(読み)ふ

精選版 日本国語大辞典 「麩」の意味・読み・例文・類語

ふ【麩】

〘名〙
① 小麦をひいて粉にするときに出る茶色の表皮の屑。洗い粉などとして用いる。ふすま。〔文明本節用集(室町中)〕 〔説文解字‐五篇下・麦部〕
小麦粉の中の澱粉を除いたあとの麩質または麩素といわれる蛋白質で製した食品。生麩(なまふ)と焼麩(やきふ)とがある。
※虎明本狂言・宗論(室町末‐近世初)「ふ、だいごのうどめ〈略〉種々様々の物を取り調えて下さるる」
※鹿苑日録‐慶長八年(1603)四月二日「菓子すいとん。茶請麩」

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デジタル大辞泉 「麩」の意味・読み・例文・類語

ふ【×麩】

小麦粉から得られるグルテンで作った食品。生麩なまふ焼き麩とがある。
小麦の皮くず。飼料などにする。ふすま。

ふすま【×麩/×麬】

小麦をひいて粉にするときに残る皮のくず。家畜の飼料や洗い粉にする。麦かす。からこ。もみじ

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「麩」の意味・わかりやすい解説


小麦粉のタンパク質を利用した加工食品。小麦粉に水を加えてこねると粘弾性のあるグルテンが形成される。このグルテンはタンパク質で、これを取り出して加工したのが生麩(なまふ)や焼麩(やきふ)である。麩は中国の宋(そう)代の書物にみられ、これが日本に伝わったといわれている。日本では鎌倉時代からつくられ、豆腐などとともに精進料理の重要なタンパク源とされている。

河野友美

製法

小麦粉に水(小麦粉の80%)を加えてよくこねる。粘りが出てグルテンが形成したら水中でもみ洗いして、デンプンと水溶性の物質を流し出す。残ったグルテンに、糯米(もちごめ)粉などを加えて蒸したのが生麩で、グルテンに小麦粉と膨剤を加えて整形して焼いたものが焼麩である。もみ洗いして流れ出たデンプンは正麩(しょうふ)とよばれ、染物などの工芸用糊(のり)に用いられる。

[河野友美]

種類

生麩は京都の名産で、そのまま棹(さお)状にした餅麩(もちふ)以外に、花や葉に整形して着色した、紅葉(もみじ)麩、梅麩、桜麩、また、副材料を加えた海苔(のり)麩、粟(あわ)麩、よもぎ麩、小倉(おぐら)麩(アズキ入り)などがある。以上のものは棹状につくられ、切って用いる。また四季折々の懐石料理や精進料理に用いる細工麩として、手毬(てまり)麩や、野菜や果物の形にしたものがある。さらに、豆やぎんなん、野菜などを加えた煮物麩や大徳寺の利久揚げ麩など、各店や寺に特有のものがある。京都ではこのように麩が生活に欠かせないものなので、麩作り業者が集まった麩屋町通(ふやちょうどおり)(中京(なかぎょう)~下京(しもぎょう)区)が現存している。菓子では、生麩を生地(きじ)にして餡(あん)を包み、笹(ささ)の葉でくるんだ麩まんじゅうも京都の名物である。

 焼麩は全国的につくられている。形から、棒状に焼いた棒麩、板状の板麩(庄内(しょうない)麩ともいう)、棒に巻き付けて焼いた車(くるま)麩(ドーナツ状)、小さい球状の玉麩、まつたけ麩、花麩などがある。また、用途から、小型の吸い物麩、棹状の麩を切ったすき焼き麩、そのほか、観世(かんぜ)麩(渦巻状で海苔や青海苔を混ぜたもの)など、多くの種類がある。

[河野友美]

栄養

麩はコムギのタンパク質がおもな成分で、動物性タンパク質を制限する精進料理にとって重要なタンパク源となっている。小麦タンパクは必須(ひっす)アミノ酸のうちリジンがとくに少ないのでタンパク価が低い。この点は魚、大豆、肉などとあわせると栄養価が高まる。煮物、汁物、揚げ物と用途が広く、タンパク質のよい給源である。とくに消化がよく、脂肪が少ないので乳幼児食や病人食にも好適である。

[河野友美]

調理

生麩は水分が多く保存性がよくない。短時間の保存にも冷却が望ましい。煮物、鍋(なべ)物、汁物にだしを効かせて薄味に仕上げる。焼麩は一度水に浸(つ)けてもどし、水けを軽く絞って用いる。用途は生麩と同じである。

[河野友美]

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改訂新版 世界大百科事典 「麩」の意味・わかりやすい解説

麩 (ふ)

