黒印状(読み)こくいんじょう

精選版 日本国語大辞典 「黒印状」の意味・読み・例文・類語

こくいん‐じょう ‥ジャウ【黒印状】

〘名〙 黒色印肉で押した印影のある文書。室町時代以後武将の発行する文書に、従来花押(かおう)に代え、黒印または朱印が用いられる場合がみられ、花押のある御判物(ごはんもつ)に対し、それぞれ黒印状、朱印状と呼ばれた。江戸時代には、一般に朱印は将軍の発するものとされ(私的な文書には黒印を用いた)、黒印は諸大名が用いた。黒印。
※族祿処分録(1872)三「一社寺上地朱黒印状面の内」

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デジタル大辞泉 「黒印状」の意味・読み・例文・類語

こくいん‐じょう〔‐ジヤウ〕【黒印状】

黒印を押してある文書。朱印より略式とされた。江戸時代には朱印は将軍に限られ、諸大名は黒印を用いた。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「黒印状」の意味・わかりやすい解説

黒印状
こくいんじょう

室町期以降の武家様文書にみられる印判状(いんばんじょう)のうち、印章捺印(なついん)に黒の印肉を使用した文書をいう。駿河守護(するがしゅご)の今川氏親(いまがわうじちか)が1487年(長享1)10月20日に同国東光寺(とうこうじ)に龍王丸の幼名で出した文書が初見とされている(東光寺文書)。以後、黒印状は戦国大名によって使用されたが、同時期に使用された朱印状(しゅいんじょう)と比べると薄礼とされ、私事や軽微なときに用いられた。しかし織田信長の場合、そのような使用上の区別はみられないことが特徴である。また江戸期以降は、将軍の私的文書や諸大名、旗本の文書に使用された。

[久保田昌希]

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改訂新版 世界大百科事典 「黒印状」の意味・わかりやすい解説

黒印状 (こくいんじょう)

広義には黒印(墨印)を押して発給した文書を指す。狭義には朱印状に対置する概念として,近世において主として社寺に所領を寄進あるいは安堵するため発給した黒印状をいい,その給付地を黒印地と称した。黒印の使用例は平安時代に見られるが,盛行したのは戦国時代以降の武家文書においてである。上杉憲実(長棟)の黒印をはじめ今川氏親,武田信虎,上杉輝虎(謙信),織田信長,同信孝,徳川家康,伊達政宗らの武将は朱黒両印を使用し,北条早雲,同氏綱は黒印を用いた。また豊臣秀吉は朱印のみを使用したが,その一族はもっぱら黒印を用いている。署判は本来花押をもってするのが正式であったが,しだいに印章の使用が一般化し,花押,印章を同時に用いる場合もあった。徳川将軍家は朱黒両印を区別して使用し,10万石以下の知行宛行(あてがい)は朱印状,軽微な事項や私文書は黒印をもってした。また朱印は武士の用いるものとされ,百姓や町人は黒印を用いるのが慣例であった。
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百科事典マイペディア 「黒印状」の意味・わかりやすい解説

黒印状【こくいんじょう】

黒印を押して発給した武家文書。江戸時代,大名・旗本などが墨を用いた印判(いんぱん)を押して発行。17世紀後半ごろから朱印状は将軍のみに限られ,黒印状は諸大名が用いた。黒印状により寄進・安堵(あんど)を受けた寺社領を黒印地という。→印判状
→関連項目感状朱印地・黒印地知行

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「黒印状」の意味・わかりやすい解説

黒印状
こくいんじょう

江戸時代,墨を用いた印判を押した武家文書。中世以来,印章花押 (かおう) とともに用いられ,特に織田信長以降流行して,江戸幕府にも取入れられた。朱肉を用いた朱印状が将軍の発行した文書に限られたのに対して,黒印は旗本や大名の発行するものに用いられた。おもに寺社領の寄進や安堵に用いられ,朱印と黒印の機能的な差はなかったらしい。黒印状によって安堵された土地は黒印地と呼ばれ,年貢課役は免除された。しかし黒印状によって認められた土地は,検地によって定められた石高に応じて貢納を受取る権利と,竹木伐採の権限を公認されたにすぎず,寺社の所有地となったものではなかった。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「黒印状」の解説

黒印状
こくいんじょう

黒印の押してある印判状。戦国大名や江戸時代の将軍・大名によって用いられた。朱印状と併用した場合には,黒印状はより軽い内容の文書に使用された。

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世界大百科事典(旧版)内の黒印状の言及

【安堵】より

…なお中世武家権力を主従制的・統治権的支配の二元性においてとらえる学説が有力であり,少なくとも初期室町幕府では,安堵は足利直義の管轄した統治権的支配の中核であったが,安堵が本来そのような性格のものであったかどうかは,なお未解決な問題といえよう。【笠松 宏至】
[近世]
 江戸時代には主君から給与された所領知行は一代限りという原則のもとに,相続は許可制をとり,将軍代替りの際には判物(はんもつ)あるいは朱印状によって継目安堵が行われ,大名よりは判物や黒印状をもって行われた。朱印状によって安堵された所領は総称して朱印地というが,大名領が領分,旗本領が知行所と呼ばれるのに対し,狭義には寺社領のみを指す。…

※「黒印状」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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