黒鉛(読み)くろなまり(英語表記)graphite

翻訳|graphite

精選版 日本国語大辞典 「黒鉛」の意味・読み・例文・類語

くろ‐なまり【黒鉛】

〘名〙 (錫(すず)を「しろなまり」というのに対していう語) 鉛の異称。〔新撰字鏡(898‐901頃)〕

こく‐えん【黒鉛】

〘名〙 「せきぼく(石墨)」の化学名。〔五国対照兵語字書(1881)〕

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デジタル大辞泉 「黒鉛」の意味・読み・例文・類語

こく‐えん【黒鉛】

石墨せきぼく

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改訂新版 世界大百科事典 「黒鉛」の意味・わかりやすい解説

黒鉛 (こくえん)
graphite

グラファイト,石墨(せきぼく)ともいう。炭素Cからなる鉱物の一つで,炭素の同素体。図のように,炭素の平面形6員環が二次元的に連なった層状構造をなす。六方晶系。黒色で,金属光沢をもつ。へき開は{0001}に完全。比重2.1~2.2。モース硬度1~2。天然には変成された炭層や接触変成岩,片麻岩などの中に産する。融点は3700~4300℃だが,空気中で加熱すると500~600℃以上で着火する。原子面内をπ電子が自由に動きまわるため,電気の良導体で,比抵抗は層方向には10⁻3Ωcm程度であるが,垂直方向には約100倍である。化学的に安定で,通常の試薬には侵されにくい。また,層状構造をなすため,潤滑性にもすぐれている。電気炉用電極,電気分解用電極,ブラシ耐熱塗料黒鉛るつぼ耐火煉瓦,潤滑剤,減摩剤,鉛筆の芯などのほか,原子炉用の減速材,反射材など広い用途がある。

黒鉛は広い用途をもつため,現在では工業的に製造された人造黒鉛が使用されている。アメリカのE.G.アチソンは,1896年に炭化ケイ素SiC製造用の炉を調べたところ,炉内の最高温度になる部位にSiCが分解して黒鉛が生成していることを発見,アーク炉により人造黒鉛を製造することを考えた。このため人造黒鉛をアチソン黒鉛ともいう。用途に応じた製法があるが,成形品をつくるには,原料の炭素材料(コークス,無煙炭,カーボンブラックなどの無定形炭素)を粉砕,ふるい分けする。各粒度の炭素を配合し,ピッチタールを加えて混合し,成形機で圧縮成形する。これを800~1200℃で焼成し,つぎに黒鉛化用電気炉に入れて2500~3000℃に加熱し,無定形炭素を黒鉛にして製品を得る。原子炉用黒鉛は不純物,とくにホウ素の少ないことが必要で,高温下の塩素ガスやフレオン処理によって脱灰,脱ホウ素を行っている。
執筆者:

原子炉では,減速材,反射材および燃料体と炉心構造材として使われている。炭素原子中性子の吸収が小さく,しかも軽い(原子番号が小さい)ことから,中性子を能率よく減速させる性質をもち,減速材としては重水に次いですぐれている。エンリコ・フェルミのつくった世界最初の原子炉CP-1でも減速材として黒鉛ブロックが使われた。黒鉛は比較的安価に工業的に生産されており,機械的性質もよく,加工性もよい。また,非酸化性の雰囲気では高温特性もよいので,発電用原子炉開発の初期から重要な材料であった。原子炉用の黒鉛はホウ素など中性子吸収の多い不純物をとくに少なくするように製造されている。

 黒鉛を多量に使用する現用の発電用原子炉としては,日本には日本最初の発電炉である東海1号炉(コールダー・ホール型炉)がある。これはイギリスで開発されたもので,天然ウラン金属燃料をマグノックスという合金で被覆し,黒鉛のスリーブをかぶせた燃料体を正六角形断面の黒鉛ブリックを積み重ねて構成した炉心に入れ,炭酸ガスで冷却している。炉心には約3万個,1500tの黒鉛ブリックが使用されている。現在,開発が進められている高温ガス炉でも黒鉛が利用される。この燃料は酸化物あるいは炭化物の燃料物質を黒鉛で被覆した被覆粒子燃料である。これを黒鉛と混合してペレットとし,さらに黒鉛球の中に封入して燃料体とするものや,粒子を黒鉛と混合したものを棒状に成形して燃料棒とし,これを多数の孔のあいた大きな黒鉛ブロックの中に入れて炉心を構成するものなどがある。黒鉛は高温で中性子の照射を受けたときには安定であるが,比較的低温で照射されると内部にひずみエネルギーが蓄積し,温度を上げると急速に開放され熱エネルギーとなり,黒鉛の温度が急上昇する現象がある(ウィグナー解放)。イギリスのウィンズケールの原子炉事故(1959年10月)はこの原因による。
執筆者:


