黒衣(読み)クロゴ

デジタル大辞泉 「黒衣」の意味・読み・例文・類語

くろ‐ご【黒衣/黒子】

《「くろこ」とも》
歌舞伎で、俳優の演技や舞台進行の介添えをする人が着る黒い衣装。また、その人。人形浄瑠璃では、人形遣いが着る黒い衣装。くろんぼう。黒具くろぐ
表に出ないで物事を処理する人。陰で支える人。「黒衣に徹する」
大坂で、にわかが流して歩くときにかぶった黒頭巾くろずきん
[類語]後見保護

くろ‐ぎぬ【黒衣】

黒色の衣服。律令制では、家人・奴婢ぬひの衣とされる。くろききぬ。
いくさこぞりてふつくに―をかうむりて」〈崇峻紀〉
喪服。ふじごろも。くろききぬ。

こく‐え【黒衣】

こくい(黒衣)」に同じ。

こく‐い【黒衣】

黒色の衣服。特に、仏教の僧の着る墨染めの衣。また、牧師や修道女のまとう僧衣。こくえ。

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精選版 日本国語大辞典 「黒衣」の意味・読み・例文・類語

こく‐え【黒衣】

〘名〙 (「え」は「衣」の呉音)
① 黒色の衣服。こくい
※車屋本謡曲・羽衣(1548頃)「白衣黒衣(こくえ)の天人の」
僧侶法衣。一般に平凡僧の着るものとされるが、高僧でも日常は着る法衣で、ねずみ色がかった黒色のもの。転じて、出家、隠遁の意にも用いる。墨染のころも。墨染。緇衣(しえ)。こくい。
※雑談集(1305)九「親が家に黒衣(コクエ)著たる客人五十人来て」
※太平記(14C後)一一「勢ひ未だ尽きざる先に自ら黒衣(コクエ)の身と成て遁れぬ」
③ 寺僧を白衣と呼ぶに対し、寺内にありながら遁世の身を以て黒衣を着て、法会などに参仕せず、専ら世事にかかわる禅律僧のこと。
※東大寺続要録(1281‐1300頃)供養篇本「黒衣律僧等為御共

こく‐い【黒衣】

〘名〙
① 黒色の衣服。こくえ。
※花柳春話(1878‐79)〈織田純一郎訳〉一一「大に驚て車を下れば、身に黒衣を纏ふ」 〔礼記‐月令〕
② 仏教の僧侶の着る墨染の衣。こくえ。緇衣(しえ)。また、キリスト教の牧師のまとう僧衣。
※海潮音(1905)〈上田敏訳〉礼拝「勢猛に追ひ迫り、黒衣長袍ふち広き帽を狙撃す」
武官の服。転じて、王宮の衛士。〔戦国策‐趙策・孝成王〕
器物にこびりついた墨。〔医案類語(1774)〕

くろ‐ぎぬ【黒衣】

〘名〙
① 黒色の衣服。令制のもとでは家人、奴婢(ぬひ)の衣とされた。くろききぬ。
※書紀(720)崇峻即位前(図書寮本訓)「是に由りて、大連の軍、忽然に自づからに敗れぬ。軍合(こそ)りて悉に皁衣(クロキヌ)を被て、広瀬の勾の原に馳猟(かりするまね)して散(あか)れぬ」
② 喪中に着る衣服。喪服。くろききぬ。藤衣(ふじごろも)

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改訂新版 世界大百科事典 「黒衣」の意味・わかりやすい解説

黒衣 (くろご)

歌舞伎の舞台で,演技を助ける係,およびその係が着ている黒一色の特殊な衣装。俳優の背後から演技に必要な小道具を渡したり,不必要になったものを片付けたりする。後見の一つ。後見には,舞踊や歌舞伎十八番のように,紋付に裃あるいは袴をつけて顔を見せている後見もあるが,歌舞伎狂言の場合はたいてい黒衣である。黒という色は暗闇を意味し,観客からは見えないという約束のもとに存在する。いわば〈影〉の存在である。ただし,雪の場面では白い衣装の〈雪衣(ゆきご)〉,水中・海・川の場面では〈水衣(みずご)〉や〈浪衣(なみご)〉と,黒では目だつので舞台装置にあった保護色の衣装を着る場合もある。黒衣は原則として幹部俳優の門弟や下廻りの役者がつとめる。舞台の袖の幕溜(まくだま)りで若い俳優が修業のため舞台を見学している〈定後見(じようごうけん)〉も黒衣姿でつとめる。このほかプロンプターの黒衣は,狂言作者がつとめる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「黒衣」の意味・わかりやすい解説

