重要。狭い小説にならないよう舞台を広げていく必要もある……といった注意事項を頭に入れ、物語を書き始めたのだった。そうしてでき上がった作品『写楽殺人事件』(1983)は、第29回江戸川乱歩賞を受賞。ここに高橋克彦の文壇成功物語がスタートする。

 受賞後、『河北新報』で連載を開始した『総門谷(そうもんだに)』(1985)は、10年以上も温めていた題材で、資料も創作メモもしっかりと作っていた伝奇SFであった。作者もこれを書くために作家になったのだと述べ、結局この一作では終わらずにシリーズ化されていく。本作により吉川英治文学新人賞を受賞。また浮世絵ミステリーの第二作『北斎殺人事件』(1986)で日本推理作家協会賞を受賞する。『緋(あか)い記憶』(1991)で第106回直木賞、『火怨』(1999)で吉川英治文学賞を受賞と、以後、ミステリー、SF、怪奇、冒険、時代・歴史小説とジャンルを超越した活躍を続けている。古代から世界に伝わる牛と竜の伝説を、神=宇宙人の観点から捉えた壮大なスケールの伝奇SF『竜の柩(ひつぎ)』(1989)、『新・竜の柩』(1992)、『霊の柩』(2000)のシリーズ、幼い少女の内に江戸の天才人形師の魂が住みついた『ドールズ』(1987)、『闇から覗く顔』(1990)、またNHKの大河ドラマのオリジナル原作『炎(ほむら)立つ』(1992)をはじめ、東北(蝦夷)に対する従来の誤った歴史観を覆す『風の陣』(1995)、『天を衝(つ)く』(2001)など、話題作にはことかかない。

[関口苑生]

『『聖夜幻想』(幻冬舎文庫)』『『火怨』『天を衝く』『浮世絵鑑賞事典』『写楽殺人事件』『総門谷』『北斎殺人事件』『炎立つ』(講談社文庫)』『『緋い記憶』(文春文庫)』『『竜の柩』(ノン・ポシェット)』『『ドールズ』『闇から覗く顔』(角川文庫)』『『風の陣』(PHP文庫)』『『新・竜の柩』『霊の柩』(ノン・ノベル)』

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「高橋克彦」の解説

高橋克彦 たかはし-かつひこ

1947- 昭和後期-平成時代の小説家。
昭和22年8月6日生まれ。独学で浮世絵を研究し,美術館勤務をへて,平成4年郷里岩手県のアレン短大教授。昭和58年「写楽殺人事件」で江戸川乱歩賞,62年「北斎殺人事件」で日本推理作家協会賞,平成4年「緋(あか)い記憶」で直木賞。12年「火怨(かえん)」で吉川英治文学賞。23年日本ミステリー文学大賞。時代推理もの,現代怪奇ものに独自の発想を展開する。25年歴史時代作家クラブ賞実績功労賞。早大卒。作品はほかに「広重殺人事件」「総門谷」など。

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