小麦粉の中からタンパク質だけを抽出してつくる食品。小麦粉を水でこね,粘りが出たところで布袋に入れて水中でもみ洗いすると,デンプンが溶出して袋の中には小麦タンパクのグルテンが残る。このグルテンをふつう〈もち麩〉といい,これを加工して各種の生麩(なまふ)や焼麩がつくられる。水中に溶出したデンプンを集めて乾燥したものが正麩(漿麩)(しようふ)で,菓子やのり(糊)の材料とされる。麩は,中国宋代の《夢渓筆談》などに〈麪筋(めんきん)〉の名で見え,これが日本に伝えられたものとも思われる。麩は,本来は小麦粉をつくるときに出る〈ふすま〉のことで,日本では唐粉(殻粉)(からこ)といった。そのふすまも麩の原料として用いられたため,麪筋は〈麩(ふすま)からつくるので麩という〉と《本朝食鑑》(1697)は書いている。日本では鎌倉時代に供御の麩を貢献した唐粉供御人(供御人)がいた。南北朝ないし室町初期にはかなり普及していたようで,《異制庭訓往来》や《遊学往来》には茶子(ちやのこ),つまり茶請(ちやうけ)の一つとして〈麩指(ふさし)物〉の名を挙げている。これは串(くし)にさした焼麩をいったもののようで,焼麩を茶菓子にした例は江戸時代にも多く見られる。京都は江戸初期から麩の産地として知られ,麩師(ふし)と呼ばれた製造業者の集住地域だったと思われる麩屋町通りの名も残っている。

 生麩は,懐石料理や精進料理にはかかせぬ材料で,もち麩にさまざまな材料を加えて成形し,蒸したりゆでたりしてつくる。もち麩にアワをまぜたアワ麩,ヨモギを入れたヨモギ麩,アズキ入りの小倉麩などは棹物(さおもの)形につくられ,もみじ麩,さくら麩などは着色して小型の棒状につくられる。季節の野菜や果物,あるいは手まりなどをかたどった細工(さいく)麩は,和菓子とともに日本ならではの美しい食品である。また,生麩であんを包み,ササの葉で巻いた麩まんじゅうは京都の名菓の一つに数えられている。焼麩は,もち麩に小麦粉や膨剤を加えて成形し焼いたもので,生麩とちがって保存性が大きい。棒に巻きつけて焼いた越後地方の車麩,板に塗りつけて焼く山形地方の板麩(庄内麩とも),渦巻形にノリやアオノリをまぜた観世麩その他がある。生麩,焼麩ともに消化吸収のよい植物性タンパク源で,煮物,わん種,なべ物の具などとして用いられる。
執筆者:

麩/麬 (ふすま)

小麦粉製造の副産物で,小麦粒から胚乳,胚芽を分けた残りの皮部が大部分であるが,少量の胚乳部も含んでいる。小麦製粉の際に20~25%の割で製造される。製粉工程から大ふすま,小ふすま,粉ふすまの3種がでるが,混合されて飼料用とする。ふすまは繊維質が多いが,表に示すように粗タンパク質,粗脂肪,ミネラル(粗灰分)などの含量も多く,飼料価値が高い。飼料としてはウシの好むもので,昔から乳牛用として重視されてきた。ふすまには一般の製粉工場でつくられるもの以外に,飼料の需給安定の政策に沿って,特定の工場で生産される専管ふすまおよび増産ふすまがある。これらは国が原料,生産と数量,価格,流通などを一貫して管理している。両者ともふすまの増産のため,ふすまの歩留りは55%と小麦粉より多くしている。
執筆者:


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「麩」の意味・わかりやすい解説


小麦粉を原料とする加工食品。日本には室町時代初期に禅僧が中国からもたらした。小麦粉に 80%ほどの水と少量の食塩を加えてよく練ると粘りが出てくる。これに水を加えながらもむとデンプンや水溶性成分が流れ出て,粘りの強い小麦蛋白質 (グルテン) が残る。さらによく水洗したものが生麩である。生麩にデンプン,もち米,小麦粉などを混ぜて焼くと,生麩中の水が蒸発するので多孔質の組織のある焼き麩になる。成形の仕方でちくわ麩など種々の名称がつけられる。蛋白質に富む食品であるが,栄養的にはリジンが不足し,良質ではない。


ふすま
wheat bran

小麦をひいて粉にしたあとに残る表皮の屑。麦かす,からこともいう。普通小麦 100に対し,22~25%の比率でできる。蛋白質,ビタミンに富み家畜の飼料とされる。

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百科事典マイペディア 「麩」の意味・わかりやすい解説

麩【ふ】

小麦粉中のタンパク質で作った食品。小麦粉に水を加えてこね,粘り気が出たものを布袋に入れ水中でデンプンをもみ出す。袋中に残ったものが小麦タンパク質のグルテンで,これを生麩(なまふ)といい,菓子や精進料理に使う。もみ出されたデンプンが正麩(しょうふ)で糊(のり)原料とする。生麩を焼いた焼麩は最も多く使われ,汁の実,煮物にする。

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【グルテン】より

…また,グルテンが含まれていない米の粉からはパンは製造できない。グルテンは日本では古くから(ふ)として利用されている。麩は小麦粉から分離したグルテンにデンプンなどを加えて焼いたもので,グルテンの網目構造に由来して細かい気泡ができている。…

※「麩」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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