黒衣
くろご

歌舞伎(かぶき)、文楽(ぶんらく)用語。黒木綿(もめん)の詰め袖(そで)の着物を着て、黒頭巾(ずきん)をかぶって舞台に出て、俳優の演技や劇の進行の介添えをする役の者の称。本来はその衣裳(いしょう)の名称であるが、それを着る役の称にも用いる。黒衣にはその性質上二つの種類がある。一つは、いわゆる「後見(こうけん)」の役で、舞台で演技している俳優を補助し、合引(あいびき)を出して掛けさせたり、衣裳を脱ぐ手伝いや、必要な小道具の手渡し、不要になった小道具の取りかたづけなどをしたりする。これはその俳優の弟子筋の者が勤めることが多い。いま一つは、初日が開いて以後、俳優が台詞(せりふ)を覚え込むまでの間、道具の陰にいて台詞を教えるプロンプターの役で、このほうは狂言方(今日では狂言作者)から出て勤める。黒衣は舞台に出ていても登場人物とはみなさない約束である。なお、雪の場面では白色の衣裳の雪後見、水中の場面では浅葱(あさぎ)色の衣裳の水後見、海中の場面では浪(なみ)模様の衣裳の浪後見がそれぞれ同様の役目を勤める。文楽では、「出遣(でづか)い」の場合にはオモ遣い以外の人形遣い、ツメ人形の遣い手など、出遣いと断らない場合、すべての人形遣いが黒衣を着て勤めるほか、狂言名、場割、太夫(たゆう)、三味線を紹介する口上も黒衣が述べる。文楽の黒衣は衿(えり)を赤い紐(ひも)で留める。

[服部幸雄]

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普及版 字通 「黒衣」の読み・字形・画数・意味

【黒衣】こくい

黒い服。戦国時代、趙の侍衛の臣。〔戦国策、趙四〕左師曰く、老臣の賤息舒祺(じよき)最も少(わか)くして不なり。而して臣へ、竊(ひそ)かに之れを愛す。願はくは衣の數に補し、以て王宮を衞ることを得ん。

字通「黒」の項目を見る

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百科事典マイペディア 「黒衣」の意味・わかりやすい解説

黒衣【くろご】

歌舞伎用語。舞台監督とプロンプターの役目をする狂言方や,俳優の演技の世話をする後見(こうけん)が着る黒木綿の衣服のこと。転じて,黒衣を着る役目の人そのものをさす。
→関連項目プロンプター

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「黒衣」の意味・わかりやすい解説

黒衣
くろご

歌舞伎の舞台進行,演技の介添えをする役。黒の着物に竹田頭巾 (亀屋頭巾) という黒い頭巾で顔を隠しているのでこの名がある。黒は,歌舞伎の約束で無を意味している。舞台で不用となった小道具を取りかたづけ,俳優にせりふをつけること,小道具を手渡すこと,衣装の着脱の手伝いなど,俳優について舞台上で目立たぬよう,手ぎわよく進行を助ける。舞台監督を兼ねた狂言作者や,俳優の門弟,ときには先輩格の俳優がつとめる。

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世界大百科事典(旧版)内の黒衣の言及

【後見】より

…衣装の着がえその他扮装の手伝い,小道具,合引(あいびき)類の受け渡し,差し金の操作などが役目で,つねに演技中の形の美しさを重んずる歌舞伎の特性の一例である。一般の歌舞伎劇では,目だたないように〈黒衣(くろご)〉と呼ぶ黒木綿の着物と頭巾をつけるので黒衣(または黒ん坊)という語が後見の俗称のように使われるが,舞踊では素顔で黒の紋付・袴を着て勤め,〈歌舞伎十八番〉など様式性のとくに強い演目では〈裃後見(かみしもごうけん)〉といって,鬘と裃をつけた扮装で勤める。後見は舞台に出ていても登場人物と見なさないのが約束であるが,演者に支障が起きたときはただちに代演できる技量のある人が勤める。…

※「黒衣」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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