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化学辞典 第2版 「黒鉛」の解説

黒鉛
コクエン
graphite, plumbago

石墨,グラファイトともいう.炭素の同素体の一つ.天然にも,産状によってうろこ状黒鉛,土状黒鉛などとよばれるものが産出するが,無定形炭素を2400~3000 ℃ に加熱(黒鉛化)すると得られる人造黒鉛がおもである.完全な黒鉛構造にするためには3000 ℃ 以上の加熱が必要である.六炭素環が二次元的に連なった層が積み重なった層状構造をもつ六方晶系の結晶.層内の原子間距離C-C 0.142 nm,層間隔0.335 nm.層と層との結合はファンデルワールス力による.普通,うろこ状,粒状,塊状,土状などの集合晶として得られる.へき開は底面に完全.黒~鋼灰色,不透明,金属光沢をもつ.密度2.26 g cm-3(単結晶,20 ℃).硬さ1~2.融点3550 ℃,4800 ℃ で昇華する.構造上いちじるしい異方性を示す.たとえば,電気抵抗は,単結晶層方向で0.40 μΩ m であるが,垂直方向では数けた大きい.したがって,単結晶と多結晶集合体,あるいは粉末との間にはいちじるしい物性の差がある.また,構造の不完全さによっても差を生じる.とくに人造品では,原料および処理方法による黒鉛化度の差による物性上の差も生じる.耐熱性,耐熱衝撃性,耐食性に富む.電気,熱の良導体で滑性がある.化学的に安定な物質で,通常の試薬には侵されにくい.π電子と反応する原子,分子またはイオンは層間に入り込み層間化合物をつくる.空気中での着火温度は500~600 ℃ 以上.粉末を濃硫酸と強酸化剤で処理すると,石墨酸などの構造不明の物質を生じる.各種の電極,とくにリチウムイオン電池用,電動機や発電機などのブラシ,抵抗発熱体,るつぼ,耐火物,減摩剤,鉛筆などに用いられる.原子炉用減速材,反射材として利用するものは,とくに高純度が要求される.繊維状のものは樹脂補強用強化材として,航空宇宙機器,釣り,ゴルフ,テニス用具などに用いられる.[CAS 7782-42-5][別用語参照]ダイヤモンド

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百科事典マイペディア 「黒鉛」の意味・わかりやすい解説

黒鉛【こくえん】

炭素の同素体の一つ。石墨,グラファイトとも。六方晶系の結晶。普通は鱗片状,塊状,土状などで産出。黒〜鋼灰色,油脂状の感触がある。比重2.1〜2.2,硬度1〜2。へき開は完全。電気の良導体で,融点がきわめて高く(3700℃以上),酸,アルカリに不溶。電極材料,るつぼ,減摩剤,鉛筆などに使用,原子炉の中性子減速材ともされる。結晶片岩,片麻岩,ペグマタイトなどから産出。工業的には無煙炭,カーボンブラックなどの無定形炭素を電気炉などで2500〜3000℃に加熱してつくる。なお,石墨は狭義には鉱物名をさし,人工のものを含めていうときは黒鉛ないしグラファイトとよばれることが多い。
→関連項目潤滑剤ダイヤモンド

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「黒鉛」の意味・わかりやすい解説

黒鉛
こくえん

石墨

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岩石学辞典 「黒鉛」の解説

黒鉛

黒鉛化作用

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「黒鉛」の意味・わかりやすい解説

黒鉛
こくえん

石墨」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内の黒鉛の言及

【炭素】より

…周期表元素記号=C 原子番号=6原子量=12.011地殻中の存在度=200ppm(16位)安定核種存在比 12C=98.892%,13C=1.108%融点=3550℃(無定形),3550℃以上(ダイヤモンド,黒鉛)沸点=4827℃比重=1.8~2.1(無定形),3.15~3.53(ダイヤモンド),1.9~2.3(黒鉛)電子配置=[He]2s22p2 おもな酸化数=II,IV周期表第IVB族に属する炭素族元素の一つ。非金属元素としては硫黄とともに最も古く紀元前から知られている元素の一つである。…

※「黒鉛」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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