鰐口(読み)わにぐち

精選版 日本国語大辞典 「鰐口」の意味・読み・例文・類語

わに‐ぐち【鰐口】

〘名〙
※信長公記(1598)三「信長公を差付、二つ玉にて打ち申候。されども天道昭覧にて御身に少づつ打ちかすり、鰐口御遁れ候て」
② 恐ろしい人のうわさ。恐ろしい世間のうわさ。
浄瑠璃・心中天の網島(1720)上「神にはあらぬ紙様と世のわに口に乗る斗」
③ 鰐の口のような形。また、そういう、横長に口があいたような形のもの。
※唐人お吉(1928)〈十一谷義三郎〉二「下の間口の鰐口(ワニグチ)に薄暗く開いた船宿へゆき」
④ 人の口の横に広いのをあざけっていう語。
※虎明本狂言・今参(室町末‐近世初)「口が又ひろいは、鰐口で候もの」
神殿仏殿の前の軒先などにつるす鉦鼓を二つ向き合わせた形の鋳銅製の鈴。下辺に横長の口がある。別に前に垂らした、布などを編んだ緒で打ち鳴らす。金口。金鼓(こんく)。実例は松本市出土の長保三年(一〇〇一)銘の遺品が古く、鰐口の称は、永仁元年(一二九三)宮城県大高山神社の鰐口銘文に見える。〔文明本節用集(室町中)〕
田舎教師(1909)〈田山花袋〉一三「蓮正寺の近所で、お詣(まゐり)の鰐口(ワニグチ)の音が終日聞える」
⑥ 鞍の山形の下部、背挟みの上部のくり込んだ部分の称。すはま。みいれ。〔名語記(1275)〕 〔武用弁略(安政再版)(1856)〕
⑦ 女陰の異称
※雑俳・柳多留‐五六(1811)「鰐口に舞はせて鈴は太鼓打
※足迹(1910)〈徳田秋声〉七三「お庄が切符を買ふと、芳太郎も鰐口から金を出して」

がっ‐こう ガク‥【鰐口】

〘名〙
① 神殿や仏殿の軒先などにつるす円形・中空で、下方が横長にさけている銅製の具。その前につるした太い緒で打ち鳴らす。わにの口。わにぐち。〔新令字解(1868)〕
② わにの口。非常に危険な状況に陥ることのたとえ。
信長記(1622)三「天眼くらからず神明加護をなすゆへにや、かかる鰐口(ガクコウ)虎兕の舌をもまぬかれたまひけるとかや」

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デジタル大辞泉 「鰐口」の意味・読み・例文・類語

わに‐ぐち【×鰐口】

神社仏閣の堂前に、布を編んだ太い綱とともにつるしてある円形の大きな鈴。中空で下方に横長の裂け目がある。参詣者が綱を振って打ち鳴らす。
人の横に広い口をあざけっていう語。
「頭の禿げ上がった―の五十男に」〈荷風つゆのあとさき
がまぐち。
「芳太郎も―から金を出して」〈秋声・足迹〉
きわめて危険な場所・場合。虎口ここう
「―の死を遁れしも」〈太平記・二〉
恐ろしい世間の口。
「世の―に乗るばかり」〈浄・天の網島
馬具の鞍橋くらぼねの部分名。前輪後輪しずわの内部下縁のり形のところ。州浜すはま

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改訂新版 世界大百科事典 「鰐口」の意味・わかりやすい解説

鰐口 (わにぐち)

寺社で用いる金属製打楽器。金鼓(こんく)(金口)ともいう。鋳銅製が一般的だが,鋳鉄製のものもある。鉦鼓(しようこ)を二つ張り合わせた丸い〈もなかの皮〉のような形で,中央に撞座(つきざ)を設け,上方につり下げるための耳を両方に設け,下の半周分程度が大きく一文字状に開いている。その大きな口から鰐口と称したらしく,本堂や拝殿の長押(なげし)や梁(はり)にかけ,前につり下げた紐(鉦の緒という)で打ち鳴らす。各寺社に遺品が多く,最古の銘を有するのは長保3年(1001)銘,東京国立博物館蔵のものといわれる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「鰐口」の意味・わかりやすい解説

鰐口
わにぐち

仏教や神道で用いる体鳴楽器。金鼓,金口ともいう。丸盆を2つ合せた形状で中空となっていて,下方の継ぎ目が細長く開いている。上方に吊下げるための2つの耳があり,仏堂や社殿の軒に掛け,参詣人は布でよった太綱で打鳴らす。大小さまざまで,中央には撞座があり,その外辺には唐草文様や銘が鋳出されている。開いている口には,唇にたとえられる縁があるものもあり,その両端に目にたとえられる筒状の突起のあるものもあって,全体の形が鰐の口にたとえられることから,この名がある。多くは銅製であるが,鉄製のものもある。長保3 (1001) 年の銘がある長野県松本市出土のものが現在のところ日本最古の遺品と認められている。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「鰐口」の意味・わかりやすい解説

鰐口
わにぐち

神社や寺院の堂前、軒先に掛ける鳴らし物の一つで、金口(こんく)、金鼓(こんく)、打金(うちがね)などともいう。鉦鼓(しょうこ)を二つあわせた形に似ており、中は空洞で下方に鰐の口のような一文字の裂け目があり、前に垂らした綱で打ち鳴らす。表面には施入者名、年紀、鋳物師(いもじ)名などの銘文を刻する場合が多く、直径10センチメートルぐらいのものから1メートルを超えるものまで、さまざまな大きさのものがあるが、一般的には20~30センチメートルのものが多い。

[中尾良信]


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世界大百科事典(旧版)内の鰐口の言及

【ゴング】より

…ゴングの名称はマレー語に由来するといわれるが,この種の楽器は東南アジア一帯と中国およびその周辺で広く用いられている。日本の鉦鼓,鉦盤,伏鉦(ふせがね),当り鉦(あたりがね),双盤はすべてゴングの一種で,また金鼓(こんく∥こんぐ)の別名をもつ鰐口(わにぐち)はゴングを最中(もなか)の皮のように二つ合わせた形状を呈している。実際にゴングに分類され得る体鳴楽器の形状は,浅い円盤状,深目の盆状,鉦鼓のごとく外側へ折り曲げられた縁をもつもの,中央に瘤状の突起をもつもの,さらに深く底の広い釜を伏せたような形(頂上に乳頭状の突起をもつ)などさまざまである。…

【祭具】より

…第2の鋪設用祭具は祭場の神座をしつらえ,幣帛を包む薦(こも),食物をすえる麻簀(あさす),案・机の上下に敷物として用いる蓆(むしろ),畳,茵(しとね)などである。第3の装飾用祭具としては榊,注連(しめ),鈴(すず),鰐口(わにぐち)があげられている。榊は栄木(さかき)で常緑樹の総称であったが,後に一種の樹を特定して指すようになった。…

※「鰐口」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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